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フェティッシュの火曜日
 
江東区の和船乗船体験にいってきた


どこぞの観光地みたいな写真ですが、江東区です。

江東区は和船を所有しており、ボランティアの「和船友の会」によって、毎週一回無料の乗船会がおこなわれている。

和船といえば、時代劇とかでたまに見る船の後ろに船頭が立って、棒みたいのを漕いで進むやつだ。あれってどういう理屈で進むんだろう。

希望をすれば漕ぐのもやらせてもらえるらしいので、腕をならしていってきた。

玉置 豊



江東区に表れた異空間

無料で和船に乗れるのは毎週水曜日(12月〜2月は日曜日)で、江東区民じゃなくても乗せてもらえる。場所は江東区の横十間川親水公園という、いまだに読み方がわからない公園を流れる川だ。

あまり詳しい情報を仕入れずに訪れたのだが、船が一艘あって係の人が数人いるくらいの規模かと思ったら、想像以上に観光地化していて驚いた。


江戸時代にタイムスリップというか、どこかの観光地にワープした気分。
気合を入れて乗船開始時間に合わせていったら、落語界の重鎮みたいな会のおじさん達が朝礼をしていた。

今にも雨が降りそうな平日の午前中だというのに、けっこうお客さんが並んでいた。みんな救命胴衣がよく似合うなと思ったが、たぶん赤いちゃんちゃんこに似ているからだ。
「ろこぎ」の文字が、「うなぎ」に見えた。そういえばまだ今年はウナギ釣っていない。

東西線に乗ってやってきたはずなのに、どこかの小江戸的な観光地にきた気分。

和船友の会の方達が、見事なまでに(たぶん)全員江戸っ子で、それぞれが落語界の重鎮とか大工の棟梁みたいな、なにか一流の技術を持っている人独特の雰囲気を醸している。

 

和船は独特の乗り心地


和船、かっこいい。

ほとんど木だけでできた和船の存在感がすごい。取材だけどインタビューなどは後回しにして、さっそく乗船してもらったのだが、これがよかったのだ。

まず船の動き出しがとてもなめらか。エンジンのある船と違うのはもちろん、オールで漕ぐボートに比べても全然穏やか。ほとんど流れのない川の上を、風に吹かれた笹舟のように動き出した。こんな船、乗ったことない。

乗ったことがないけど電気自動車ってこういう感じなのだろうか。漕ぐというよりは水を練るようにして進んでいくのだが、船頭のおじいちゃん一人がそれほど力を込めずに、10人くらい乗った船がすいすいと運んでいく。


水しぶきが一切あがらない。漕ぐのは難しいかと聞いてみたら、「おむすびだって最初はうまく結べないでしょ。」との返事。
前に座った会の方が、ガイドっぽくではなく、雑談っぽく解説をしてくれる。そこがいい。

船がすれ違うと、つい手を振ってしまうのはなんでですかね。登山ですれ違う人が挨拶するようなものか。
あ、カッパだ。

普通の船は揺れがガッシャンガッシャンと上下なのだが、この船は左右に揺れながら進む。

櫓の動きに合わせてドンブラコー、ドンブラコー。とてもなめらかなドンブラコ。「ドンブラコ」という言葉は、和船の時代にできた言葉だなと思った。

これは楽しい乗り物だ。閉じられた公園内の川をぐるぐる回るだけではなく、これで河口まで出てもらってハゼでも釣りたい。

将来大金持ちになったら、飽きたフェラーリを売って和船を買うんだ。なんて。

 

「和船友の会」の方にインタビュー

コースを一周まわって和船がすっかり気に入ったところで、会の氷見(ひみ)さんに話を聞いてみた。


  この「和船友の会」とはどういった会なのですか。
氷見 昔、この辺は運河があって、昭和30年くらいまで和船が通っていたんですね。それで江東区が親水公園をつくるにあたって、昔の和船を建造しようということで、平成5年に2艘つくったんですよ。
  昭和30年っていういと50年以上前ですね。
氷見 それで展示しているだけじゃなくて、あの船は動かせないのかっていう話になって、江東区が手漕ぎの船をこげる人を募集したの。

