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はっけんの水曜日
 
いわし博士にインタビュー


いわし博士。素敵なネーミングだと思いませんか。

「いわし博士」とは、水産大学の名誉教授とかではなくて、新小岩にあるいわし料理専門店の名前である。

駅から少し離れたところにあるその店は、あきらかにうまそうな店特融のオーラを出しているのだが、その店名、店構えから、最初入店するのに躊躇していた。しかし入ってみるとやはりいい店で、それ以来、年に数回通っている。

通っているといっても、店の人と余計な話をするわけでもなく、静かにいわしを食べるだけだったのだが、「いわし博士」という店名の由来がどうしても気になる。そこで取材にかっこつけて、店主にインタビューしてみることにした。

玉置 豊



いわし博士という名前の由来

インタビューということで、聞きたいことはいろいろあるのだが、とりあえずはやっぱり「いわし博士」という名前の由来からだろう。

注文した料理を作っている店主に伺うと、「あんまり深い意味はないんだけど、人よりちょっといわしを研究しているからかな。」という答えが返ってきた。ちょっとというのは謙遜だろうが、なるほど私も小学生のころに「昆虫博士」を名乗ったことがあるけれどそれと同じ理由なのか。

しかし続けて言われた一言に膝をポンと叩いた。

「名前が博士って書いてヒロシって読む人いるじゃないですか。私は一字の博なんだけれど、そこから博士にしたんですよ。」

いわし博士は名前が博(ヒロシ)だから、博士(ハカセ)。この話が聞けただけで今日はいい酒が飲めそうである。

今日から日本三大博士といえば、お茶の水博士、水道橋博士、いわし博士で決まりだ。以下、店主のことは敬意をこめて博士(ハカセ)と呼ばせていただきます。


和風のアンがたっぷりとかかったあんかけ。
酢味噌のぬた。いわしは軽くしめてある。

いわし専門店をはじめたきっかけ

魚一種類の専門店というと、マグロとかフグ、あるいはウナギなどの高価な魚が多い。なぜ博士はあえていわしを選んだのかを聞いてみた。

博士が料理の世界に入ったのは遅く、なんと42歳の時。それまでやっていた商売に区切りをつけ、「料理が好きだから」というシンプルな理由で、浅草橋の割烹料理屋で修業を開始した。

42歳というと今の私の年齢よりもだいぶ上なので、私もやる気さえあればまだ間に合うということか。いや、あと十年待っても大丈夫。

二年間の修業を終えて自分で店を持とうと思った時に、思いついたのがいわしの専門店。お店をはじめたのは昭和62年。今でこそいわし料理の専門店も増えてきたが、その当時、いわしの専門店はほとんど存在していなかった。

その時代、いわしはたくさん獲れていたので、安くて栄養価の高い魚だったのだが、食材としての注目度はそれほど高くなかった。確かに私が子供のころはいわしっていうと安い魚の代名詞みたいなところがあった気がする。そういえば私がはじめて三枚に下ろした魚は、3匹100円のスーパーで買ってきたいわしだ。

いわしのおいしさを知っていた博士は「こんなにおいしい魚なのに、世間の評価が低いのがなんだかかわいそうでね」ということで、いわし料理の専門店をはじめたのだという。

そしてこの新小岩という地で常連客に愛されて20年以上。いわしのヘルシーなイメージから、お客さんの6割は女性なのだそうだ。

 

来たら必ず頼むつみれポン酢。ふわふわ。
梅がきいている香り揚げ。

仕入れについて

鮮度が落ちやすいいわしは、仕入れがとても肝心なので、毎日船橋や築地の市場に仕入れに出向き、全国から集まったいわしの中から、その日一番のいわしを仕入れている。ちなみに市場内でも博士で通っているので、「博士!いいいわしが入ったよ!」なんて声をかけられるそうです。

博士曰く、いわしという魚は最盛期は日本で年間500万トンも獲れていたのだが、近年は地球温暖化や商業捕鯨の禁止などの影響で10万トン程度まで急下降。一気に50分の1だ。魚偏に弱いと書いて鰯(いわし)だが、環境の変化に弱いらしい。

特に2006年は不漁で、ひどいときは市場での価格がいわし1匹あたりなんと1000円以上! そんなのいわしじゃない。

仕入れ値が上がったからといって、簡単にお店の値段を上げるわけにはいかないので、いわし専門店としては死活問題だったらしい。確かにいわしの塩焼きで1000円以上だと客としては足を運びづらい。

