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ロマンの木曜日
 
ドキュメント・バス代行輸送


存在は知ってたけど見てなかった看板

先日、仕事から帰ってくると、自宅の最寄り駅がなんだか騒がしくなっていました。線路の工事のため、この駅から先で電車が部分的に運休している、とのこと。そういえばそんな看板が前から出ていたような気がするけど、ちゃんと見てなかった。

運休区間で電車の代わりに乗客を運んでいたのは、バス。それも何十台、いや何百台という数のバスが、ふだん通らない道を夜遅くに次々と行き交い、異様な光景でした。

僕はすっかり興奮して、用もないのに代行のバスに乗ってみたり、工事の様子を見に行ってみたり、翌朝の始発が無事に走るまでを見届けたりしてしまいました。

萩原 雅紀



どこの話か

今回工事の影響で運休になったのは、神奈川県と東京都の境界である多摩川に沿って走り、川崎と立川を結ぶJR南武線。東京であまり多くない南北を結ぶ路線で、山手線から放射状に延びるJR線や私鉄線と交差する駅がいくつもあり、バイパス的に使う人が多いと思います。くすんだ黄色とオレンジという郷愁を感じさせるラインカラーが、沿線に点在する競馬、競輪、競艇といった施設に向かうオッチャンたちのコンサバティブな服装と妙にマッチしています。

そんな南武線も現在高架化工事が行われていて、高架部分を造るために現在の線路を脇にずらす、というのが今回の工事内容です。



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府中本町駅から矢野口駅の間が運休(バスは分倍河原駅から矢野口駅の間で代行運転)

職場のある新宿から京王線に乗って、南武線との乗り換え駅である分倍河原に着くと、そこには駅員、警備員、そのほかよく分からない人々が大勢で、バスに乗り換えるよう大声を出していました。しかし電車はひとつ先の府中本町までは動いているようです。府中本町止まりの南武線、というのも珍しいのでこれに乗ることにして、まずはバス乗り場を見に行ってみました。


いつもは閑散としてる駅前にバスがズラリ
後ろにもどんどん続いている

うおおすごい!分倍河原でこんな光景見たことない!

この駅を利用したことのない大半の人には分からないと思いますが、いつもは閑散としている駅前のロータリーに、バスがズラリと列を作って並んでいました。そして、電車を降りた人々が誘導されて乗り込み、席がほとんど埋まった段階で次々と発車させています。立たせたりして満員にしなくても、空のバスが後ろで何台も待っているのです。

案内係の方に訊いてみると、バスは2〜3分間隔で運転しているとのこと。もう夜も更けたのに万博会場かよ、というシャトルっぷり。このプロジェクト、いったい何台のバスが使われているんだろう。

ちょうど電車が来るというアナウンスがあったので、ホームに戻って府中本町止まりの南武線に乗ることにしました。こちらも普段と違う雰囲気出まくりで、ホームの電光掲示や電車の行先表示が空白だったり、あとみんなバスに向かってしまって電車にはほとんど人が乗っていなかったり、何というか、鏡の向こう側の世界に入ってしまったような感覚でした。


何と表示すればいいか悩みに悩んだ末の「JR」
反対側は「臨時」、臨時乗ってみたい!

やってきた電車も行き先は空白
夢だとものすごく遠い場所(指宿とか)が表示されるよね

 

府中本町では

運休区間の北側の終点、府中本町駅も乗客と駅員や警備員が入り乱れていましたが、大きな混乱はなく皆バスに乗る行列に並んでいます。

ただし、この駅は南武線だけでなく武蔵野線も通っているので、武蔵野線が着くとすごい混雑になりました。僕が指揮官だったら、分倍河原駅に並んで待っているバスの何割かを持ってきてここ始発にするのにな、などと勝手に戦略を想像したりしました。


