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ちしきの金曜日
 
北九州の工場がすごい


工場好きは北九州に行かなきゃいかんよ

これまでデイリーで工場の記事をいくつか書いてきたぼく。工場の写真集なんかも出していっぱしの工場鑑賞家気取りであるのだが、しかしまだまだ訪れていない工場がたくさんある。

まだ見ぬ愛しのひとよ。あなたのことを思うだけでぼくの心は千々に乱れる。

そんな未経験の工場のひとつが北九州のものだった。過日ようやく訪れる機会を得たので、その素晴らしさをお伝えしよう。

大山 顕



いきなり本気のお出迎え

ホテルに入ったら、窓の向こうにこんな風景が!

今回の旅でしょっぱなガツンとやられたのが、上の眺めだ。小倉駅のホテルにチェックインしてドアを開けたとたん、見えた景色がこれだったのだ。溶鉱炉がツインで。すばらしい。部屋はシングルだが、これは事実上の「ツインルーム」だ。

海辺のリゾートホテルなどでは、部屋の向きによって「オーシャンビュー」などと呼ばれ料金もちょっと高めだったりするが、この部屋はまさに「工場ビュー」。しかも料金は据え置き価格。良心的だ。最高の景色を求めて今後日本各地から工場ファンが押し寄せてくることが予想される。早めの予約をお勧めする。

予約の際には「工場ビューの部屋で」とお願いしてみよう。実際にホテルの方に通用する保証はないが。というか、みんなが言っているうちにこの用語が北九州における常識になればよいと思う。

 

「繁華街」の意味分かっているのか

ホテルの窓からあんなものを見せられたらたまったものじゃない。おっとり刀で窓から見えたツイン溶鉱炉へと走り出した。いや、まじで比喩じゃなくて走ったぜ。


これはかなりすばらしいロケーション。小倉は明日から日本の首都になってもかまわないと思う。


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場所はここ。小倉駅の北口の先。工場を見るために作られたようなスペースが。

小倉の繁華街は駅の南口のほうとされているようだが、それはどうしてか。ここで声を大にして「真の繁華街は北口にあり」と言いたい。南口にあるのはせいぜいおしゃれなショップやおいしい食事どころ、かわいい服を売っているお店などだ。そんなものは北口先にあるこの製鉄所鑑賞スポットにはとうていおよばない。

しかも北口から伸びるペデストリアンデッキを降りてわずか200メートルあまりで到着という、超駅近物件。日本各地の工場鑑賞ポイントが駅から遠く離れているため工場鑑賞家がたいへんな思いをしていることを考えると、驚愕の好立地である。2基の高炉、ガスホルダーのトラス構造、立ち上る水蒸気…一日中眺めていたい小倉で最も美しい風景である。不思議なことにどの観光案内にも載っていない。謎だ。しっかりしろ。


中央に構造で支えられた背の高いものがいて、その左には古風なペイントがなんともかわいらしい煙突。右にはオーソドックスなものを配置。煙突好きも大満足の品揃え。

この鑑賞スペースでは、溶鉱炉ばかりに目を奪われてはならない。その横にそびえ立つこれらの煙突もなかなかかっこいい。構造、ペイント、煙突オリンテッドな工場好きも満足間違いなしの各種取りそろえ。

手前の横に長く広がった工場との視覚的対比はお見事。きけばこの鑑賞ポイントのすぐそばから、この工場をなめるように航行する観光船が出るのだとか。乗るべきかどうしようかかなり迷ったが、今回は断念。なにせ、その船、松山まで行ってしまうのだ。

また、この高炉・煙突ビューにアプローチする手前にはこんなオードブルも。


正面に見える高炉や煙突のすばらしい風景に胸躍らせつつ近づいていくと、こんなセメント工場のオードブルが。

高炉に比べるとダイナミックさにはやや欠けるものの、この愛らしいかたまり感はセメント工場ならではの得難い特徴である。

円筒形のサイロ、絵に描いたような切妻の建築。高炉が水路を挟んだ向こう側に離れてあるのにたいし、これは間近で鑑賞することができる。寺社仏閣で言えば、本堂もさることながらその周辺にある小さなお寺などが実に味わい深いのと同じだ。

工業地域では派手なものばかりに目を奪われず、じっくりとまわりも見渡してほしい。「一匹いたら十匹いると思え」。工場もまたしかり、である。

 

やってしまった、徒歩で工業地域の悲劇

と、ここまでは駅からすぐ。体力的にも余裕の状態であった。しかし、到着したとたんのこの溶鉱炉という名の興奮剤を打たれてしまったぼくは、さながらなまはげのように「工場いねーがー」と旅立ってしまったのだ。いわゆる深追いというやつである。

クルマの免許を持っていないぼく。徒歩である。工業地域を徒歩で巡ることの危険なのだ。スケール感が普通の街とは異なる。向こうに見えるから、といって歩き出してはいけない。へいきで数キロ先ということがある。ということは長年の工場鑑賞経験で身に染みていたはずなのだが、やってしまった。

しかも疲れたと思ったら要所要所で良い感じの工場構造物が出現。さらに脚を伸ばさせる悪魔の香りである。


いかにも工業地域への道といったたたずまいの途中、水路脇にとつぜん親水スペースが出現する。そこから見えるのがこのセメント工場。円筒形のどっしりとしたサイロ、三角形に折れ曲がるパイプ群、斜めに横切るコンベア…セメント工場ならではの魅力的な造形が楽しめる。この親水スペース、場所柄当然このような工場しか見えないのだが、いったい何を意図して作ったのだろうか。よもやほんとに工場好きのためか。だとすればなんと粋な計らいか。工場の素晴らしさと共に、北九州市の懐の深さに感動する旅である。

 

その先は、北九州における最上の工場パノラマ鑑賞ポイントのひとつ。水路を隔てた向こうに魅力的な構造物を各種取りそろえ。手前にはタンク、やや奥に化学プラント系の曲線美を見せる構造物、そして奥に高炉と工場鑑賞三点セットとでもいうべき王道の風景だ。すばらしい。ぼくが訪れたこの日はあいにくの空模様だったのだが、どうしてなかなか良い具合だ。遠景が霞み、一幅の名画のような雰囲気を醸し出している。絵画界もそろそろ自然とかばかり描いてないでこういうプラント群を描いたらよいと思う。

深追いはさらに進行する。

というか、このあともこういう工場の写真しか出てこないのでその点ご了承ください。


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