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はっけんの水曜日
 
高遠ブックフェスティバル 〜「本の町」はいい感じ!〜

スタッフさんらの進行の苦労を思う

そんな大きくない町とはいえ、各所でイベントは山のように開催される(パンフレットでは35個書いてある)。2日間で、やることはいっぱいあるのだ。町の高低差もあるのだ。ストレッチしてまいりましょう。


高遠を一望。ここからの風景が好きだ。

スタッフさんによる手作り(!)の「二宮金次郎」(薪背負って本読んでるからマスコットに選ばれた)。
背中を見れば一目瞭然。大人気。

イベントには有名作家さんのトークやシンポジウム、ライブやワークショップなどが並び、すごくしっかりしていた。ややもすると固い印象のイベントととられることもあるかもしれない。だがしかしその中に、自由すぎるコーナーがあったことも付け加えたい。


町なかに現れる、謎のヤギ看板。
追って行けばとあるカフェの前に、なにやら毛の生えたものが。

ヤ、ヤギだ…。草食べて ご満足な午後。
ここは、「ヤギが手紙を届けてくれる」スポットなのである。

例の、理不尽でエンドレスなヤギの活躍を描いた童謡「やぎさんゆうびん」にちなんだ催しだ。もちろんヤギ自身が手紙を届けることはなく、スタッフさんが郵便局に後から持っていくとのことだが、記念に一筆書いて投函してみた、自宅宛に。


このために、ハガキもはんこも作成。なんて準備がいいんだろう。
この日のために借りてこられた、という顔のヤギ。

ちなみにたまに乳をしぼらないといけない。スタッフ総出。
乳出してすっきりしたヤギを連れ帰る北尾氏。どんなブックフェスなんだ。

「どんなフェスだ」と書きつつ、ヤギでページ半分費やしてしまったじゃないか。それくらいヤギは文学的だということだろう、としておこう。

文学的な生物といえば、このカフェは「きのこ文学スポット」でもあった。写真評論家でありきのこ文学研究家でもある、飯沢耕太郎氏のプロデュースである。


なんだかたのしそうだ。
きのこの本を読みつつ、この日特製のきのこカップに入ったお菓子をいただく。

町を歩くのはカップル、家族連れの他、ひとり旅とおぼしき方もたくさんいらっしゃった。フェスに来ても「ひとり」。それが「本」を媒介にすると、とてもしっくりくる気がして、誠にすがすがしい旅に思える。


余白の書き込み(「痕跡本」)を追う五つ葉文庫さんも 、古い空き商店を舞台に面白展示を展開。
「たいくつなりし本なれど 故郷は良いなあ」 ブックツーリズムとかすかにシンクロしたつぶやき。

作家・いしいしんじさんのフェス限定書下ろし小説。町内3箇所に分散して置いてあり、これまた町めぐりのいいキッカケになる。

絵本作家スズキコージさんによる山車。タイコとともに、子供らと大行進。自由だ。


本を読むとき、人は静かだ。川沿いの谷に静かな時間が流れる。その合間に、すごい山車が通り、ヤギは鳴き、トークが始まっては終わる。

ふだん本をあまり読まない私や、町の人たちもたぶん、本好きの人たちの静かな熱意にほだされて「ちょっとのぞいてみようか」と、街角の、すぐ手を伸ばせば届くところにある本棚に目を走らせる。うまく言えないが、こういうことの積み重ねでできていくのだろうか、本の町。


2日間で終わるには惜しい空間。
本の家も、終始人でごったがえす、いえ誇張でなく。

本という要素が町と出会うことによって、深呼吸しながら滞在できる場所になった気がする。なんだか今回褒めっぱなしのようだが、事実予想以上にすごく楽しかったんだから仕方がない。

そんな町の様子をもう少し。


裏通りになんともいえない蔵のたたずまい。手前の電信柱、こんなとこにもスタッフ手作りの表示が。
天女橋という橋から川っぺりを見下ろす。あんなところにもブックスポットが!

まるで自分の町であるかのように、
最後は思えてきましたとさ。

フェスも終わり、今はもう通常の高遠に戻っているはずである。本棚も一旦撤去。いずれ日常の場で使われる日のため、倉庫で待機中だ。

フェスは地元の方々にも評判がよく、また来年という声をもらっているとのこと。私も実際、町なかで聞いた。「桜の季節でなく、こんなに通りに人が、それも若い人がこんなにいるなんて初めてだわ」という声。

「本の町」を作り上げる動力として、定期的にフェスは実施していきたいそうだ。やった!また絶対来よう。

フェスもやるけれど、大切なのは地元と一緒に、日常に根付かせることだと斉木さんは言う。それが本来の「本の町」構想だからだ。

今回のフェスで、高遠と本が身近に感じられたのは、そういう姿勢がにじみ出ていたからだろう。正直うらやましくもある。人通りのめっきり少なくなった自分の故郷を思い出し、歯がゆく、もどかしいような気持ちがしたのだ。

私の夏は高遠で終わりました。

高遠ブックフェスティバル
https://takatobookfestival.org/
高遠 斉木さんの古本屋「本の家」
https://hon-no-machi.com/


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