最短ながらも充実のたぬき小路
最後に紹介するのは、横浜にあるたぬき小路。横浜といっても相当広いが、ずばり横浜駅のすぐ近くにあるというロケーションの通りだ。
駅周辺はにぎやかな繁華街で、おしゃれな店も多いようだ。そんな中に突如、狸小路は現れる。
電光掲示に「昭和が香る」とあるが、まさにここだけ何年前なんだという雰囲気がにじんでいる。写真でもわかるように、通りの入口で両手を広げてみたところ、道幅とちょうとぴったりだ。
御徒町のたぬき小路もかなり細かったが、こちらはそれをさらに上回る細っぷり。実際、気付くことができずに何度か前を通り過ぎてやっと見つけたほどだ。
少しカーブのかかった一本道であるこの狸小路、はじからはじまでは33歩だった。
普通に歩いたら一瞬で通り抜けてしまえるような距離。しかし雰囲気の密度はとても高い。小さな飲食店が軒を連ねて凝縮している。あっという間に歩き終わってしまうと、もっとこの道が続いて欲しいと感じるくらいの味わいだ。
ふらっと入ってみたくなる店が詰まっているこの通り。「のんきや」の看板にあった「焼鳥ラーメン」は、焼鳥とラーメンとが別々なのか一つの料理になっているのか気になったが、あいにく店が開いていなかった。
うまそうな雰囲気が構えからして気になったのは、「味珍」と書いて「まいちん」と読むこの店。どうやら豚料理の専門店のようだが、看板に「頭舌耳肚脚尾」と部位が羅列してあるのがインパクト大。
メニュー紹介の写真の色が褪せているのも、この通りの雰囲気になじんでいる。もともとこの手の食べ物は好きなこともあり、ここは入ってみるしかないだろう。
カウンターだけの店内で、まずは足。これは豚足として比較的よく知られているものだろうが、ここのは白く茹でてあるのでなく、醤油ベースの味付けで煮込まれている。お店の人に調合を教えてもらって酢味噌のタレを作るのもおもしろい。
そして右の写真は初体験の頭。カシラ、と読むようで、これは豚の頭の肉をチャーシューのようにしたもの。
まあもう説明するまでもなくうまいのはわかるだろう。足はプルプルコリコリ、頭はちょうどよいホロホロ具合。
メニューは看板にあったものと漬物、飲み物というシンプルさ。当日は車で来たこともあってウーロン茶を注文。出てきた缶を自分で注ぐタイプなのも、ここではなんだかうれしい。
しかも見たことのない青い缶。下に「中村カイロ協会」とあるのも謎を深めるが、味は普段飲んでいるものよりおいしく感じた。
3皿目は最も気になっていた「尾」。これは初体験。まず見て、しっぽにも真ん中に骨が通ってるんだという発見があった。
食べてみる。予想通り、そしてそれ以上かもと思わされる、問答無用のうまさ。食感は足以上のプルップル。コラーゲンだかゼラチン質だか、そういったものと味付けとが完全に一体化している。色が示す通りの醤油ベース味が、奥の奥までこれでもかとしみている。
食べ終わる頃には口の周りがテッカテカ。テカり具合同様、おなかも気持ちも満足しました。
こじんまりとしているけど、いずれも個性があったたぬき小路。バカでかいジャスコに行ったときに感じるのが鼻息の荒くなる興奮だとしたら、たぬき小路で感じるのはしっとりと落ち着きつつも、わくわくするような興奮。今後も知らない街で未踏のたぬき小路を見つけたら、ブラブラしてみたいと思います。