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土曜ワイド工場
 
断食あけ、グルメコメントが上手く言いたい


今月のある日、ふと、2年ぶりくらいに体重計に乗ったら、ミラクルな数字が表示された。
「え?」
……確かに、ジーンズはちょっときつくなっていた。でも、そんなはずは。まさか、そんなはずは。
一度降りて、もう一度乗る。
「ええ?」
同じ数字。
それは、ここ5、6年で最大の数値であった。
信じられず、この夏から通っているヨガ教室の、体重計にも乗ってみた。
「えええ? 同じだ…。ヨガでちょっと痩せたと思ったのにこの体重ということは…うわああああああ!」
あまりのショックに、私はファスティングする決意をした。
ファスティング、つまり、食を断ち、野菜ジュースなど最低限のものだけで過ごし、内臓を休める行為。当然、体重も落ちる。
ど根性で、10日間ほどやって、少々体重を落とした(自己責任でやってますので、真似しないでね…)。
食を断っている間の、嗅覚はものすごいことになっていた。街を歩いているだけで、そこで何の料理が売られているのかが分かる。街は匂いに満ちている。2日目までは苦しいけれど、3日目以降は「ああ、食べものの匂いですか、私には関係ないですー」という、変なハイ状態になる。

大塚 幸代



なんとか日常生活を送っていたのだが、10日を過ぎると「食べないとヤバイ、健康を害する」と思いはじめた。
そこで、まずは回復食、おかゆを食べた。


この時のおかゆの、美味しかったこと、美味しかったこと。

思わず、あふれる自分の思いを、レコーダーに録音してしまったほど。
「…ガブガブガブっと食べてしまいそうになるのを、なんとか節制して、ゆっくり食べています。人間の欲望である食を封じると、もし歩いてて、生肉が落ちていたら、生肉でも食べちゃうんじゃないだろうかというくらい、衝動が押さえきれなくなる瞬間もありました。ですからおかゆくらいガブガブ食べてもいい気がするんですが、いきなり深水100メートルのところには潜れないように、少しづつ、浅瀬から、ゆっくり入っていこうと思います…。パックのおかゆというのは馬鹿にしてはいけない味だと思います、この切れ切れに入った、鮭がアクセントになって、塩かげんも絶妙で…やわらかい、お米のやさしさが、胃に染み渡るようで、舌の上から舌の横に、どんどん味が広がっていく感じで、どんどん身体に力がみなぎるようで、とってもおいしいです」
本当に、今までは、味がどんなふうに口に広がるのかなんて、考えたこともなかった。
レンゲを口にはこぶと、舌は、先っぽから真ん中にかけて味を感じる。味はその後、奥のほう両サイドに上がって、上あごのほうに響いていく。

そうだ、この断食あけの今だったら、苦手な「グルメレポート」も出来るかもしれない!
そう思いついて、世界各国の料理が食べられる「外語祭」に行ってみた。

といっても、どの料理も、一口食べるのが限界だなと思ったので、残りを食べてくれる友人に同行してもらった。
さあ、からっぽの内臓よ、叫べ!
(コメントは上記と同じく録音し、そのままテープ起こししました)


「アラビア語を学んでる学生さんたちの作っている、コフタケバブです。羊肉の棒状のハンバーグなんですが、ハラルミートで作ったお肉がスパイシーで、パサつきがあるかと思ったら意外とモチモチしていて、塩味がとってもビールに合って、とってもおいしいです」

「中国のダックスープ、100円です。ダックの独特の香りがむわあっと鼻にきて、後からトウガラシの辛みがピリッふわっときて、これでゴハンがあったら、一杯食べられそうで、薬味とゴハンを入れたら美味しい雑炊も出来そうで、とってもおいしいです」

「ポーランドのビゴスです、キャベツの煮物です。外国の料理なのに、食べ慣れない味なのに、とっても懐かしい味がして、すごく家庭的で、食べたらホッとするようで、副菜としていつも家にあるといいなというか、レシピがあったら作りたい感じで、とってもおいしいです」

「モンゴルの餃子、ホーショールです。羊肉のあんなんですが、羊肉がどうのというより、しばらく油であげたものを食べていなかったので、油を食べただけで、ちょっと頭がクラっとして、油って美味しいなーっていうか素晴らしいな、と思いました。と、感じつつも、普通さがいいっていうか、世界の人はみんな餃子的なものが好きなんだなと感じられて、いいなと思いました。きっと朝青龍もこういうの、食べているんだと思います。とってもおいしかったです」

「カンボジアのサムローカリーです。ココナッツの味とスパイスの味がほどよく混ざっていて、でも辛くなくて、どちらかというとスープのような、まろやかな味わいで、それがフランスパンによく合って、でも日本人としてはゴハンにかけてもすごくおいしくいただけそうで、そういうやさしい味わいが、とってもおいしいです」

「ビルマのモヒンガーです。基本、そうめんで、にゅうめんなんですが、ツナと野菜が入っている担々麺風のスープで、そうめんのまっすぐな味が、ツナ缶の油とラー油がが合わさったスープによくからまっていて濃厚で、パンチがあるっていうか、お酒の後に良さそうな感じで、とってもおいしいです」

「ポショです。ウガンダの豆の煮物なんだそうですが、アフリカの北のほうではよく食べられているんだそうです。アフリカの飢餓と、アメリカの肥満の問題を考える団体のかたから買いました。トマトの味が白豆に染みて、豆好きとしてはとってもおいしくて、ダシもきいていて、でもこれは材料と味付けがいいからであって、アフリカで困ってらっしゃる方々はこんなおいしい形では食べていないんだろうな、と想像しました。でもとってもおいしかったです」

「アラブ圏のお菓子、バクラヴァです。シナモンの味で、蜜がしみこんでいます。知識では知っていたんですが、初めて食べました。もっと、頭がキーンとなるくらい甘いという話をきいていたんですが、こちらで作られているのは、とても手作り感があって、バターの風味がフワっとして…中に入ってる…これ何だろう…くだもの? 中のリンゴか何かがとっても食べやすくて、ちょっと苦いコーヒーに合うかなーってくらいの甘さが良くて、とってもおいしいです」

「フィリピンのパンシット、焼きビーフンです。こしょうと魚醤の味が強くて、野菜と豚肉とよく合って、これ自体でシメというより、お酒のおつまみになる感じで、たいへんパンチのある味が居酒屋風で、食べると充実感があるっていうか、勝ち負けでいうところの負けになってしまうところが悔しいっていうか、でも最終的にビールに合うからいいかなって思います。とってもおいしいです」

いつもよりはマシになってるかもしれないけれど

……ぜんぜん彦摩呂っぽくはならなかった。それどころか、人気番組『シルシルミシル』の堀くん(AD)よりも上手くない感想になってしまった。
一食目のおかゆは感動して、饒舌になれたのに。ううむ…。

いまはもう、断食から完全復帰し、おかゆ&野菜を中心とした地味なメニューを食べているのだが、あんなに感動したおかゆも、たいしておいしくない。食べても何の感想もない。
またファスティングしようか。そしたらまた、食べ物が輝いて見えると思う。でも、普段から「おいしく」感じることに意味があるんだよな…。どうしたらいいのかしら。

食べたかったのに、売り切れのメニューも多かったです。しかし安かったなあ。

 
 

 

 
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