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とくべつ企画
 
激黒! 青森の東北温泉とは

ぼくの思う魅力的な温泉の条件のひとつに、「色がついている」というのがある。ビジュアル的に「家の風呂とはわけがちがう!」と納得でき、即非日常の気分にひたれるからだ。ぼくの住む岩手にも、松川温泉(乳白〜乳青色)や国見温泉(エメラルドグリーン!)といった温泉があり、また隣の秋田には、いまや日本有数の人気をほこる乳頭温泉(いわずと知れた乳白色)など、色のついた温泉が数多くあるわけだが、今回はかねてから気になっていた、ある温泉に行ってみることにした。

もったいぶったわりにタイトルで既にバレバレなわけだが、日本一の黒さともいわれる、青森県の「東北温泉」だ。

(text by 櫻田 智也


 

東北温泉に興味あり

去年だったか、いっときジョギングをしていた頃、せっかくだからマラソン大会にでもエントリーしようかと日帰りでいけそうな会場をさがしてみつけたのが、青森県の東北町でおこなわれる「わかさぎマラソン」だった。


走ってました、去年の夏ごろ

で、青森県といえば温泉天国。走った疲れを癒すのにどこか良さそうな温泉はないかと、またまたさがしてみつけたのが、今回訪ねる「東北温泉」だ。

結局大会は参加せず、いつのまにか走るのもやめてしまったのだが、この温泉のことだけは気になりつづけていた。

スニーカーにスポンジつけて「衝撃吸収!」とか
遊んでいるうちに練習をやめてしまっていた

というわけで、ゴールデンウィークの企画として「激○○なものを体験」という内容をきかされたとき、ずっと気になっていた「すごく黒いという温泉」に行ってみようとおもった。ぎゃくにこの機会を逃せば、車で3時間もかかる温泉に日帰りででかけようという気分には、もうならないかもしれない。


矢印のあたりが目的地

さて、イントロでも書いたが、この東北温泉は「黒い」温泉だ。しかも「日本一黒い」とまでうたってしまっているのだという。
そんな滅多なことをうっかり言ってしまって大丈夫なのだろうか。しかもデイリーポータルZに書いてしまって平気なんだろうか。といった心配をしつつ温泉をめざす(心配のこたえは後半で)。3時間も運転していると下手な運動よりよっぽど腰に疲れがたまるので、早く温泉につかりたい。


でも道の駅があると寄ってしまう

白いのは以前に「エキサイティング にんにくとべごまつり」という記事で取りあげられた田子町のにんにくだ。今年こそはあのイベントに行ってみたい。


生誕100年を過ぎても「生れて墨ませんべい」は健在だった

 

着きました

「生れてすみません」を持ちギャグみたいに扱われた太宰の心中を察しながら、いよいよ東北温泉に到着である。


2年前に改装したとのこと

これが湯の黒さでその名を轟かせる温泉か……と、ふと看板をみあげたら、


まさかの冷水風呂押し

やるな、東北温泉……。と、わけのわからない感心をしながら、館内に入る。

実際は、社長である沢田さんにお話をうかがってから入浴したのだが、ここはもったいぶらず、先にお風呂を紹介してしまおう。

珈琲か

こちらは貸切用のお風呂。おもてに面した開放的な浴室に陶器の湯船がひとつ。
その中にたたえられた、「なるほど黒い」と納得のお湯。
まるでブラックコーヒーが湯船にたまっているといった感じ。色つき温泉好きとして、テンションが一気にあがる。


身体も半分以上みえない

この浴槽、脚をのばして入れるようなつくりなのでたいして深いわけではないのだが、それでもお腹のあたりからまったくみえない。
これなら裸NGで記事を書かせてもらっているぼくでも心配せずに入れる。


事務所との契約上これがギリギリです

こんな毒々しい色をしているのに、匂いは特に感じない。ためしに少し舐めてみたが、味もたいしてないようだ。
肌への刺激も穏やかで、それでいて湯の中でどんどんツルツルしてくる。
見た目とちがってとにかく人に優しいヤツなのだ。


浴槽に注がれる湯がすでに褐色

これがたまって黒い湯になります

カランからでてくるお湯もしっかり黒い

洗い場の蛇口からでてくるお湯も源泉という贅沢さ。ちなみに湯船の水も源泉かけ流し。源泉の温度は47.5℃とのことで加温もなし。湯量豊富な温泉なのだ。
それでいて(貸切風呂は別料金が必要なのだが)通常の大浴場は大人270円というかなりの安さである。


