デイリーポータルZロゴ
このサイトについて


ロマンの木曜日
 
これが男のヌンチャク人生

格闘家と呼ばず、アーティストである理由

ヌンチャクの実用度‥まぁ武器なんて使うにこしたことないんですが、もしヤクザ系Vシネの「出入りじゃー! 殴り込みじゃー!」てシーンで皆木刀や日本刀を持って行く中、1人ヌンチャクを持ってるヤツがいたら、それはもうギャグになっちゃう。でも、何か他にない実用度があるから存在したはずだし‥。


「たとえば携帯するのにも中途半端だし、扱いを間違えると自分がケガをしますしね」

−−素人が使うにはハードルの高い武器ですよね。

「だけど回すと派手に見えるでしょ?その辺が見栄っ張りなんです。そこに神秘性だったり美学を見つけたりもするんですけど‥自分はヌンチャクほどわがままな武器はないので素直に実戦とは?っていう人には素直に『おすすめしません!』っていいますね」

−−では、そういう不自由な武器でありながら有利な点は?

「まずは派手さですね。やる前に振って相手を威嚇するコンビネーションがある」

−−たしかに見た目のインパクトは飲まれるものがありますね。

「あと武器自体が鎖で繋がれてますので『脱力の世界』にいけるんです。たとえばパンチなんかでもガチガチに力を入れて打つよりも、適度に力を抜いて当てる瞬間に力を入れる方が威力があるんです。ヌンチャクはその状態を既に生み出してるんですよ」

−−なるほど!木刀みたいに一本の棒でなくて、間に鎖がある意味があるんですね。

「脱力、あと遠心力が働くので腕力のない女性でも強力な一撃が与えられます。もし女性が木刀を持って振っても、重いし力みが入るんで大きな衝撃を与えられないと思うんですけど、ヌンチャクなら振り抜けば効果的なヒットが与えられます」

−−遠心力ってのは言われるまで気づきませんでしたねー。

「非力な人でも武器として成立する、といっても実際使うとなると絶対的な筋力は必要なんですけどね。もちろん経験も。でも、そういいながらもここに木刀とヌンチャク、ナイフとか武器があってどれで闘うか?と聴かれれば、自分は間違いなくヌンチャク選びますね。負けない自信がある」


そりゃ宏樹さんほどの腕ならそうでしょう!そこで今回は披露する会場と相手がいなかったので実戦映像は撮れなかったんですが、ヌンチャクアーティストとしての試合映像をご提供いただいたのでそちらの動画をどうぞ!


こうしたプロレス興業にも参戦している宏樹さん、いわゆる格闘家のイメージからすると異色かもしれない。先に紹介した動画でも見れるようにピッチングマシーンの球を打ち返したり、シャンパンの栓を抜いたりと一歩間違えれば色物的秘技も見せている。というか、ここまで書かなかったけども衣装からして異色だし。本人曰く海外受けを意識してるのだそう。確かに!

「29年ヌンチャク一筋に打ち込んできた武闘家」というと世捨て人チックなルックスでこんな記事なんか出ることなく…といったイメージが浮かぶ。でもなぜこうした活動をしているのか?というとやはりルーツはブルース・リー。


「ブルース・リーが当時『俺はヒーローと呼ばれたいんじゃない、スーパーアクターと呼んで欲しい』と言ってたんです。そういう『演じて楽しませる』って部分に自分も思うところがありまして」

−−ただ強いだけじゃなくて。

「カメラを向けられたらカメラの向こう側の期待に応えることをしたいんですね。何をやったら喜んでくれるか?を常に考えて。ここで失敗したら喜んでもらえるな、て思ったら失敗もしますし」

−−その辺りが「ヌンチャク格闘家」とかじゃなくて「ヌンチャクアーティスト」と名乗ってる由縁なんですね。

「とにかく画面やイベントを通してヌンチャクの楽しさや感動を伝えたいんですよ。自分がブルース・リーで感動を覚えたように。相手の期待に応えてさらにプラスしたものを出したいんです」

−−自分の強さを誇示するためでなく。

「楽しさを気づかせたあとはヌンチャクをどうしたら覚えられるのか、自分が29年間やってきたことをまとめたものがあるのでそれを伝えていきたいんです」


撮影中も「こういう所で撮りませんか?」とバンバン提案してくれた宏樹さん。その辺がアーティストですな。


懐かし系のお店の前とか


ショーウインドーが居並ぶ通路とか。妙に違和感なし。


空手にも「バット折り」「ビール瓶手刀斬り」なんてありますが、あれも威力を示すというより空手を知らない人に「すげえ!」と言わせる役割は大きいでしょう。まず、その魅力を知ってもらってナンボですからね。

では知ってもらった後はどうするか?そこで宏樹さんが作ったのが「コンバットヌンチャク」というスポーツ。2005年の終わりくらいからヌンチャク指導をサークル活動として始め、2006年2月にルールや防具などを全て制定。純粋にヌンチャクをやりたい人が、ヌンチャクから始められるスポーツだ。


