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ひらめきの月曜日
 
ブッシュパイロットの仕留めたエゾシカの味


鹿肉も良かったが、もっと興味深い話が色々聞けました。

友人からメールが届いた。北海道でいいエゾシカが獲れたので喰らいに来いと。どうやら、知り合いがエゾシカ猟をやるらしく、野性のエゾシカを食べる会を東京で開くのだそうだエゾシカなんて食べたとが無い私は即参加の返事をしました。

しかし、よく聞くと、その鹿を仕留めた人はアラスカでブッシュパイロットなるものをやっているらしい。しかも、数年前まで自衛隊でF15 戦闘機を飛ばしていたのだとか。

エゾシカを食べたこともなければ、戦闘機乗りにも会ったことはない。しかもブッシュパイロットとは何をする人?本人に会って直接聞いてきました。

馬場 吉成



元戦闘機乗りでアラスカのブッシュパイロット

今回お話を聞かせていただいたのはアラスカでブッシュパイロットをされている湯口公さん。

湯口さんは、大学時代にセスナの免許を取得。大学卒業後は自衛隊に入隊して4年の訓練期間を経てF15戦闘機のパイロットになる。任務に就いて6年。突然自衛隊を辞めてアラスカに渡る。アラスカではブッシュパイロットとして北極海までアラスカ縦断飛行をしたり、飛行機でしかいけないような先住民の村を訪ねて回るなどの活動を行う。

ざっくりと湯口さんの経歴を書いてみましたが、これだけでもう何がなんだか。針が振り切れたような項目ばかりです。細かいところはこちらのリンクから見てください。


元戦闘機乗りなんていったいどんな人かと思ったら、とても気さくで楽しい方でした。

 

そう簡単にはなれないようです

まずは戦闘機のパイロットになるまでの話を聞いてみました。

馬場「大学は理学部を卒業されたということですが、何の研究をされていたのですか?飛行機関係とか?」
湯口「大学では地震や気象など地球環境に関することを学んでいます。自然が好きだったので。」
馬場「それはパイロットになるのとは直接関係がない学科なのでは?」
湯口「戦闘機のパイロットになることに憧れていたんです。しかし、自衛隊の戦闘機パイロットは特殊な人しかなれないと思っていました。民間のパイロットにしかなれないと思っていたけれど、航空大学校に入るためには教養課程を終えてないといけない。それでまず気象など学ぶことにしたのです。」

インターネットなんてまだ普及してない頃。情報が乏しい中で選んだ選択が大学進学。その後湯口さんはバイトで資金を稼ぎ、アメリカでセスナの免許を取得しました。


戦闘機に乗る湯口さん。航空ショーのイベントで搭乗体験しているのではない。本物です。凄いぞ!(写真提供:湯口公)


湯口「アメリカでセスナ免許を取ったときに初めて自衛隊に入隊して戦闘機のパイロットになる方法を知ったのです。それで大学を卒業して自衛隊に入隊しました。」
馬場「志願すれば戦闘機のパイロットになれるものなんですか?」
湯口「色々コースはありますが、まずはパイロット要員として入ります。パイロットには戦闘機、輸送機、ヘリなど様々あって、大体は戦闘機を目指しますね。」
馬場「パイロット要員として入る時点で結構大変なのでは?
湯口「同期は40人ほどいて、42倍ぐらいの倍率だったようです。」
馬場「あっ、やはりそうですか・・・」

試験は筆記、面接、飛行適正試験があるそうです。飛行適正試験は試験官と共に実際に飛行機を飛ばす試験。湯口さんは既にセスナの免許を持っていたのでこの点は問題なかったのだとか。ご本人曰く、その部分の成績は良くなかったそうですが、たまたま選んでいた道がその後に役に立つ。凄いです。


ところが、パイロット要員になっても直ぐに戦闘機乗りにはなれないらしい。(写真提供:湯口公)


馬場「パイロット要員になったらいよいよ戦闘機に?」
湯口「まずは訓練があります。同期のうちパイロットになれたのが20人ほど。そのうち戦闘機パイロットになれたのは5人。ヘタな者はすぐに辞めさせられるし、訓練が厳しくてどんどん辞めていきましたね。」

