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はっけんの水曜日
 
栓抜きのある列車を探す小さな旅


みなさんはご存知だろうか。かつて列車のボックス席には、「栓抜き」が備えられていたことを。

とある本を読んで久々にその存在を思い出し、ひとりで大いに唸った。うろ覚えだけど、あったなあー、あったよ、うんあった!

気になって調べてみたところ、東京近郊の列車にも未だに栓抜きの備わった車両があるという。がぜん気が気でない。その栓抜きで、栓を抜くのだ。持参のビールの、栓を抜くのだ!こうなったら発つしかない、栓抜きを探す旅へー

乙幡 啓子



いい日 栓抜き

その本というのは、交通新聞社新書「ニッポン鉄道遺産 列車に栓抜きがあった頃」。そう、副題にズバリ栓抜きとある。今や家庭にあってもビンビールくらいにしか使わない栓抜き。それがまだ、日本のどこかの車両で、私を待っている。

本にはJR大糸線の栓抜き列車のことが書かれていたが、なるべく自分の住む東京都内から近い場所で探してみようと思った。ローカルな路線と栓抜きのある車両はよく似合うが、ミスマッチなものを探したいし、それに地方をあてどなく回るのはリスク高すぎる。何といっても「栓抜きを探す旅」だからだ。

ちなみに寝台列車にもあるようだが、こればかりはキップ買って乗るのは大変だし買わずに撮影だけササッとするのは怪しいしちょっと今回の主旨と違う気がして、外すことにした。

さて、それからというもの、ネットで栓抜き列車の情報を探しに探した。ブログや記事を頼りに、今でも装備しているはずの列車を、細い糸をたぐるように―するとあった!私の故郷へと続く東武線に、あるらしいのだ。青い鳥は赤いラインの列車にいる!


いつもの帰郷のホーム、その隣から出ているのか?!

東武線浅草駅。ここから、目当ての列車が出ているはずだ。検索してやっと引っかかった情報は、「東武6050系」「それが区間快速という種類で走っている」その2点のみ。それのみを頼りに、乗るべき列車を探す。

この青い「区快」ってのがそれだな。
で…1時間に1本!ほぇー!

列車が混んでいた場合など予測して何本かやり過ごす覚悟はしていたので、待つのはなんてこと無い。30分ほど待って、もう一生来ないかと思い始めた頃、ネットで何度も見た列車がようやく入ってきた。お、空いてる、ラッキー、超ラッキー。なぜなら車内の栓抜きでビンビールをあけて、バシバシ自分撮りをするからだ。お客が近くにいると恥ずかしいではないか。

手には本日のビール2本。2つめは2路線目であけよう♪
おお、待っとった、待っておったよ。

自分撮りで微妙な表情だが期待にあふれている真っ最中である。
あの、あそこの小さいテーブルに…アレが…



 

車内清掃ももどかしいがありがたい。浅草駅名物の「渡し板」持つ方もご苦労様です。
まるでレッドカーペット敷かれているかのような気分になったよ、いやほんと。

 

ビールが重さを増して来る

30分、列車を待つ他のお客がこれ以上増えないことを芯から願いつつ待ち、車内清掃も待ち、ようやくありがたい渡し板を踏みしめて席へ。さあ出発前にバババッと撮影を済まそう、シュパッと栓を抜こう、さあさあとセッティングに入りつつテーブルに目をやるとだ。


あ、ない。

これは栓抜きじゃ、ないな。
これ!…も、ただの説明書きだな。

じゃこれ!も説明にある「まえのボタン」ってやつだな。 
肘掛にも…ないな。

テーブルの下にもないな。あの下のちょこっと付いてるのは棒を格納するところだな。
車両は6168とあるが…どうなのかな。

うーん、間違えたかもしんない。

情報を見間違えたか、あるいはもう備えてないのか、あるいは他の形式(番号)だったのか…。いずれにしても、どこにも栓抜きが見当たらず、列車を降りて駅員さんに訪ねてみたが、「昔はあったけど、今は外したのかも…」という答えを聞けたのみだった。びろーん。

浅草から栓抜き列車に乗る夢は、なぜかかなわず。自分の不徳といたすところでございます。今後の調査が待たれるところだ。

仕方が無い、次 行こう、次 行こう。


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