こちらは男性大浴場の露天風呂

大浴場にある墨のような露天風呂。「もしかして露天風呂じゃなくてただの沼かしら」という疑念が一瞬よぎるほどだ。
そしていざ入ってみれば、底が見えないので他人の足を踏みまくりという、いやでも裸のお付き合いができてしまうお風呂だった。
お父さんが子供に対して、「ここから向こうにいってはいけない。この先はものすごく深くなっていて、そこにいるお兄さん(ぼくのこと)は必死に立ち泳ぎをしているんだ」と嘘を言って、子供を真剣にびびらせていた。

大浴場にはこの他に大小5つの浴槽とサウナ・水風呂がついていて、水風呂を除けばもちろんそれらも真っ黒である。


そして「ものすごく火照る」ということも
申し添えておかねばなるまい

 

沢田社長のお話

さて、前後してしまったが、社長である沢田さんに時間をいただいて話をうかがった。


食堂で話をうかがう

――温泉をはじめたのはいつ頃ですか?

田中角栄の日本列島改造論があったでしょう。その頃に東京の不動産屋がこのあたりをボーリングして、温泉つきの分譲地っていう形で売り出そうとしたのが温泉開発のきっかけ。それから地元の人間も温泉を掘るようになって、私がここを掘り出したのは昭和49年だね。

――それまではなにをされてたんですか

小さな銭湯をやってました。

――青森は人口あたりの公衆浴場が多い県なんですよね。

青森と鹿児島が多いね。で、まわりがみんな温泉をはじめていくなかで、自分もそれに挑戦するか、それとも浴場を止めてしまうか、どちらかだった。営業をつづけるためには掘ってみなくちゃならなかった。

――日本一黒いというのはどういうことですか?

全国にある植物性モール(植物が堆積してできた亜炭の層)の泉質をもつ温泉を集めて分析したところ、ここの湯がいちばん黒かったという検査結果をもとにしています。検査対象に入っていなかった温泉については、私が電話で先方に調査しました。「どう? 底みえる?」って。
東京にも、そうとう黒い温泉があるんだけれど、泉質がちがうんですよ。植物性モール温泉ということでは、やっぱりここが日本一黒いと思います。
いまはインターネットが普及してすぐ口コミがひろがるでしょう。そんななか、根拠もなしに「日本一」とか言えないもんね。


うっかりで日本一とか言っちゃうような人ではなかった

――最初に黒い温泉をみたときはどう思いましたか。

白くしようとしました。

――は?

あんまり黒いんで、なんとか白く(透明に)ならないか薬剤つかってみたり、いろいろやりました。結局なりませんでしたけどね。ははは。

――すぐに人気がでましたか?

インターネットとかで口コミがひろがるまでは、地元の人ばかりの小さな温泉でした。いまでは逆に混雑して地元の人が入れない場合もあったりして、悩みのひとつではあります。
あとは従業員の教育とかね。忙しい時って、どうしてもぶっきらぼうな対応になりがちでしょう。そのへんは、しっかりしていかなきゃね。


うちは温泉界の黒船じゃきい
(そんなことは言ってませんでした)

――ちなみにお湯は飲めますか?

飲めるけど、やめといたほうがいいよね。

 

 

全国の温泉のあり方、地元の活性化など、広い視野を持つ沢田さん。
加水なしの源泉のような熱い心で、今日も温泉の発展に頭を悩ますのだった。

その他、沢田さんの今後の展望

・9月6日を東北温泉の日にしようかと思っている(クロの語呂合わせで)

・ペ・ヨンジュンが温泉好きらしいので、韓国に営業に行くつもり

・インドの人に温泉に入ってもらい、むかしカレーのCMにあった「インド人もびっくり」というコピーでポスターをつくろうと思ったが、 さすがにやめた。

というわけで、この記事が公開される頃には連休も終盤ですが、私ももうひとっ風呂浴びに、どこかへでかけたいと思います。

食堂で「黒豚カツ丼」を食べるも
撮った写真3枚がすべて「うっかり顔」


東北温泉ホームページ

https://www.touhoku-onsen.com/

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