今はそこまで高くはないが、それでもいいいわしはそれなりに高価で、へたなタイよりもキロあたりの単価はぜんぜん高いのだ。

 

いわしの旬は初夏から夏

どんな魚でもそうだが、いわしにももちろん旬がある。博士によると俳句の季語だと秋なのだが、いわしに一番脂が乗るのは梅雨が終わって夏になるくらいの時期。

ちなみに今回伺った1月というのは旬と真逆で、もっとも脂が乗っていない時期。確かに刺身を食べてみると、味の濃さは十分あるが、正直脂のノリはいままでこの店で食べたいわしの中で、一番よくなかった。


今日でてきたいわしの刺身。小ぶりで脂が少ないが、臭みはまったくなく、身がしまった感じ。 先月食べたいわし。このときは皮と身の間に脂が乗っていた。旬の時期だとさらに脂が乗っている。

「今日は脂がないでしょう。旬の時期にまた来てください。」といいながら料理を出す博士の声にも元気がない気がする。いくら市場で一番のいわしを仕入れても、市場にいいいわしが入ってこなければ、いくら博士でもどうしようもない。

普通の料理屋だったら、いわしがだめならアジなりサバなりを仕入れればいいのだが、ここはいわしの専門店。そういうわけにはいかないので、一度揚げてから料理をしたり、塩加減を変えてみたりと、季節によって料理法や味付けを微妙に変えて対応しているとのこと。

わたしだったらいいいわしがなかったらこっそり看板を書き換えて、「アジ助手」とか「サバ男爵」とか「カニ道楽」とか節操無くやってしまいそうだ。

いわし一筋でぶれないこの店には、毎週やってきて、いわしの味の変化を楽しんでいる常連さんもいるそうです。

 

柳川風。脂が少ないいわしだったので、一度油で揚げてから調理されていた。
締めはお寿司で。

いわし料理はだいたい25種類くらい

このお店で出すいわし料理は、季節によって多少メニューが変わるけれど、常にだいたい25種類くらい。

お品書きに書かれていないメニューも多く、「ご飯ものはなにかありますか?」とか、「体が温まりそうなやつなにかください」とかいうと、なにかが出てくる。この前は「炭水化物ください」といってみたら、かば焼き丼がでてきてうまかった。

新鮮ないわしにはクセがまったくないので、どんな料理にも使える。いわしという一つの食材から様々なメニューを作れるところが、料理人としておもしろいのだという。食べる側もこれだけ種類があるといわしばかりでも全然飽きない。

これらの料理は博士が日本中を食べ歩いて研究した結果、たどり着いたメニューであり、今でもおいしい料理に出逢うと、すぐに「これをいわしでやったらどうだろう?」と考えてしまうとのこと。

コスプレイヤーさんが新作のアニメやゲームを見て、「これをわたしがやったらどうだろう?」と考えるのと一緒である。いやどうだろう。

 

キッチンで黙々と料理を作る店主。おしゃべりなタイプではない。お店にもう一人手伝いのおばさんがいるが、その人は特に「助手」とは呼ばれていない。
今の時期だと、いわし以外はカキフライがおすすめ。

いわし料理以外もちょっとだけある

いわし以外の料理は旬の食材でほんの数品。今の時期だとカキフライなんかがあって、これから暖かくなるにつれ、ホタルイカ、アサリと扱う食材が変わっていく。これらの料理ももちろんうまい。食べたことないけどうまいと言い切ってしまおう。

ただ、サイドメニューがおいしいといっても、やっぱりいわし専門店なので、青魚、生魚が苦手な人を連れてくるのは避けた方がいいと思う。前に来た時、カウンターでカップルが隣に座ったのだが、その女性が「私、生魚とかだめなんです〜」とかいっていたが、結局おいしそうにいわしの刺身を食べていた。なのでやっぱり連れてきてもいいと思う。

ちなみに博士は料理が本当に好きで、自分が食べる三度の食事も、奥さんの分までほとんど自分で作っていて、今日は帰ってからハンバーグを仕込むそうです。

いわしってうまいですよ

いわし博士とは、いわしを愛する料理人による、いわし料理だけでお腹いっぱいになれる稀有な店。

前世がペンギンとかアシカの人には、特におすすめです。

毒蝮三太夫のサイン発見!

いわし博士
住所:東京都江戸川区松島4-44-8
電話:03-3655-5561
定休:水曜日

2009.10.27 編集部追記
現在は完全予約制となっているようです。
行ってみたい! という方はまず電話で問い合わせてみてください。

 

 
 
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