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ひらめきの月曜日
 
東京珍踏切めぐり


「この世には時代とともに廃れゆくものがいくつかあるが「踏切」もそのひとつだ。とくに東京ではその姿をあまり見かけなくなった。

個人的には、なきゃないで別に構わないのだが踏切マニアにとってこの流れは捨て置けない事態らしい。

「踏切マニア」と普通に書いてみたもののあまり聞きなれない分野の趣味だ。だが、そういう人と実際に知り合う機会を得た。

これも何かの縁。彼とともにいくつかの魅力的な踏切をめぐることで、昨今の踏切衰退の流れに警鐘を鳴らしたい。(踏切だけに)

榎並 紀行



東京近郊の珍しい踏切を巡ります

安全面や都市整備上の理由から、鉄道は高架化や地下化が進んでいて踏切は減少の一途をたどっているという。
そんな踏切受難の時代を憂いているのが、踏切ウォッチャーの小川裕夫さん。全国各地の踏切探訪をライフワークとしている人物だ。


小川さん

小川さんによれば東京や地方の中心都市など、都会には特に面白い踏切が多いらしい。今回は小川さんに素人(僕のことです)でも興奮できる派手なタイプの踏切をリクエストし、案内してもらうことにした。

 

東村山駅5分「超危険な交差点踏切」

まず案内されたのは、西武新宿線「東村山駅」から数分の市街地にある踏切。なんでもここは「危険度No.1」の踏切だという。まずは地図を見てもらいたい。

 

 

この通り、踏切の中に交差点があるという何ともスリリングな場所である。しかもこの交差点は幹線道路に近く、車の往来がけっこう激しい。

遮断機が上がると
交差点に車がなだれ込む

自転車や歩行者も多い

こんな踏切おばあちゃんに渡れるはずもなく。迂回を余儀なくされていた

この踏切は駅に近すぎて高架化するには駅舎も含めた大規模な改修工事が必要。それゆえ交通事故多発地帯でありながら、見過ごされているのが現状とか。

確かに珍しい踏切ではあるが、のんきに面白がっていい感じはしない。デイリーじゃなく噂の東京マガジンとかで取り上げた方がよさそうな感じのシリアスな現場だ。

 

高麗川駅から徒歩10分「セメント運搬用鉄道の廃線跡踏切」

冒頭で踏切の魅力を伝えるみたいなことを書いておきながら、いきなり踏切の大きな問題点を見せつけてしまった。だが、次の踏切は平和そのものなので安心してほしい。


なんせこの踏切、電車が通りませんから

JR八高線高麗川駅から徒歩10分程度のところにある「ポッポ道」。ここにはかつて太平洋セメントという会社の工場が、セメントの原料を運搬するための貨物線が通っていた。地下ベルトコンベアーの発達に伴いお役目を終えた廃線跡は歩行者専用道として整備され、当時の踏切がそのまま残されているのだ。

地元ファミリーにも人気のスポット
所々に鉄道が在りし日の名残が。もちろん今は歩行OKです

心なしか誇らしげ

 

新橋駅から徒歩10分「銀座の踏切」

そんな保存された踏切は都内にもある。新橋のビジネス街にぽつんと佇むこちらの踏切だ。


ビルの合間にちょこんと立つ

じつはここ、新橋−横浜間を走る日本初の鉄道が通っていた場所。国鉄廃止に伴い廃線となるまで、築地の鮮魚を都心に運ぶ貨物線として活躍した鉄道で、その思い出を後世に伝える存在として、この踏切が保存されたようだ。

確かに線路やホームを保存するわけにはいかないが、踏切なら場所もとらずお手軽だ。周囲のビル群とのアンバランス具合もアングルによってはかっこよく映る。


夕暮れのビルと踏切

 

上野駅から徒歩5分「地下鉄の踏切」

最後は現役の踏切を見ていただこう。踏切の晴れ姿といえばやはり、遮断機が降り、電車から歩行者を守っているときだろう。
しかしその晴れ姿を滅多に見せることのない踏切が上野駅からほど近い場所にある「地下鉄の踏切」だ。「開かずの踏切」というのはよく耳にするがここは「開きっぱなしの踏切」なのである。


ちなみに地下鉄の踏切というのは日本でここだけとか

ここは東京メトロの車庫に隣接した踏切で、電車が通過するのは朝夕の入庫・出庫時のみ。使用回数は多くない。

踏切の先は銀座線の車庫になっている

しかも電車が通過する時間は日によってまちまちで、遮断機がいつ降りるかは分からない。踏切マニアは「電車が通過している場面を撮ってナンボ」(小川さん談)であるため、ここを撮影するときはいつも長時間の張り込みを覚悟で臨むという。

アンパン片手に張り込む小川さん

しかしこの日は1時間以上の張り込みもむなしく電車は現れなかった。日本で唯一の地下鉄の踏切というだけで希少性があるが、電車が走っている姿はさらにレア。
この日は残念ながら拝むことができなかったが、後日小川さんにお借りした貴重な晴れ姿がこれだ。

危険な電車から

歩行者を守る

その雄姿よ

大げさなキャプションをつけてみたものの当の踏切にそんな気負いは感じられない。あくまで淡々と仕事をこなしているように見えた。

現在踏切は年間500機のペースで減少しているという。

小川さんによれば、踏切というのは在りし日にはやっかいもの扱いされるのに、なくなると保存されたりして、いきなり愛されてしまうという。「いなくなって初めて大切さに気づく」。そんなあの人みたいな存在なのかもしれない。

そんな小川さんの著書『踏切天国』(秀和システム)には、数々の面白い踏切がまとめられている

 

 
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