戦闘機は人員の振り落としが非常に厳しいそうです。最初は離着陸訓練。そのうち戦闘訓練となるが、その辺りで多くの人が落とされるのだとか。

離着陸訓練では、「農家に例えると、鍬をもって畑に行く練習をしているだけだ」なんて言われる。そして、戦闘機の操縦となると左手に14個、右手に5、6個のボタンがあって、ピアノを弾きながら飛行機飛ばしているような状態になるそうです。

しかも、ちょっと気を抜けば即命にかかわる。湯口さんは「大体は宴会芸で乗り切った」なんて冗談を言っていましたが、精鋭中の精鋭でなければ勤まらない仕事なのでしょう。


最高マッハ1.6(およそ時速2000km)で飛んだことがあるそうです。音速超えたら景色が変わりますか?と聞いたらGは感じるが対象物があまりないし、特に変化はないとの答え。そうなのか・・・(写真提供:湯口公)


こうして憧れの戦闘機パイロットとなった湯口さんは千歳基地に配属されたそうです。千歳基地といえば日本で一番緊急出動が多いと言われる場所。詳しい任務については秘密ということでしたが、かなりの激務だったと思われます。

 

神様のいたずらかも

任務について5年ほど経って湯口さんに転機が訪れます。アラスカで実施される合同訓練(通称、コープサンダー)の話が入ってきました。

湯口「大学時代からキャンプなどを通じてアラスカに憧れていたんです。しかし、お金がかかるからなかなかいけない。もし自衛隊に入れなかったら卒業後直ぐになんとかしてアラスカへ行こうと思っていたんです。」
馬場「しかし、もう1つの夢だった戦闘機パイロットの夢が実現してしまった。」
湯口「アラスカのことは長いこと忘れていました。思い出せないぐらい忙しかった。しかし、訓練の話が来てこれは行かねばと思いましたね。
馬場「置いていたもう1つの夢が近づいてきて1つに繋がったわけですね。」
湯口「神のいたずらとしか思えない。」


エゾシカを食べる会で展示されていた湯口さん撮影の写真。空から見るとこんな氷河が見えるそうです。まるで電子顕微鏡で見た物質の表面の様。大きさはとんでもなく大きいけど。


訓練参加には選抜試験があったそうです。どうしても行きたかったので苦手な英語のテスト勉強など頑張った。そして、見事選抜試験に受かりアラスカの空を戦闘機で飛んだ湯口さんは、日本に帰るとスパッと自衛隊を辞めてしまいます。

馬場「なぜ突然?」
湯口「戦闘機乗りの夢がかない10年。資格(編隊長資格)もとってひと段落着いた感じだった。叶ってしまうと夢でなくなる。戦闘機に乗るのも楽しかったが、次のチャレンジが欲しかった。」
馬場「行く前から決めていたのですか?」
湯口「行く前からいったら辞めてしまうかもと妻に言っていたんです。そして、憧れの土地の上空を戦闘機で飛んだところで魅力に取り付かれてしまった。」
馬場「ツアーコンダクターが、美しい景色の場所を案内していたら自分がその地に住み着いてしまったみたいなものですかね?」
湯口「そんな感じですね」


飛行機からだとこんなアラスカの景色が見れる。大きさの比較が出来ない程、画面いっぱいの氷の塊。湯口さん所有の飛行機より撮影。飛行機の話は後ほど。(写真提供:湯口公)


湯口さんが自衛隊を辞めると言った際、当然上司は激怒したそうです。奥様は少し渋ったそうですが、最終的には了解したのだとか。どうやら、戦闘機乗りは月々の手当などが有り、かなり高給取りのようです。

そんな待遇を捨ててまでも新しい夢に挑む。この人は自分の欲望にとても正直な人なのだと思いました。そして、実現の為の努力を続けることが出来る人。こういう人が日本にいれば安心です。いや、アラスカに行こうとしているのか。

続いて、ブッシュパイロットとはどんなものなのか。アラスカの魅力などについて聞いていきます。


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