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フェティッシュの火曜日
 
コンビーフ缶みたいなわらび餅缶がうまいのなんの
巻き取って開けるぜわらび餅

昔から変わらない形状で売られ続けているものはたくさんある。

コンビーフもそのひとつだと思うのだが、それにしても頑なにああだ。いつまでもクルクル巻き取って開けるタイプの缶詰としてスーパーにある。

周りの缶詰が缶切り方式からプルトップタイプになっていくなか、孤立奮闘、頑固に巻取り式を維持しているなと思っていた。

あの開け方はずいぶん特殊で独自だ。「コンビーフ式」としかいいようがない、と、ずっと思っていたのだが、他にもあった。

それが、わらび餅だったのであるよ。

(text by 古賀及子



わらび餅以前にランチョンミート界でも一般的

わらび餅の話題に行く前に、あのザ・コンビーフという巻取り鍵を使うタイプの缶詰はどうもランチョンミートの缶詰にも割とあるようなのだ。

ランチョンミートといえばSPAMが有名。そのSPAMがプルトップタイプなだけに見落としていた。

カルチャーカルチャーで缶詰イベントも行う缶詰博士の黒川勇人さんに教えていただいたのだが、国産のランチョンミートとして有名な沖縄の「わしたポーク」(リンク先は黒川さんのブログ)や、デンマーク産のチューリップ社のランチョンミートが巻取り鍵式だという。

チューリップ社では、そのほかショルダーハムも巻取り鍵の缶詰で出しているようだ。


近所の輸入食材店を2軒探してみたらどっちの店にもチューリップのランチョンミート缶がサクッとあった

確かに、プルトップがついていない

ぜんぜんコンビーフだけじゃない

なんと、意外にもよく行く店の店頭に知らん顔して並んでいたのだった。巻取り鍵式缶詰の代名詞をほしいままにするコンビーフだが、その牙城は意外にもろいぞと私が少し焦るくらいだ。

大丈夫か、コンビーフ。

いや、コンビーフの立場を心配する記事じゃなかった。むしろ、この状況を私は喜ぶべきなのだ。


確かに鍵が。ひらべったいかわいい鍵 ちなみにコンビーフの方の鍵は立体的

憧れの巻取り鍵を、いま

この状況を喜ぶべき、というのには訳がありまして。実をいうと、私は今は大好きなものの子どもの頃コンビーフがあまり得意でなかった。

母の手伝いで、兄弟が手伝いでクルクルと缶を開けているのを「今日の晩ご飯はコンビーフかあ」という目で見ていたのを覚えている(実家では私が小学生くらいの頃までよくコンビーフのメニューが出た。どっかからもらっていたのかも)。

わたしも、あの缶を開けたかった。でも、コンビーフが出るのは困るから、缶を開けるのは嫌だ。

そうして、巻取り鍵で缶詰を開けるという行為を体験することなく、大人になったのだった。

子どもの頃の私に伝えたい。コンビーフじゃなくても巻取り鍵で開けられる缶詰があるよと。ただ、東京で買うとチューリップのランチョンミートは少々高いのでそれが伝わったところで親には買ってもらえまい。

このたび、チューリップ社のランチョンミートを購入して多分生まれて初めて巻き取り鍵で缶詰を開けることとなった。


その様子の写真です。掲載する必要が果たしてあるのだろうか うわあ、気持ちいい

そうだ、クッキーの缶のシールだ

缶詰博士の黒川さんのブログでも、この巻取り鍵式の缶詰は“数ある缶詰さんの中でも、もっとも開缶心地のよいものなのだ”とあったが、確かにその通りだ。

プルトップよりも手間はかかるが、こんなに楽しいものだったとは。この快感、クッキー缶の密閉シールをはがすときの感じに似ている。あれ、子どもの頃大好きだったのだ。

私があのシールをはがすのを好きだと知っている祖母などは、いまだに機会があるとシールをはがす役目を私に振ってくれる。もちろん、31歳になっても楽しいし、祖母の気持ちはとっても嬉しい。