「空手でもヌンチャクは学べるんですけど、普通まず空手を学んでそれが出来るようになったら棒術、そしてやっとヌンチャクか…みたいな感じで、いきなりヌンチャクは学べないんです。まず空手を知らないと学ぶことが出来ないんです」

−−他の国にももちろんヌンチャク術はありますよね?それこそ中国とか。

「いろんな国にあるんですけど、指導法がどこも独特なんですよ。そこで自分が国や流派関係なく、最初からヌンチャクを学べる術を作ったんです。それも根性論ではなく理論で体得できるものを」

−−いい意味でライトな。

「でも、やはり戦いですから大事なのは振り回すのではなく最終的に相手の頭を打ち抜いて仕留めること。当てっこゲームになったらお仕舞いなんですよ。今のルールは頭にヌンチャクを当てられたら一負け、頭以外なら技あり。技ありふたつで合わせ一本です」

−−あくまでも武道だから頭打たれたら負け、と。


もちろんコンバットヌンチャク用のヌンチャクは柔らかめの素材で、試合では防具もつける。見た目ヌンチャクは軽そうだけど、練習の運動量は決して少なくはなく、女性で10kg、男性で20kg以上痩せた人もいるのだとか。そんなフィットネス効果もアリ。とりあえずあの左右の手に移し替えながら振り回す「風車回し」は入門一週間後には皆やれるようになるそうです。


これはプロ仕様。コンバットヌンチャク用はもっと柔らかい素材です。


ちなみにヌンチャクの日本最強を決める大会も毎年行われていて、その名も「コンバットヌンチャクN−1トーナメント2009」。しかもルールさえ守れればヌンチャク歴ゼロでも参加出来るという間口の広すぎる大会。以前、ヌンチャク未経験だけどハートの強いススキノのママさんが優勝したこともあるのだとか。その玉石金剛感もいい意味でヌンチャクに興味を持たせてくれます。

ということで、最初の疑問「ヌンチャクはどこで学べばいいのか」の答えにやっとたどり着いた。現状では道場は北海道と大阪のみだけど、引退するまでにはDVDや教則本という形に残したいそうです。


「これから何やりたいかというと、軸が3本あって、コンバットヌンチャクを確立して後生に伝えていく使命。それとヌンチャクの楽しさを伝えていくヌンチャクアーティストとしての使命。あと社会人として貢献することですね」

−−まだまだメジャーになる余地はあると思います。

「あと中国の交流もやりたいんですよ。今年やる予定がタイミング合わず出来なかったので。あちらでも一時は全く消え去った武器だったんですが、ブルース・リーが映画で使った事で見直されたんですね」

−−日本と変わらないんですね、その辺は。

「今の格闘技界でブラジルのグレイシー柔術が日本に柔術を持ち帰ったように、我々も完成したヌンチャク術をお返ししにいきたいというのはありますね」

−−ヌンチャクによる日中交流と。

「あとは身体が動く時に引退したいです(笑)」

−−えー!

「今ヌンチャクアーティストは2代目見習いを育成してるところです。自分はコンバットヌンチャク連盟からも名前を抜きたいんですよ、創設者として名前を残すだけで」

−−まだもったいない気もしますけどねえ。

「でも新たなネクストステージみたいなヌンチャク道場を作って、そこを加盟させたいんですよ」

−−師匠が弟子に殴り込むと(笑)梶原一騎の世界だ!


やはり、というか実際のところ身体は満身創痍という宏樹さん。上記以外にも「ゲームのモーションキャプチャーに利用できないか?」「中国のヌンチャク団体と交流戦をやりたい」など今後の夢を語っていただきました。そのエンターテイメントな部分を持ちつつパワフルで夢のある感じ…ずっと話を聞いてるとヌンチャクと宏樹さんが一心同体に見えてきました、最後の方は。

誰でも参加できる上記のN−1トーナメントが11月15日にあるらしいので誘われたんですが…。やはり記事的にはやった方がいいんでしょうけど、こんな話聞くと軽々と参加出来ませんよー!いつか教則DVDが出たら、風車回しから始めたいと思います。

普段から黒装束なわけではないです。

お忙しい中ありがとうございました!

現在は11月のN−1トーナメント2009に向けての準備に忙しいという宏樹さん。その一週間後の11月22日にはDDTプロレスリングに参戦するそうです。振り幅広いなー。

それ以外には現在発売中の月刊チャンプロード11月号ではヤンキー界の重鎮・岩橋健一郎氏との対談が掲載中。10月10日には夕張紅葉祭りに出演されるそうです。詳しくは公式サイトをご覧ください。夢にきらめけ!ヌンチャクにときめけ!


取材協力:

ヌンチャクアーティスト宏樹

世界コンバットヌンチャク連盟


< もどる ▽この記事のトップへ  

 
 

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲トップに戻る バックナンバーいちらんへ
個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.