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土曜ワイド工場
 
なんでもかんでも油で揚げてしまうお店

なんでもカリッ!とさせてしまう、お店です。

油で揚げるとたいていの物はうまくなる、というのは10代20代、30代の半ばくらいまでは手放しで信じていられる法律ではないだろうか。

今回はメニューのほとんどが油で揚がっているお店を発見したので報告したい。カリッとジュワッ、ほとんどをこれで表現できるお店に、そろそろ煮物とかのうまさに移行し始めたライターが挑みます。

安藤 昌教



学生街に油あり

そのお店は小田急江ノ島線、善行駅にある。善い行いと書いて善行(ぜんぎょう)駅だ。なんだかいいことありそうじゃないか。

善行駅に行くために江ノ島線の藤沢駅ホームで電車を待っていたところ、学生で満員の電車がやってきた。


時間帯にもよると思いますが、7割学生。


この電車は藤沢駅で折り返すため、駅に着いたらいったん全員降りることになる。そう思ってドアの外で待っていたのだが、学生たち、降りないのだ。シートに座ったままこれから担々麺を食べに行きたいのだが、暑いからどうしようか、などとどうでもいい打ち合せをしている。

しばらくしてドアがまた閉まり、電車は反対向きに走り出した。学生たちは僕が善行駅で降りるまでずっとラーメン食べに行こうかどうか悩んでいた。

彼ら、おそらく電車が涼しいからずっと乗っているんじゃないだろうか。もしかしたら何往復もしているのかもしれない。

思えば僕も高校の頃は時間ばかりあって常に腹が減っていたような気がする。もちろんラーメンは今よりずっとごちそうだった。時代は変われど若者の日常は同じなのだ。

そんな油に飢えた学生がたくさんいる街、善行駅にそのお店はある。


善行駅。西口を出るとロータリーがあるので、歩いて端まで行ってみてください。

するとこのお店「ビーバー」があります。


「とり皮」と「あげアイス」を前面に。

ユニークなお店、と自分で書いちゃってるとなんだか疑わしいのだけれど、ここは本物でした。


改札を出て1分。駅のロータリーの一番端に位置するお店が「ユニークメニュー、ビーバー」だ。派手なのぼりが出ているので、まず見過ごすことはないだろう。


ビーバーのオーナー、広島さん。穏やかな物腰だが、この人がなんでも油で揚げてしまう人だ。


みっちりと書かれたメニュー表。9割揚げ物(残り1割はフローズンドリンク)。空欄には「只今考え中」と書かれている。

メニューが多すぎる

まずなにはともあれ何か注文させてもらおう。若者らしく油っぽいメニューを、ええっと…。

注文しようとして固まった。メニューの数が多すぎて何を頼んでいいのかわからないのだ。

ポテトは太さや歯ごたえによって6種類あり、それぞれさらに味付けが20種類くらいある。同じようにとり皮に関しても「ふつう」「ふつかり」「ふつかりかり」など、無限にバリエーションがあるのだ。そしてさらに揚げ鳥串、揚げナス、揚げ肉まん、揚げ大福などなど、数え切れないほどのメニューが続く。

そしてこれら、メニューは例外なく油で揚がっている。


人気ベスト3は「あげとり皮」「あげアイス」「ポテト(もちろん揚げ)」

その他ハムカツ、餃子、たこ焼き、お餅、全て揚がっている。よってメニューは全体的に茶色い。


メニューを見つめて立ちつくしているとお店の方に助けられた。

「初めて食べるなら、とり皮の塩コショーにガーリックかけるとおいしいよ」と。

じゃ、じゃあそれでお願いします。

お店の前にあるベンチ(ベンチにはビーバー専用と書かれていた)に座って待っていると、「ジュッバー!」という油の音がして、周囲にまんべんなくとり皮の旨味の混じった蒸気が立ちこめる。湿気の多い暑い日だったのだけれど、汗よりもよだれが出た。


あげとり皮。300円〜。


この量なのになんだこの軽さは。

串が刺さらないくらいパリパリなのだ。


「おまちどうさま!」

カラッと揚がったとり皮一人前は片手に乗り切らないくらいのボリュームだった。なのにうそみたいに軽い。

鳥皮というと独特の臭いが気になる人もいるかと思う。ガーリックは鳥の臭みを消す目的もあるのだろう。


おお!うまそうな匂い!


一気に食べてしまいました。

メインは学生。だから飲み屋じゃない

とり皮を串でズブズブ突き刺して口に放り込むと「カリッ」、というより「ザクッ!」が近いだろうか。とにかく軽いのだ。そしてジュワッ、だ。ザクッ!ジュワワー!

