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ひらめきの月曜日
 
普通が普通じゃなくなってる信州そば屋めぐり


 

「普通」という言葉を辞書で調べたら、「特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること」と出てきた。そうだ、普通とはそういうことだと思う。他にも「中くらい」とか「並」といった言葉も大体同じような意味だろう。

今回訪れたのは、日本でも有数のそばどころとして知られる信州・長野。そばがおいしいというのはわかる。しかし、勢い余ってなのか、どうも「普通」という言葉の基準がおかしくなってる店がいくつかあるようだ。

そういうわけで、普通がもう普通じゃなくなっているそば屋さんをめぐってきました。

小野 法師丸



そばを軸に考える、普通って一体なんだろう

一般的で、これといった特徴のないこと。それが「普通」。言葉の意味としてはそれで異論はない。しかし、よくよく考えるとどうしても曖昧さが付きまとう言葉でもあると思う。


稜線も美しい信州の山々
理容エロイカ前にて

今回は改めて「普通とは何か」ということを意識しながら信州のおそば屋さんを回ってみよう。

インターを降り、彼方に見える山々と気になる名前の理容室前で記念撮影したあと、まずやってきたのは、上田市にある「刀屋」という店。


老舗っぽい構えの町のおそば屋さん
すごい人気

お昼前に到着したにも関わらず、店の前はかなりの行列。静かな町並みの中で、比較的小さなこの店の前にだけ人だかりができている様子は期待を高める。

40分ほど並んで店内に入店。まずは壁にかかっているメニューを見てみよう。


盛りシステムが変則的
じっと待ちます

小・中・普・大と、右から左に向かってだんだん量が増えていくと思われるラインナップ。「普」というのはやはり「普通」ということなのだろうが、中と大の間というポジショニングがやや意外にも思われる。

個人的に量を食べる方なので、こうした店では大盛りを頼むことが多いのだが、今回は普通とは何かを考えるそば屋めぐり。普通盛りを注文してしばらく待つ。出てきたのがこれだ。


普通

これ、普通じゃないだろう。明らかに大盛りか、それ以上だろう。

ただし、もちろん個人的にはうれしい普通基準。なんとなく入った店で出てきたそばが、ちょろっとしか盛られていなくてさみしい気持ちになることは、そば屋でよくありがちなこと。そういう悲しい思い出を吹き飛ばす盛りだ。


横から見ても立体的
右側が「小」

一緒に「小」も頼んでみたのだが、こちらがちょうど一般的な店での普通の盛りという感じ。実際、この店で普通盛りを注文しようとした女性のお客さんに、店員さんが「女性の方は小か中でちょうどよいと思いますよ」とアドバイスしていた。

また別の男性客は、「大盛りってかなり多いんですよね」と確認。店員さんは「自信があるならいいと思いますけど…。足りない場合は食べてから言ってもらえれば、大盛り分をあとから足しますよ」との返事。

つまり、最初少なめに頼んでおいて、途中から盛りをアップすることができるわけだ。この選択ができるのはうれしい。


普通と向き合う
身も心も満足

しかし、普通盛りを食べ終わった時点でもうかなり満足。追加システムを利用することなく満たされた。これが一般的に言う普通かどうかということについては疑問はあるが、個人的にはこのずれた「普通」がうれしい。

続いてやってきたのは、同じく上田市内にある「草笛(上田店)」というお店。小諸に本店があり、県内にいくつか支店を出しているようだ。


立派な構えの大きな店
ウェイティングには人がいっぱい

こちらもやはりかなりの人気店で、席を待つ人が店内にはたくさんいた。そば屋でしばしばあるように、この店でもそば打ちを実演しているのが見られる。全身粉だらけになってものすごい手さばきで打つ姿に、大人も子供も目を奪われる。

