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はっけんの水曜日
 
一度に10袋のティッシュを配る人

ここが物語の舞台となる大森駅だ

 職場のある大森駅に、すごいティッシュ配りの人がいるらしい。僕も最初は半信半疑だったのだが、調査を進めるうちに接触に成功、インタビューにまでこぎ着けることができた。

 変わったティッシュ配りの裏には、独自の哲学があったのだ。

 (text by 石川 大樹



 

この辺りにいるはずなのだが…

ティッシュ配りの噂

 「駅前に、掴みきれない量のティッシュを渡そうとしてくる人がいる」。そんな噂を聞いたのは、つい先週のことだ。

 それ以来、駅前を通るときは毎日チェックしていたのだが、なかなか巡り会うことができなかった。

 

 そんなある日、お昼から帰ってきた同僚が興奮気味に声をかけてきた。

 「いま、いたよ!」と。

 食べかけのカレーパンをポケットにねじ込んで、僕はすぐさま現場に向かった。

 

素通り

いた!

 彼は、いた。

 確かに片手いっぱいにティッシュを掴み、街ゆく人に配ろうとしている青年の姿が、そこにあったのだ。

また素通り
なかなか受け取ってもらえない

 彼に出会えた興奮で舞い上がってしまったのか。次の瞬間、僕は彼に声をかけていた。


「は、はい?」少し驚いた顔でこちらに振り向く青年
その手には、1,2,3,4…10枚のティッシュ!

 しまった。声をかけてみたものの、特に用事はないのだった。

 しどろもどろになりながらも、出まかせで「ちょっと取材を…」なんて言ってみると、彼は困ったような顔をした。その後しばらく立ち話をしたが、立っているのがだるかったので、室内に場所を移した。

 

 

見てのとおり、広告の入っているのはいちばん左の一袋だけだ

たくさんのティッシュは自腹だった

 驚くべきことだが、彼が一度に配る10袋のポケットティッシュのうち、広告の入ったティッシュは1つか2つだけだという。残りのティッシュは彼が自分で購入したものだ。アルバイト先の規定により、たくさんの広告入りティッシュをまとめて配ることは禁止されているからだ。

 ではなぜ、自腹を切ってまで、彼は10袋のティッシュを配り続けるのか。

 彼は少しはにかみながらこういった。「広告入りティッシュをもらってくれた人への、ありがとうの気持ちでしょうか。」

※メディアに顔が出ると今後のティッシュ配りに影響が出るおそれがあるため、隠しています。

 

使用しているティッシュは「鼻セレブ」。ポケットティッシュの中でも高級品である

ティッシュ以外に、こんな日用品をオマケにつけることもあるという

 

ティッシュといっしょに、まごころを届けたい

お礼がお礼を呼び、10袋に

 最初、彼はティッシュを2袋だけ配っていたそうだ。

 「広告入りティッシュをもらってくれたお礼に、と思いまして、ひとつずつ自腹のティッシュをつけていたんです。でもそのうち、『自腹の方のティッシュをもらってくれたこと対しても、お礼をしなければいけないんじゃないか』、そう思い始めまして…」

 考えるうちに次第にティッシュの数は増えていき、ティッシュをもらってくれたお礼のお礼のお礼のお礼の…と、今では10袋にふくれあがってしまったわけである。

 

ティッシュといっしょに、まごころを

決意

 「4月からは、11袋でいこうと思っています。」

 窓の外を行き交う人々を眺めながら、彼は決心したようにつぶやいた。

 バイト代にも限りがあり、正直、お財布事情は芳しくない。しかし彼は真心だけを武器に、大森で、渋谷で、新宿で、今日もティッシュを配り続けるのだ。

 

いつもありがとうございます

 スギ花粉のシーズンも終わりに近づき、ティッシュの配り手にとっては厳しい季節が訪れつつある。しかし鼻炎持ちである僕のような人間には、彼らは本当にありがたい存在だ。今後も、変わったティッシュ配りの人がいたら当サイトでどんどん紹介していきたいと思う。

 

この記事はエイプリルフール企画のために作ったうその記事です

 


 

 
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