デイリーポータルZロゴ
検索天気地図路線このサイトについてランダム表示ランダム表示
アット・ニフティロゴ


ひらめきの月曜日
 
「こころ」の手紙を実際に書いてみる


2010年の本の値段としては格安の362円。

高校の国語の教科書には必ずと言っていいほど夏目漱石の「こころ」が載っていた。掲載箇所は、先生と呼ばれる人物が主人公に向けた書いた手紙の部分である。

これが非常に面白かった。程度の差こそあれ、明治の金持ち学生の気持ちが昭和の庶民的な高校生にも理解できたのだ。その後、一冊丸ごと読んでみたのだが、感想は内容うんぬん以前に「手紙、長っ!」であった。

果たして、あの手紙を実際に書いてみたらどんな分量になるんだろう。文庫本として読むのではなく肉筆で書かれた手紙として扱ったなら、一体どういうことになってしまうのか…。ずっと気になっていたので書いてみた。

挫折に次ぐ挫折で1年半もの歳月をかけた企画が、ついに完成したので、どうかご覧いただきたい。

高瀬 克子



設定からこだわりたい

文芸作品を書き写すにあたり、まずはどういう用紙を使用するべきかで頭を悩ませた。なるべく本に書かれた設定通りに再現してみたいではないか。そこで、主人公が手紙を受け取った場面を読むと次のような記述があった。

「中から出たものは、縦横に引いた罫の中へ行儀よく書いた原稿様のものであった」

なるほど、漱石も原稿用紙に書いたんだろうから、ここは手紙と言えども、やはり原稿用紙を使うべきだろう。


というわけで、わざわざ神楽坂にある「相馬屋」という文房具店へ。
400字詰めのを買ってきました。

なんとこの相馬屋さん、創業は万治2年(1659)の超老舗文具店であり、漱石はここの原稿用紙を愛用していたという、今回の企画にピッタリの店である。

どう考えても地味な企画だけに、細部にこだわることで雰囲気を盛り上げたいと思った私を誰が責められよう。


では、さっそく書き写してみましょうかね。
手紙部分だけで、この分量。

 

時間かかりすぎ

さっそく本を傍らに置き、書き写し始めた。
…のだが。


用紙一枚埋めるのに30分近くかかっていた
改行なしを考慮しても、たったの11行っぽっちでコレ。

最初は丁寧に書いていた文字も、
2枚目以降はどんどん崩れていき、

ご覧の有り様に。間違いも頻発する始末。
崩せる文字はどこまでも崩す。(電報という字です)

字なんてしばらく書いてない。仕事でもプライベートでも、字はキーボードか携帯を駆使して機械に打ち込んでいる。手書きよりよっぽど早いし、難しい漢字もバンバン使えるし、とっても便利だ。

早い話、手が疲れてどうしようもない。


…ギブ。

2時間後、4枚書いた時点で音を上げた。約3ページ分でこの時間のかかりっぷりは、どう考えても異常だろう。こりゃ到底無理だと思った。そして、この企画はなかったことにしようと原稿用紙を仕舞い込んだ。

 

そして1年半もの歳月が経過

が、このままお蔵入りさせるのはあまりに惜しい。自分なりに改善点も発見したことだし、ここは仕切り直して再挑戦してみてもいいのでは…と再びペンを取った。


飽きてもテレビや読書に逃げないように、主にファミレスや喫茶店で作業。よし、やるぞ!
筆記用具も丸ごと変更。ボールペンは万年筆に、原稿用紙は普通の便箋に。

本の中で先生が実際に書いた設定とは異なるが、細かいことにこだわっていたら先に進めない。妥協して、ここは普段から書き慣れた「横罫線入りの便箋」を使わせてもらうことにした。

やはり原稿用紙を1マス1マス字を埋めていく、というのは意外に時間がかかるものなのだ。そして気を遣う。その点、便箋の場合は枠を気にせずサラサラと書けていい。文字の大きさも小さくて済み、約16行分で便箋1枚が埋まる。かかる時間も15〜20分程度。

100均で買った万年筆も良かった。筆圧が要らない割に適度な引っかかりがあって、ボールペンより疲れない。

うん、これなら最後まで書けるかもしれない。


この1年半の間にいろいろあった。結婚もしたし、来年は母になる。
疲れたら手をこまめにマッサージ。

しかし、いくら書くのがラクになったからといってもなかなかページは進んでくれず、イライラする日々が続いた。ここで投げ出しては同じことの繰り返しなだけに、まるで修行に挑むような気持ちで書く毎日…。


そして、ついに便箋1冊分を埋めることに成功。
最終ページ、最後から2行目で初めて「K」が登場。なんだ、この無駄にドラマチックな展開は。

それにしても、何ごとも続けていれば確実に先に進むんだな…と、感慨もひとしおであった。


たったコレっぽっちの量しか終わってないだけに、喜ぶのはまだ早い。果たしてあと何冊便箋を買えばいいのやら。

つぎへ >
 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲トップに戻る バックナンバーいちらんへ
アット・ニフティトップページへアット・ニフティ会員に登録 個人情報保護ポリシー
©2012 NIFTY Corporation