演奏する方のメンバーが揃った
練習日当日、待ち合わせ場所にちょっと早めに到着。本当にみんな来るかとても不安だったのだが、予定通りに全員集合してくれた。集まってもらっただけでなんだかうれしかった。
ちなみに今日きたのは演奏する方の人だけで、ベースとドラムの前に立つ側(二人羽織でいうと熱いうどんを食べる人)は、まだ誰にするか決めていないが、これは一番最後でいいだろう。
注目のドラマーは、ROSERIAというバンドの太一さん。若い。どういう音楽をやっているのかというと、「派手なルックスと激しいステージパフォーマンス、エッヂを立たせたGuitarリフ、キャッチーなコーラス、80’sL.A.METALを独自の解釈で現代に進化させた、いわば ”NEW L.A.METAL”」と、バンドのMySpaceに書いてあった。ごめん、ひとつもわからない。
彼もRama Amoebaのローディーで、ライブなどで何度か見かけたことはあるのだが、その外見から接点がまったくなさそうな人だなと勝手に思っていた。それがまさか一緒にバンドをやることになるとは。
曲のキーとコードを決める
阿部さんが予約してくれたきれいな練習スタジオに到着。三人が黙々と準備を進める中、僕だけ引越し屋のバイト初日みたいな、「なにやったらいいんだろう」状態になる。まあ予想はしていたが。
さてボーカルがやりたいとわがままをいっておきながら、根本的に声が小さいうえに、ここ数年はカラオケにすらいっていないのだが、僕は大丈夫なのだろうか。
上西さん曰く、今日の目標は僕の声にあわせてキーを決めて、曲を完成させること。キー。なんとなく音の高さを示すものであるということはわかるが、具体的になにがキーなのかわからない。そしてキーに合わせてコードとやらを決めるらしい。
「この音でる?」とか、「このギターに合わせて」といわれ、テンパリながら生返事で答え、何回か歌と演奏を合わせていくのだが、音に合わせて声を出すということがまったくできない。あとでカメラマンに、「目が死んでいたよ」といわれた。
みるみる曲ができていく
キーやコードはわからない。「イントロは8小節で」といわれても、それがどういう長さなのかがわからない。申し訳なさで胃が痛い。顔が熱くなってきた。
音楽の授業をちゃんと聞いておかないと、大人になってから恥をかくよと子供の頃の自分に伝えたい。義務教育って大切だ。
メロディラインは直しだすときりがないので基本そのまま。ただ、原曲のままだと、曲というよりはジングル程度の長さしかない。
二人羽織バンドの見せ場であるギターソロなどを入れるタイミングが全然なく終わってしまうので、繰返しを入れたりして調節してもらった。
こうして僕が部屋でこっそりと録音したしょぼい原曲が、三人の手でロックに生まれ変わった。
バンドってこういうものなんだと思って、ちょっと感動した。普通はもっと違うんだろうけどさ。
「DPZ」という曲ができた
僕がなにをいっているのかよく聞き取れないと思うが、練習だしロックだしということで別に気にしない。どちらかと僕の声ははっきり聞こえないくらいの方がいい。
口から出るメロディが歌うたびになんとなく違うのだが、オリジナル曲なので特に困らない。たぶんキーも毎回ずれているのだが、それは困るのだと思う。
わずか一時間の練習でできたとは思えない完成度。さすが本気で音楽をやっている人たちだ。
ボーカルの歌声は何回聞いても体がムズムズしてくるが、演奏がものすごくいい。方向性とかヴィジョンとかを誰も持たずにはじめたバンドだったが、結果的にとても好みの曲ができあがった。
二人羽織の衣装合わせ
生演奏で歌うのはとても楽しい。バンド最高。ロックイエーイ。
なんだかすでにやりたかったことが全部叶ったような気分だが、ここから先が肝心だった。
裁縫を趣味にしている母親が夜なべして作ったロック対応の二人羽織衣装を着てみて、本当にギターを弾いているように見えるのかをチェックしなければならない。
僕はこういう無理難題を母親にお願いすることを「親孝行」と呼んでいる。この衣装を発注するときに、「演芸でもやるの?」と聞かれたが、あながち間違っていないかなと思った。
忍法二人羽織ギター、成功!
二人で一枚の服を着るという、お相撲さんの大きさをしめすパフォーマンスみたいなことをしたら、前に立つ僕がギターを首に掛け、後ろの阿部さんが演奏する。
ノリノリのギターサウンドに混ざってメンバーから笑い声が聞こえてきた。鏡に写った己の姿を見て僕も笑った。
予想以上のクオリティ。映像だと阿部さんの手が僕の手にしか見えない。実際、私もやりながら、阿部さんの手が自分の手に見えたのだ。ちなみに僕の本当の手は、シャツの下からギターを持ちあげている。そうしないとギターが遠すぎて、阿部さんが演奏できない。
このテストで、二人羽織でやれることとやれないことがなんとなくわかった。ギターはネックの先側半分までしか手が届かない。ベースはだいたいOK。そしてドラムは足も使うので、二人羽織では無理そうだ。
僕はこの練習の最中、どうやら知恵熱がでていたらしく、あとで上西さんから、「玉置君、二人羽織の時、なんか熱いよ!」といわれた。二人羽織にヒートテックを着てきたのも悪かったなと思った。
次はもう本番だ
さあ曲もできたし、二人羽織でギターも弾けた。ドラムをどう二人羽織にするかという課題は残っているが、次回はベースとドラムの前に立つ側のメンバーも集めての本番をやってしまおう。本番といってももちろんお客さんを前にしてのライブではなく、スタジオでの演奏だけど。
大切なバンド名は、サタンクロス(キン肉マンにでてくる寄生虫超人)、スリーシックス(三人なのに六人だから。ちょっと響きがいやらしい)など、僕が考えたいくつかの候補の中から、「TANDEM(タンデム)」に決まった。「二人乗り」とか「二つ並んだ」みたいな意味だ。
さて、フロント側のメンバーをどうしよう。