話を伺った氷見さんは映画俳優っぽい雰囲気。声がまた渋いんだ。

  漕げる人、残っていましたか?
氷見 募集したところ、昔漕いだことのある人が、18人くらい集まった。まあ、うまい人もそうでない人もいるんだけど。それで集まった人で、船をなんとか運航できないかってはじまったのが、和船友の会が発足したきっかけですね。
  今は何人くらい会員がいるのですか。
氷見 人数は60人くらいいてみんなボランティアなんだけど、だいたい30人くらいが乗船会に参加している。昔、漁師をやっていたという人もいるし、川の近くで育ったから子供のころにやったことがあるっていう人もいるしね。私とかはこの会を知ってから教えてもらったんだけどね。
  この会ではじめて和船を漕いだ船頭もいるんですね。
氷見 今は八割くらいそうだよ。下は中学生から上は94歳が最高齢。女性の船頭もいるよ。今は活動が平日だから、中学生はこれないけどね。
  和船に乗って船頭が中学生だったらびっくりしますね。ところで船がいっぱいありますけど。
氷見 もう廃船になった釣船とか荷物を運ぶ船とかをもらいうけて、順次船が増えていって、今は六艘ある。船にも種類があって、まず漁で使われた網船。これは下がいけすになっているのね。長距離で荷物を運ぶための船は荷足船。それから伝馬船っていって、底が平らな船は荷物を小分けして小さい川で運ぶ船。猪牙船っていうのはタクシー代わりで、江戸時代は旦那衆がこれで吉原にいったりしていたんですよ。

船にはかわいい名前がついていた。どりーんってなんだろ。

  ずいぶん古そうな船もありますが、この和船って長持ちするんですか。
氷見 船は手入れ次第で何十年も持つんだけど、木でできているから、乾燥すると縮んじゃう。だからある程度膨張することを考えて作ってあるから、陸に上げて展示している船は使い物にならないの。
  なるほど、和船は博物館に展示してあるだけじゃ保存にならないんですね。

 

船を漕がせてもらった

この会では乗船体験だけでなく、空いていればちょっと漕ぐことも可能なので、もちろん漕がせていただいた。

左足を前に構え、櫓を押すと船は右に行き、引くと左に進む。 まっすぐいっているようだけど、実際は左右にジグザグと進んでいるのが漕いでみるとよくわかる。

「継ぎ櫓」という二つの木を組み合わせた日本独自の櫓はプロペラと同じ原理だそうで、魚が体をくねらせて泳いでいるように船を進めていく。穏やかな水の上を進む分には、力は拍子抜けするくらい不要だ。


へっこき虫、いや、へっぴり腰でもけっこう進む。自分の力以上に船が進むのが楽しい。
これは櫂(かい)といって、櫓が使えない狭い場所や、バックをするときに使う長いオール。こっちは全然扱えなかった。

「あ、カッパ!」「おう、カッパだな」
「カッパだね」

櫓を漕いで進むだけならなんとなくできるけれど、うまく漕ぐには習得すべきコツがたくさんいりそうだ。この操船方法は、船と一緒に残すべき伝統技術なのだと思う。実用性はないかもしれないけれど、なんといっても楽しいのだ。

乗せてもらうのも楽しいけれど、漕いでいるほうも楽しい和船。多い日で一日200人以上が体験乗船し、それを支えるボランティアの会員もだんだんと増えている理由がよくわかった。

和船、楽しい

今までにけっこういろいろな船に乗ってきたけれど、櫓を動力とする和船はどんな船とも違う乗り心地がした。まるで亀の背中にでも乗っているような気分になれる優雅な乗り物。

船頭さん達との会話込みで、また楽しみたいと思う。

一緒に乗ったおじさんおばさんと仲良くなる編集部工藤さん。

和船乗船体験の情報はこちら


 
 

 

 
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