子どもの頃の私が巻き取り鍵の缶詰の楽しさを知っていたら、もしかしたらコンビーフも好きになっていたんじゃないか。


ぬめっと開いた。おおー とりあえず、焼いておむすびにしましたよ

さて、わらび餅です

前置きが長くなったが、そういったわけで巻取り鍵の缶詰のすばらしさに気づいた私である。

あとは機会のあるごとにランチョンミート缶を買えばいいわけであるが、そんなとき偶然出あってしまったのだ。巻取り鍵付きのわらび餅に。

先日、義祖母を尋ねて名古屋に行く際、和菓子好きの友人がすすめられて買った つくは祢屋という和菓子屋さんの「そぶくめ」というお菓子がそれだ。

残念ながら販売元の和菓子屋さんへ行く時間がなかったのだが、名古屋高島屋にある「銘菓百選」という各地の銘菓を取り揃える店にあると聞いて買ってきた。


百貨店の銘菓コーナーって本当興奮しますよね 税込み1470円とあって、貫禄の化粧箱入り

化粧箱から出てきたぞ缶詰

わらび餅というと私がぱっと思いつくのはスーパーでトレイに入って売られているタイプのもの。友人には「そぶくめ」が缶詰のわらび餅、だとは聞いていたので、これも安価な駄菓子的なものだと思っていた。

それがなんとひとつ1470円。缶詰でいうとカニ缶の一歩手前くらいする。わらび餅なのに、だ。

しかも包装をとくと、中に入っていたのは化粧箱である。そしてその化粧箱を開くと梱包財のプチプチの下に、確かに缶が入っていた。


缶だ、そして、鍵だ!

巻き取り鍵の缶詰なのも珍しいが、ここまで仰々しい缶詰というのもそうないんじゃないか。これはずいぶん驚きどころ満載、サービス精神旺盛な銘菓。

早速開けてみる。おお、と思ったのは、缶の全体が巻取りの部分“帯”であるということだ。なんだ、この缶に対して一切遠慮のない感じは。


遠慮なく早速開けましょう なんと、缶全体が帯

不安になるくらいどんどんあらわになる内容物 わらび餅をわしづかみという不思議

裸に帽子と靴下だけ、という状態に

遠慮なくぐりぐりと出てくるわらびもち本体に、正直ちょっととまどった。いいのかこんなに全開で。

巻取る帯の幅の狭いコンビーフやランチョンミートはCDのパッケージフィルムを剥がすのとちょっと似ているが、こちらは何かシャッターを開けているような豪快さがある。

なんとなく一気にあけてはまずい気がして、途中でお茶を沸かしに立った。


とまどいながらも、終点まで開きました 裸に帽子と靴下だけみたいな状態か

ぱかっ

きなこをまぶしていただきます

缶を開けるだけでここまでの興奮は自分でもどうかと思うが、ちょっとない缶詰体験だった。

さらに、缶の特異さに驚いて後回しになっていたが、このお菓子、わらび餅(リーフレットには“わらび菓”とあった)、としてもちょっと普通じゃないのだ。

わらび餅というとイメージでは透明色だが、こちらは茶色。そして、かなりゆるゆるとしてやわらかそう。

リーフレットに丁寧に食べ方が指南してあった。


付属のへらで切って

これまた付属のきな粉(砂糖の入っていない純粋なきな粉)を、ふりかけるのではなく、たっぷりまぶす

食べてみるとおいしいのだ。これが。おいしくて、ひゃあ、と思った。

やわらかくて口でとける。たしかに餅という食感なのだが、本体に砂糖が入っているのだがどこかさわやか。

いかにも銘菓といった古くからあるようなお菓子があまり得意でない方にはピンとこないかもしれないが、私にはかなり直球でささるお菓子だった。うっかりパクパク食べてしまって、うっかり丸まる食べるところだった。

扱うお店のつくは祢屋さんが、なにしろ創業1781年という歴史のある熱田神宮ご用達のお店だそう。「そぶくめ」という名前の品格といい、なにやら偉いお菓子のようだ(豪華な化粧箱も納得)。

缶を開ける段階で全裸に帽子と靴下だけだとか言ってばちが当たらないか心配になった。


もう少し食べよう

定期的に巻き取っていきたい

ランチョンミートも「そぶくめ」も、巻取り鍵で缶詰を開けられたというのはささいであるが、感動だった。こういう小さな感動がまだまだいろいろ残ってるんだろうなと思うと静かに嬉しい。

いま上の小見出し「定期的に巻き取っていきたい」をタイピングしたら最初「定期的に巻き取って生きたい」と出た。そうだな、これからは1年に一回くらい巻き取って生きて行こうか。誕生日とかに。

そうするとなると毎年恒例で買うのがランチョンミートかわらび餅かどっちかになるのか。なんだろうその2択は。

食べたものが美味しいと、やたらな枚数の写真がカメラに残る


 
 

 

 
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