食べ始めたが最後、やめられない止まらない。

これ、ビールにすごく合いそうなんだけど、お店にはアルコール類は一切置いていない。あるのは油で揚がった数々のメニューと、フローズンドリンク(みかん、グレープ、メロン)のみだ。それか表にある自動販売機。そういえば

「メインは学生さんだから」

とさっきオーナーが言っていた。そうだ、ここは飲み屋ではないのだ。学生はフローズンドリンクが大好きなのだ。


揚げ物ってちょっと食べると胃が準備オッケー!ってなって次々と食べたくなるから不思議だ。忘れていた野生を取り戻すのだろうか。

本当は鳥皮をもう一人前食べたかったのだが、オーナーお勧めの「あげアイス」を作ってもらうことにした。

あ、あげアイス?


はいよ!と言うが早いかアイスモナカに衣を付けて油に投入。

あげアイスは揚げたて5秒が食べ頃なのだという。いい?揚がるよ!とオーナー。


揚げたてほやほやの揚げアイスを大急ぎで渡される。わ、わ、わ!アツアツだ。言われたとおり5秒のうちに一口ほおばる。そうしたら…


5秒ってすぐだぞ!


…。

なんと、うまいのだ。アツアツの衣の中からちょうど半分溶けた具合のアイスが遠慮がちに「こんにちはー」と出てくる。油をくぐった衣とアイスのさっぱりさとの相性が、もうこの世の物とは思えないくらい良い。今書いていてまた食べたくなってる。


衣とか、表面はアツアツなのに中はしっかりアイスなのだ。
あげアイスは200円。


なんでもかんでも油で揚げてしまう、なんてタイトルにしたのだが、オーナーの広島さんはちゃんと油で揚げてうまいものを知っているのだ。


揚げの手際の良さはまさに職人。


レジ前に環境問題などの募金箱を置いてあるのはよく見るが、お店がピンチだから、というのはなかなかない。

なんでも揚げることになった訳

なぜなんでも油で揚げるようになったのか。広島オーナーに聞いてみた。

「最初はお好みとか焼きそばとか、焼き物から始めたんですよ。」

だけど若い人の好みによってメニューが淘汰されていった結果、最終的に揚げ物だけが残ったのだという。油の筆で書き換えられた進化論だ。

「それでも駅前に○ックが出来るまではお客さんたくさんきてたもんですよ。でも新しいお客は無名のお店には行きたがらないでしょう。正直厳しいね。」

店頭にはビーバー募金箱という瓶が置いてあって、中には25円入っていた。これは…なんですか?

「材料費とか値上がりしてるから、本当はメニューも値上げしなきゃと思うんだけどね、学生さんがメインだからさ、そうもいかないわけ。だから余裕のある人は募金してくれてもいいよ、って。ほんと、ピンチなんだから。」

そんなこと言いながらこのお店、30年以上ここで営業を続けているのだという。愛されてなければ続くものじゃない。


チェーン店に揚げ物で対抗

正直おしゃれなメニューはないし、カウンターで買ってベンチで食べるスタイルはデートに使うにはワイルド過ぎる。

でもチェーン店に比べてこの店はしっかりとお客の方を向いているように思うのだ。お客が好きだから油で揚げてみた、喜ばれたから全部揚げるようになった。

お客がビーバーを愛する限り、ビーバーはずっと油で揚げ続けてくれるだろう。

いまかっこよくまとめようとしたのだが、「ずっと油で揚げ続けてくれる」ってどういうことだろうな。


駅前にはハンバーガーショップ。

とり皮がうまい店の対岸にはフライドチキンのチェーン店が。この環境、確かに過酷だ。


途中で業者がやってきて一斗缶で油を置いていった。ここの油が周辺の学生たちの血となり肉となっているのだ。

こんな店が駅前にあったら、はっきりいって毎日寄るね。


最後にもう一枚でかい写真で。アメリカンポテトお好み焼き味(250円)。味はほとんどお好み焼き。高校生にはたまらんだろう。


チェーン店のポテトは全国どこででも食べられるが、ビーバーのこのポテトはビーバーでしか食べられない。そういうお店が近くにあるっていいな、と思った。



地域密着型、揚げ物の店

ビーバーのオーナーにこれからも新しいメニューを作っていくんですか、と訪ねると

「常に試行錯誤してるからね、うまそうなのができたら出していくよ」

とのことでした。どこまでメニューは増えるのか、期待しましょう。僕も油分が不足したら、また皮を食べに行こうと思います。

ちなみに隣はとんかつ屋。この二軒でどれだけ油を使う気か。

ユニークメニュー ビーバー

神奈川県藤沢市善行1-26 善行駅西口
Tel 0466-82-1010
11:00am-11:00pm(正月だけ休み)


 
 

 

 
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