そういう目で楽しめる要素もあって、それほど待った気もしないうちに席に案内された。


実演で興奮する子供の気持ちがわかる
メニューの字が達筆すぎて読解に自信がもてない

お品書きの字がうますぎるのも気分を盛り上げる。メニューを右から順に読んでいき、もりそば、ざるそば、とろろそばまで読み取れたのだが四つ目がわからない。

注文を取りに来た店員さんに聞くと、これは「くるみそば」であるとのこと。質問した流れもあってそばの種類はそれでいくことにしたのだが、問題はどの盛りを頼むかだ。


中盛りの追加額がおかしくないか

メニューには「中盛三三〇円増」との表記が。330円増しって、ずいぶん高くないだろうか。中盛りを頼むつもりでいたのだが、この価格設定に警戒感を覚える。

確かめてみると、中盛りは並みの2.5倍あるとのこと。さっきの店で普通じゃない普通盛りを食べてきた自分にとって、それは無理がある。というわけで、ここでは並で頼んでみた。


並(トラップあり)

やってきたそばは、桶に盛られたタイプ。ビジュアル的にはインパクトがないかもしれないが、よくよく確かめてみるとこの店の並も並ではない。


結構深さがあります
もっさー!

この手の器ではしばしば上げ底がしてあるが、この店の場合は桶そのものの深さを生かして結構しっかりそばが入っている。箸で麺を寄せてみると、その量が確認できる。

実際、そばの席にいた女性客のグループは、「なんか多いわ…」「多いわね…」とつぶやきあって食べていた。食べはじめてじわじわ効いてくる、並の並じゃなさ、なのだ。


食べすぎでラクダみたいな顔になった

メニューには並以下の盛りはなかったので、近くで座っていたおばあちゃんにもこの盛りで注文していたそばが登場。おばあちゃん、がんばれ!と応援したくなる量だ。

続いて、日を改めて訪れたのは長野市にある「たなぼた庵」というお店。最寄り駅は歴史上有名な川中島というところも、合戦気分を盛り立てる。


かわいい看板
でも行列は鬼のよう

こちらのお店もこれまで訪れた店と同様、人気店のようでかなりの行列。停まっている車のナンバーは県内も県外も取り混ぜていろいろある。人は普通じゃないおそばを求めて集結するのだ。

順番待ちの紙に名前を書いて、横にあったメニューを見てみると、なんだか普通じゃないことに気がつく。


「もりそば」と「中もりそば」の価格差に注目 
でも量は2倍

並と思われる「もりそば」と、「中もりそば」との値段の違いはわずか20円。それでいて説明によると、量は2倍の違いがあるとのこと。

なんかおかしくないだろうか。こういう設定を見ると、やはり中盛りを選びたくなるというもの。


ウッディで若々しい雰囲気の店内

そういうわけで、ここでは中盛りを注文。「中」という言葉も語感的には普通と近しいものがある。そもそも、そば屋の並盛りというのは量的に結構少なめのことも多いから、その2倍と言っても大したことはないかもしれない。

そんな風に思いながら待つ。やってきたのはこれだ。


中盛り

だからさ、これは中盛りって言葉にそぐわないだろう。実際に音はしなくても、「ドーン!」と聞こえてきた気がするようなビジュアルだ。


まさにこんもりといった立体感
価格差20円

真横から見ても変わることのない迫力。一緒に頼んだ並盛りと並べてみると、差額が20円というのが信じられない違いがある。量は2倍とのことだが、高さがあるためか見た目のインパクトは倍以上あるように感じる。

細打ちでおいしそうな麺。食べようと思ったそのとき、離れた席からドカーンという音がしたような気がして目を凝らしてみる。


ドカーン!

あれがきっと大盛りなのだろう。一瞬ふざけてるんじゃないかと思うようなたたずまい。同時に、さすがにあれにしなくてよかったとも思う。

中盛りをすすり始めるのもその量ゆえに緊張感があったが、食べてみるとのど越しのよさもあって普通に平らげてしまった。「ちょうどよい」よりちょっとだけ上の満足感。おいしかったー。

2番目の「草笛」にあった張り紙

普通盛り、並盛り、中盛りと、言葉に差こそあれ、どれも言葉の意味とはかけ離れるところのあったそば屋めぐり。量的な意味でのインパクトだけでなく、そばどころだけあって味の基礎体力もしっかりおいしいのが印象的だった。

上の張り紙は2番目行った店である「草笛」にあったもの。90歳以上の人にはもりそばがサービスされるそうだ。

この計らいもすごい。個人的にはあと53年後。思いっきりおじいさんになってまだ生きていたら、またこの店に来て天ぷらを一緒に頼む勢いでサービスのもりそばを食べてみたい。


 
 

 

 
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