村田さん（男性/40歳/セラピスト）

村田さんはセラピストとして活躍されている。人を癒す人の歯ブラシコップは一体どうなっているのか。

---この歯ブラシコップは何年くらい使っていますか？
「これは入院した時に買ったんだよね。何年前だったかな」

---入院というのは、なにかその時病気でも？
「僕は病気じゃなかったんだけれど、生体腎移植のドナーになったから」
生体腎移植！そんな強烈な思いでとともにある歯ブラシコップは、なかなかないだろう。

「腎臓を一つ失って、歯ブラシコップ一つを得たと言えなくもないかも」
いや、それはちょっと言えないんじゃないでしょうか。

ところで、フックに歯ブラシコップが引っかかってゆれているさまは、なんとなく「癒し」っぽいような気がする。

意外とこういうことろが、セラピストとして大事なのかもしれない…と思うのだが、どうだろう。穿ち過ぎだろうか。

Kさん（男性/36歳/営業）

36歳のKさんがこの歯ブラシコップを購入したタイミングは、「離婚してひとり暮らしに戻った時」だそうだ。さっきの村田さんと同様に、強烈な思いでとともに歯ブラシコップがあるパターンである。ちなみに、奥さんを失って歯ブラシコップを得たんですね、とは言えなかった。

歯ブラシコップ以上に目につくのが、この洗面所の配置だ。歯磨き粉とヒゲソリのぶら下がり方がかっこいい。機能的で清潔感があって、少し男くさい。たぶんそういう生活をしている人なんだろう。ひとり暮らしの洗面所は、その人の全人格が映し出されるものなのかもしれない。

Kさん（女性/28歳/デザイナー）

Kさんはおもちゃ会社でデザイナーをしている。おもちゃみたいな、かわいらしい歯ブラシコップ
を使っているかと思ったら歯ブラシコップ自体持っていないそうだ。

---歯ブラシコップ、使わないんですか？
「手でやってる。小さい頃は使ってたけれどね」
「コップを使うと、水の中に歯磨き粉のアワが入っちゃうからイヤだ」

Kさんが歯ブラシコップから手に移行したのは、幼稚園生のとき。「歯磨き時に親の監視が無くなったタイミングで使わなくなった」そうだ。小さな自我のめざめ、という気がする。

「ちゃんと洗っている手の方が、歯ブラシコップよりきれいだよ。毎日新しい歯ブラシコップを下ろしているようなもんだ」
豪快な発言で聞いていて気持がいい。Kさんが勢いよく口をすすいでいるさまが、浮かんでくる。