確かにそばだ、有楽町「後楽そば」
とにかく満腹なので茅場町から有楽町までまた歩くことにした。途中銀座を歩いたらクリスマスのイルミネーションがとても綺麗だった。関さんに「綺麗ですね」と言うと「そうだね」と関さんも言う。思いを寄せる部活の先輩とお使いに出かけた女子高生みたいな会話だ。
「後楽そば」は有楽町駅の改札を出てすぐのところにある。店内は縦に長く、みな一心不乱にそばをすすっている。 ただし、僕らがここで食べるそばは「かけそば」でも「もりそば」でもない。「焼そば」なのだ。
オプションの玉子がポイントだ。この周りにただで乗せ放題のネギを盛るのだ。すると、朝からロッピーの前にスタンバってやっとの思いで手に入れた、好きなアーティストのコンサートチケットのような幸せを僕らに与えてくれる。
口の中が幸せ祭り
すこし辛いネギが口のなかでアクセントとなり、焼そばの美味しさを高めてくれる。関さんも隣で「美味しいでしょ?」と言っている。さすがフードカメラマンだ。僕の口の中では幸せ祭りが開催されている。夜店は全部焼きそば。でも、誰も文句を言わない。だって、その焼そばはおそろしく美味しいから。みんな浴衣で焼きそばに玉子を乗せネギを盛り、黙々と食べている。
これが4件目で、もうお腹はいっぱいなのだけれど、食べられてしまう不思議。よく甘いものは別ばらと言うけれど、そんな感じだ。美味しいものは別ばらなのだ。結婚していたり、彼女がいても、ヤングジャンプのグラビアの女の子を見て綺麗だな〜と思うのに近いと思う。そんな幸せがこの有楽町の高架下にはあるのだ。
後楽そば 有楽町店 東京都千代田区有楽町2-9-1 Tel:03-3201-2634
何でもあるよ、駒込「そば駒」
焼そばを食べ終わり「どうしますか?」ともう一軒行くかどうかを関さんにたずねる。関さんは「もう一軒面白いところがあるんですよ」と言う。なので、家に急ぐサラリーマンで溢れる山手線に乗り込み、そのお店にむかうことにした。
駒込駅を降りてすぐにある「そば駒」。5人も入れば店内はぎゅうぎゅうになってしまうのが、外からでもわかる。店先に貼られたメニューを見るとラーメンもあればスタミナ丼などのご飯ものもあった。何でもある。また店先ではナポリタンが売られていた。そば屋だよね?
お店に入る前に駒込を関さんに案内してもらうことにした。お互い満腹なのだ。関さんは駒込に詳しい。「この先にしもふりという、いい感じの商店街があるんですよ」と言うので一緒に歩く。確かにいい感じだ。昭和の香りを残し、どこか枯れた感じのクリスマスのイルミネーションが幼い頃に母と歩いた地元の商店街を思い起こさせてくれる。
関さんが駒込に詳しいのはお付き合いしている女性が駒込に住んでいるかららしい。うらやましく思う。こういう商店街を僕も彼女と歩きたい。そして、酒屋で紙パックの日本酒を買って一緒に帰るのが夢なのだ。ピンポイントだなと自分でも思う。
美味しいそうです!
そば駒に入るとお客さんはひとりだった。僕はさすがに満腹で関さんに「僕はムリなので、食べてください」とお願いした。関さんは心よく引き受けてくれた。いい人だ。関さんも十分に満腹なのに。そんないい人に僕は「スタミナ丼食べてくださいよ、そばとかいいんで」と企画の根底を否定するようなことを言っていた。
「かけそば」と関さんが店主にお願いして、お金を払おうとしている間にそばが出てきた。なんだ、この速さ。関さんは美味しいですよ、と言いながら食べている。この人の胃袋は底なしか! と思ったが、美味しくてよかった。
この「そば駒」は24時間営業なのだけれど、駒込で24時間営業はなんだか女性のシェービングクリーム、男性のお化粧の関係性に似たものを感じた。
そば駒 東京都豊島区駒込2-16
立ち食いそばは偉大だ
駒込の店を出て解散した。最後にお互い満腹ですね、と言葉を交わした。関さんは「でも、明日もきっとそば食べますね」と言っていた。僕もそう思う。一日中そばを食べ、確かに今は満腹だけれど、「もうそばは当分いらない」とならないところが、本日まわったそば屋が美味しかったことを裏付けている気がする。