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ひらめきの月曜日
 
糸通しになった私


これが蘇です。

以前、調べ物をしていた時に、古代に作られていたある食べ物について知りました。そのお食べ物は砂糖不使用。牛乳のみで作っているのに甘いらしいのです。

その食べ物の名前は「蘇(そ、「酥」とも書く)」。飛鳥時代から作られていた乳製品で、とても美味しいらしい。

実際に作ってみました。

馬場 吉成



昔はかなり高級な物だったようだ

蘇は古代のチーズとも呼ばれています。日本では、最も古いもので7世紀末の飛鳥時代に製造された記録が残っているそうです。上流階級の人々が滋養をつける薬としてこれを食べ、盛大な宴や儀式の供物としても使わていたのだとか。とりあえず高貴な食べ物のようです。

そして、その作り方。諸説あるようですが、「延喜式」と言われる平安時代の書物にこのように記載されています。

「乳大一斗煎得蘇大一升」

18リットルの乳を1.8リットルになるまで火にかけると蘇が出来る。つまり「牛乳を煮詰めろ!」。そういうことのようです。意外に簡単。作ってみます。


原材料、牛乳。以上!

 

それほど簡単じゃなかった

蘇の材料は牛乳のみです。道具は鍋とヘラ。これだけあれば蘇が作れます。


鍋に牛乳入れて。

加熱開始。あとはゆっくり混ぜ続ける。

鍋に牛乳を入れたら一度沸騰手前まで温度を上げます。温度が上がったら火を一番弱くして、ヘラでゆっくりかき混ぜながらそのまま加熱を続けます。


簡単に焦げ付くので目を離してはいけない。

牛乳を加熱するときは、直ぐに噴きあがったり、焦げ付いたりするので、なるべく手を休めずゆっくりとかき混ぜ続けます。目を離してはいけません。


開始から1時間経過。椅子に座ってやりだす。

加熱開始から1時間経過。途中薄く膜が張るもののそれほど変化も無く加熱作業が続いていきました。


2時間経過。徐々に減ってはいるけどね。ちなみに、牛乳に膜がはるのをラムスデン現象といいます。豆知識。

加熱開始から2時間経過。徐々に鍋の中の物も減ってきました。若干色が変わって気持ちドロッとしてきた感じはある。しかし、相変わらず加熱作業が続きます。

蘇の作り方が書かれた書物にはこの作業を3日3晩行うとも書かれていたようです。3日3晩で72時間。18リットルに対して1リットルでやっているので、単純計算で4時間?あと、2時間は続けないといけないのか。思った以上に蘇作りは大変なようです。

 

とうとう変化が出てくる

そして、更に加熱を続ける事1時間。開始から3時間経過したあたりで牛乳に変化が出てきました。


底が見えた!

牛乳がかなりドロドロとしてきて、ヘラで切ると鍋の底が見えるようになってきました。さあ、もう一息!


マッシュポテトではありません。牛乳です。

やがてすっかりペースト状になりました。ここまできたら加熱終了。これを型に入れて固めます。


チーズのような香りとほのかな甘み。

冷えてくるとペースト状になった牛乳は硬くなり1つの塊になりました。熟成を兼ねて、このまま2日ほど冷蔵庫に保管。取り出して切ったものがこちら。


ケーキのような、チーズのような。いや、暖めた牛乳の塊です。

出来上がった蘇は結構硬く、包丁でザックリと切れます。少し食べてみると、食感はサクサクしている。香りは甘い牛乳独特の香りを強く感じます。ちょっとチーズにも似ている。いや、バター寄り?

そして、肝心の味。チーズのような風味の後に、ほんのりと甘さを感じる。砂糖は使っていないのに確かに甘いです。牛乳の自然な甘さが強調された感じです。お菓子のような甘さではありませんが、確かに甘く美味しいです。

甘さを抑えたミルキー?いや、子供の頃に食べた硬いミルクケーキの甘さ控えめ版?どちらも近いようで、遠い。

いずれにしろ、蘇、うまい!


高貴というより、素朴なミルク菓子といった味ですね。

作るのは大変だけど…。

更に上の物もあります

仏教の経典である「大般涅槃経」には、五味として順に「乳、酪、生蘇、熟酥、醍醐」が書かれています。「乳より酪を出し、酪より生酥を出し、生酥より熟酥を出し、熟酥より醍醐を出す」とされ、醍醐は最上の味であって、そこから醍醐味という言葉が生まれたとされています。

この醍醐。蘇から作られるわけですが、その作り方については記録が一切残っていないため、作ることが出来ません。幻の味と言われています。「醍醐は蘇の精なり」なんて記述が残っているので、蘇を更に何らかの方法で精製すると出来るかもしれません。

試しに蘇を更に加熱してみたのですが、ただ焦げただけでとても最上の味とは言えませんでした。是非味わってみたいですね醍醐の味。そのうち醍醐の味の追及をしたいです。

味の系統は似ているが明らかに砂糖的甘さがしっかりある2品。蘇との比較で食べてみたが、古代の人に食べさせたらこっちが醍醐味だと言うかもしれない。甘いは旨い。

 
 

 

 
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