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フェティッシュの火曜日
 
お花見で見られてない花を見る

おまえらのお花は桜だけか!

お花見シーズンである。

この2週間ほどの間に、日本国民のうちけっこうな割合の人々が、「お花見」と称して桜を見に行くのだ。

楽しいお花見。でも、忘れないでほしいのは、桜以外の花の立場である。花見会場で無視され続ける数々のお花たち。そこに感情移入してみたい。

(text by 石川 大樹


 

上野公園で無視される花たち

4/3、ちょうど東京で桜がピークを迎えて最初の土曜日に、都内4箇所の定番お花見スポットを回った。

まず最初にやってきたのが、上野公園だ。


満開です


まだ午前中だが、さすがの人口密度。ハイテンションで騒いでいる若者の集団から、満開の桜を見上げて「いいねえ…」としみじみ語らう老夫婦まで、老若男女みんなが楽しんでいる。桜をな。


殺到するカメラ小僧


この記事の主旨とは違うのだが、満開の桜はさすがに見事で。写真に残したくなる気持ちもワカリマス。


桜を狙うカメラ、カメラ、そしてカメラ


桜をバックに記念撮影する外国人の姿も目立つ。美しい日本の姿を知ってもらえて、僕も嬉しいで…

…あ、ちょ、ちょっとまって、ここ!


ここ!

 

 

絵の具の「やまぶきいろ」ってこれだったのか

写真に撮られてもスルー

ヤマブキ(バラ科ヤマブキ属)

お花見エリアと通路を分けるフェンスの脇で、ひっそり咲いていたのがこの花。

みんながカメラを構えるその正面にあるが、レンズが向いているのは全て頭上の桜。ヤマブキと戯れるのは、一匹のミツバチのみであった。

あのカメラマン達の写真に、ヤマブキの姿はきっと写りこんいると思う。しかしどう考えてもカメラマン達の眼中にその姿はない。

そしてそれは今だけじゃなく、きっと写真となってアルバムに入ってからも、ずっと気づかれることもなくスルーされ続けるのだろう…。


ほぼ荷物置き場

花視点で見た光景。前景に場所取りのブルーシート、その奥に大勢のカメラマン(もちろんこちらは見てない)


別の場所にも同じ花が。宴会の輪には入れてもらえず、見えるのは背中だけ

背中に挟まれて


おりしも4月。人間も、新しいクラスで最初の友達作りに失敗すると、遠足とかでこういう目に遭う。多かれ少なかれ、みんなそういう経験あるだろ?

古傷をえぐってすいませんでした。これから4ページ、こういう悲しい気分の写真ばかり続きます。

 

一見なじんでいるように見えるが

つづいて、みんながお弁当を食べているスペースで見つけた、こちらの花。


平和なお弁当タイムに見えるが


こんなに優美な曲線をしているのに

プライドさえ捨てられたなら

ムラサキハナナ(アブラナ科オオアラセイトウ属)

お弁当を食べる家族連れに囲まれて咲いていたのが、この花。もしムラサキハナナが花見客のひとりであったならば、これはこれで幸せな光景だろう。

しかしムラサキハナナは、花。見られる側の立場なのだ。周りにいる人たちは全員、こんな背の低い花のことは見ていない。頭上の桜に夢中だ。


花を囲む家族。しかし視線は常に斜め上

「ここにいるよ…」


花としてのプライドさえ捨てられれば、楽しいひとときを過ごせる。

しかしひとたび花の自分を意識すれば、すぐ隣に咲く自分より、柵の向こうにある桜が注目を集めている事実。

この気持ち、想像しただけで胸が引き裂かれそうだ。

 

 

圧迫

辛い境遇がむしばむのは気持ちだけではない。時にはフィジカルな部分で危機的状況に陥ることも。


カバンに潰される!


実力はあるのに評価されないタイプ

星のせいにするしかない

シャガ(アヤメ科アヤメ属)

白地に黄色と青と青の柄が入った、オシャレな花だ。花壇にあれば主役級でもおかしくない花なのに、咲いているのが柵の下なばっかりに、どうにも潰されがちである。

カバンに潰されたり、敷物の下敷きにされたり。各方面で、あの手この手で潰されそうになっている。

受難の星の下に生まれてしまったのだ。そうとしか言いようのない不運だ。


この柵のふもとがまずいのだ

こちらは敷物が迫ってくる。ピンチ!

 

 

他人事にするというサバイヴ

注目を集めてはいないものの、割り切りで乗り切る方法もある。


緑の植え込みに白い花が映える

ユキヤナギ(バラ科シモツケ属)

桜から少し離れた植え込みに咲いているので、周囲に人が少ない。

花見客にあまり相手にされていないが、そもそも人が少ないからそんなに悲壮感もない。

ユキヤナギの隣に立って桜のほうを見てみると、僕が故郷の岐阜で、テレビを通して東京を見ているような感じがする。「ヘー新宿ってすごい人なんだなー」みたいな。

こうやって他人事と割り切ることによって、桜への嫉妬心を断ち切り、花見シーズンを乗り切っている花もいる。


こうやってちょっと人ごみから離れたところにいる。この微妙な距離感がダメージを和らげる

とはいえだんだん距離を詰めてくる人もいるので、いつまでも他人事気分ではいられないかも

 

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