特製の看板で準備万端
分倍河原から乗ってきた人+武蔵野線から来た人で大混雑のバス

では、特に用事もないですが、空いた時間帯を狙って僕も代行バスに乗ってみることにします。


代行バス初乗車

代行バスはその名の通り南武線の「代行」なので、ふつうの停留所には停まらず、運休区間の南側の終点である矢野口駅から分倍河原駅まで、南武線の駅にだけ停まってゆきます。

どこまで行こうか考えたのですが、終点の矢野口まで行ってしまうと時間的に終バスで戻ってこられなくなりそうなので、府中本町からひとつ隣の南多摩駅まで乗ることにしました。線路の工事区間がここまでなので、あわよくば工事現場も見られるかも、という魂胆です。

府中本町駅を出たバスは、南武線と並行した道路を走りはじめました。ここはバス通りではないので、バスに乗って通る体験がすごく新鮮!それから、対向車線には分倍河原駅行きの代行バスがひっきりなしにやってきます。いったいバスは合計何台使われているんだろう。そして、ほかのバスも仕事があるだろうに、どうやって集めてきたんだろう。


タイミングを見計らって空いてるバスに乗った
代行なので通常の電車賃がかかる

ほどなくバスは南多摩駅(前)に到着。この駅、ふだんは特に何もない、どちらかというと寂しい駅前なのですが、この日は違いました。両方向から来たバスがぞくぞくと入ってきて、ぐるりと構内を一周。しかしほとんど誰も乗り降りすることなく、またそれぞれの方角に出発して行きます。利用者の少なさはふだん通りですが、バスがひっきりなしに入ってくるので、すごく賑やかな印象です。


ぞくぞくとバスが入ってくるが
誰も乗り降りせず、通過して行った

また、ここは駅前に踏切があるので、ひょっとしたら線路の切り替え工事してるところが見られるかも、と思ったのですがここからは見えず。でも踏切の周囲には警備担当、誘導担当などの人が大勢いて臨戦態勢。そこで、始発列車が切り替わった線路の上を初めて走る瞬間を見よう、と思いました。

でも、始発までまだ3時間以上あるんですが。


この踏切で見物しよう
まだ時間があるけどものものしい雰囲気

線路に下りているだけで「プロだ!」と思ってしまう
バスが終わってしまったので誘導担当は暇そう

お疲れさまです
そうこうしているうち、夜が少しずつ明けてきた

始発来ない

ようやく夜が明けてきて、もうすぐ始発が動き出す時間です。しかし、始発が通過する時刻を過ぎても、電車はやって来ません。すると踏切の警備担当者に連絡が入り、どうやら工事が遅れていてまだ電車を走らせる状況ではない模様。何てこった。始発を見送ったら帰って少しでも寝たいのに。

時刻は刻々と過ぎ、空もだいぶ明るくなってきました。


始発が通るはずだった時刻から30分も過ぎた
だいぶ空が明るくなってきた

 

始発来た!

さらにしばらく待っていると、警備担当の無線が鳴って、ついに工事が終了、始発が動き出したとのこと。しばらく無線で何かを話していましたが、ついに「電車来まーす!」との声が!続いて警報機も鳴りはじめました。

その瞬間、待ってましたとばかりに全員が一斉に動き出しました。ロープを張って車道の車を止め、周囲の安全を確認。少しして、遠くからヘッドライトがゆっくり近づいてきました。


とうとう遮断機が閉まった
全員が緊張の面持ちで迎える

始発がゆっくりゆっくり走ってきた
無事に踏切を通過

単に線路の工事のため電車を運休、その間をバスで結びますよ、というだけなのですが、それを実現するためにはものすごい数の人手とバスが必要だということが分かりました。

ルートが決まっているとはいえ、何百台もののバスを使って、一夜限りの新しい交通機関を生み出してしまったようなもので、その計画性と労力にはただ驚くばかりです。

代行マニア

高架が完成したら、今度は地上から高架に切り替える工事で、きっと同じように運休、バス代行が行われるんじゃないかと思います。そのときはまた、誰に頼まれなくてもレポートしたいなと思います。

「各停」の幕がかっこいい

 
 

 

 
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