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先日、タクシーに乗っていたら「お客さん、今日宝くじ買った方がいいよ」と運転手さんから言われた。何でですか?と聞くと「前に霊柩車が走ってるでしょ、そういうことは滅多にないから、宝くじも当たるんです」と言っている。バキュームカーでもいいらしい。

本当だろうか?

「私はこの後、買いますよ」

と、運転手さんは言っている。
どうやら本気っぽい。

「それに、こういうことがあった日は売り上げがいいんですよ。ツキが上がるんです」

宝くじが当たるだけじゃなく、売り上げにも影響するという。

運転手さんは、実際に当たったことがあるのか?
当たったことがあったとしたら、何等だったのか?
売り上げはどれくらい上がったのか?

色々と気になったので、もう少し詳しくその話を聞きたかったのだが、運転手さんの話題は宝くじから霊柩車にシフトしてしまった。最近の霊柩車はデザインがスッキリしているとか、昔ながらの霊柩車は高いだとか。いや、霊柩車の話は良いから宝くじの話を、と思っているうちに目的地に着いてしまった。

本当にあの運転手さんは宝くじを買うのだろうか?
そして、僕を降ろした後、長距離のお客を乗せたりするのだろうか?

やっぱり信じられない。霊柩車が前を走ることがそんなにレアなケースとも思えない。

そんなことで宝くじが当たったら苦労しない、全く根拠のないジンクスだ。

バカバカしい。


20枚買いました

バカバカしいと思いつつも、もしかしたらもしかするかも、とも思えてきて、結局20枚買ってしまった。良く考えたらタクシーに乗っていて前を霊柩車が走ってたことなんて初めてだ。それに、あの運転手さんは嘘をつくような人間に見えなかった。

と、すっかり運転手さんのジンクスにはまってしまった訳であるが、こういう話は面白い。他にも色んなジンクスがありそうだ。

調べてみよう。



(text by 住 正徳








例えばプロスポーツの世界には「2年目のジンクス」という言葉ある。1年目に活躍した選手は決まって2年目に成績不振に陥るらしいのだ。実際は、2年目もバリバリ活躍する選手も沢山いるし、その因果関係に根拠はない。でも、プロスポーツのような「勝負事」に身を置く人たちは、ジンクスを気にしがちだと思う。自分なりの縁起担ぎをしている、というような話も良く聞く。負けるまでユニフォームを洗わないとか、スパイクの紐は必ず左からしめるようにしているとか。

ユニフォームを洗わないだけで勝てるんだったら、そんな楽なことはない。ユニフォームを洗ったって勝てる時は勝てる。選手たちもそんな事は重々承知の上で、それでも自分なりの縁起担ぎを大事にしているのだと思う。勝負事には「時の運」みたいなものが大きく影響することがあるからだろう。

で、タクシーの運転手さんも「時の運」を気にしてると思うのだ。たまたま乗せた客が遠距離だったらラッキーだし、その逆もあり得る。お客を選べない分、「時の運」が売り上げに与える影響が大きいように感じる。

そんなタクシー業界のジンクスを集めてみることにした。




実際に乗ってジンクスを聞いてみる

出来るだけ多くの運転手さんからジンクスを聞き出すため、ワンメーターづつタクシーを乗り継いで行くことにした。ワンメーターの距離で運転手さんと打ち解けないといけない。これまで磨いてきたタクシー運転手さんとのコミュニケーション能力をフルに発揮していく。


1台目のタクシーを拾う

事務所の前で1台目のタクシーを拾い、まずは渋谷から表参道に向かう。渋谷→表参道→外苑前→青山1丁目、と3台のタクシーを乗り継ぎ、帰りも3台に分けて渋谷に戻る。合計6人の運転手さんからジンクスを聞ける計算だ。

1台目のタクシーに乗り込み行き先を告げ、車が動き出して少ししてから運転手さんに質問した。


最初の運転手さんに質問

「今、運転手さんのお話を集めてまして、ちょっといいですか?」

運転手さんはバックミラー越しに僕を見た。一瞬間が空いてから、「なんでしょう?」と聞き返してくれた。

住「あの、タクシー業界のジンクスみたいなもの、あります?」
運転手さん「ジンクス?」
住「ええ、前を霊柩車が走っているとツキが上がる、みたいな」
運「ああ、そういうジンクスですか」

運転手さんは少し考えてから、思い出したようにしゃべり始めた。

運「不思議なんですけどね、ワンメーターのお客の次は必ず次のお客もワンメーターなんです」



最初のジンクスいただきました。ワンメーターの次は必ずワンメーターが続く。
しかしそれは本当だろうか?

信号待ちの間、運転手さんはこの日の業務日誌を見せて説明してくれた。


業務日誌でジンクスを証明する運転手さん

確かにワンメーターが続いている。僕もワンメーターで降りる予定なので、僕の次もワンメーターのお客が乗ることになるのか?

運「ところがね、これまた不思議なんですけど、ワンメーターが4回以上続くと5回目はロング(遠距離)のお客さんに当たるんですよ」



2つ目のジンクスが出て来た。日誌によると僕は3回目のワンメーターだったので、この後ワンメーターが乗れば、その次は遠距離のお客に当たる可能性がある訳だ。

運「そういうのを、僕たちは『返し』って言ってます」

近場のお客が続いた後に遠距離のお客に当たることを「返し」と呼ぶらしい。

運転手さんは更に話を続ける。

運「これはあまり良い言葉じゃないですけどね、ワンメーターのお客様のこと、仲間内で何て呼んでるか知ってます?」
住「いや、知りません」
運「ゴミって言うんですよ。ひどい話ですけど」
住「ゴミ!」
運「だから、ワンメーターばっかりだった日とか、今日は東京都清掃局だったよ、って言ったりします」

ワンメーターで降りづらくなってしまった。

でもどうだろう? ワンメーターが4回続けば次は遠距離に当たるわけで、ここで僕がワンメーターを越えてしまったらそれが崩れてしまう。

運転手さんのジンクスを尊重して、1台目のタクシーをワンメーターで降りた。


次のタクシーに乗り継ぎます。





 

 
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