最終章は森のかなたに…
さまざまなポーズで素材集をマスターしたところで、今度はオリジナルポーズで素材集的な雰囲気を出してみたい。ここまでは「素材集を 真似る」という基本ルールがあったわけだが、そんなものも撤廃し、いよいよ悪ふざけだ。
先攻の私が考えたポーズはこれだ。
股のぞきポーズである。しかし、考えついて頭の中でイメージしていたときにはいい写真になる予感があったのだが、実際に撮ってみるとどうも違う。
あんまり面白くない写真でしかない。際立つのは伸びきった膝裏の痛みばかりだ。
櫻田さんにモデルになってもらってみても、どうもこのポーズはつまらない。しかし、撮影している様子を撮影した写真はいいんじゃないかと思った。全く訳がわからない。
まずい、一応「素材集っぽい写真を撮る」というルールは死守したい。このままでは単なるおっさん同士のじゃれあいになってしまう。
後攻の櫻田さんが考えた構図はこれだ。
木の実を枝から直接食べようという、ちょっとおどけたシチュエーション。グループ旅行での記念スナップにはよくありそうな感じだ。
あるある感という意味ではいい。しかし、素材集感にはどうしても欠ける。この写真がなんのどんな素材になるのかを一応考えたの だが、全く思いつかないのですぐにあきらめた。
シングルタイプではあまり素材集らしさを出せなかったが、続いてはペアタイプで巻き返したい。二人で協議して導き出した答えはこれだ。
馬跳びである。先ほどまでのシングルタイプの写真より、少しは素材集っぽさが出てきたのではないか。
もちろん、具体的にどんな風に素材集として使われるかを考えると視界は曇り出す。あくまでイメージ。うわべだけのそれっぽさを味わっていただきたい。
アイドルの写真集では定番の木陰顔出しの写真についての解説はもうスルーして、続いてのテーマに進みたい。オリジナル編の最後は、 「互いが互いをプロデュース」だ。
相手にぴったりだと思うポーズをお互いが考え、撮影し合うというもの。他愛のない遊びだ。誰を傷つけるでもないのだから。まずは私が櫻田さんを撮ってみる。
とは言え、撮るからには相手の魅力を最大限に引き出したい。カメラを向け始めてみると、構図や表情にいろいろと注文を出したくなる。その真剣さは、被写体への理解と愛を試されていると感じたからかもしれない。
カメラを連写モードにしていくつかの角度から撮影。数十枚の中から自分なりに選んだベストはこれだ。
唇に寄せたクローバー、メガネ、下がり眉毛。芝生の緑も萌えている。全てが渾然一体となって、渾然一体となって…。渾然一体となった止まりだ。深い感動というのものは人を沈黙させる。この写真をかわいいと思うのは、普遍性があるものなのか、それとも私の中に芽生えた個人的な感情なのか。
続いては逆。静の写真を撮った私に対して、櫻田さんは私にアグレッシブに動くことを要求してきた。
丘から駆け下りる私。両手をいっぱいに広げ、太陽の光と緑の優しさを体いっぱいに浴びる。そよ風の中を走りすぎたあとには、もう膝がガクガクだ。
坂の上り下りは疲れるので、一発でうまく撮れるとよかったのだが、キャメラマン櫻田は撮った写真を画面で確認したあと、「もう一回お願いします!」。最高の写真を撮ろうとするその姿勢に打たれ、 再び丘を登る。
二回目の撮影のあと、写真を確認した櫻田さんは「うん、今度はいいです!じゃあ次はブランコに乗ってください」と、まさかの次なる指示。えー、まだやるの!
しかしモデルの私に拒否する選択肢はない。できる限り足をピンと伸ばしてブランコを漕ぐ。
撮影後、四人で食事をしながら、「どうする、今回の写真、フリーの素材ってことにしちゃっていいのかな?」などと櫻田さんと話していたところ、ダブルワイフから「それはやめてー!」とのコールが。
二人は何かを恐れているらしい。私たちも家族が傷つくようなことをするつもりはない。
写真を編集するに当たり、パソコンの画面に並んだサムネイルを見て、改めてやばさを実感。無邪気なのに邪気に満ちているという不思議な感覚を覚えました。