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フェティッシュの火曜日
 
(川の)中流になる


年収300万円時代から一抜けて、中流になる

「あの泥棒がうらやましい。」

300円均一の居酒屋で今日もそんなことをつぶやいて飲み始めた年収300万円時代。バリューセットったって結局けっこう高くなるじゃねえか。ああ、中流になりたい。

だが中流とはなんだろうか。

一流企業の勤め人、医者や弁護士、大学教授あたりだろうか。ヒルズに住まなくとも郊外に一軒家を買ってマイペースで暮らす「ああ、そりゃいいねえ…」と声が出る程度の人々だ。

よし、わかった。中流はむりだ。もう一度中流とは何かを考え直そう。

そして私は中流になるべく、川の上流の角張ってゴツゴツした石を丸くすることにしたのだ。

大北 栄人



上流のゴツゴツした石を丸くして下流に返す、それこそが中流というものだ

上流のゴツゴツした石を丸くするのが中流だ

私ももう30となりあきらめたい盛りだ。就職、専門資格、宝くじ、資産運用、そんなことで中流となるのはあきらめたい。だって人間だもの。楽したいもの。

だから今日は川の中流になる。川の中流となって上流のゴツゴツした石を私の手で丸くして下流に還す。

そんな理科の教科書で学んだ中流ならできそうだ。だって川だもの。人間じゃないもの。


福生市の多摩川。これが上流の「角張ってゴツゴツした石」だ。

あれもこれも角張っていて素敵じゃないか
こんな青春っぽい風景も川の上流ならではで素敵だ

川に流される過程で、石は割れて小さくなる。素敵だ。そうだ、この石を持ち帰り丸くしようじゃないか。

あれもこれも、ゴツゴツだ!

あの石もこの石もゴツゴツしている。この中から川の中流である私が丸くする、いわばパートナーとなる石を決めるのだ。

一つ、割れた石を見つけて手にとった。こんな風に割れて小さくなっていくんだな、と感慨深かった。

こいつだ。これからの川の流れのような人生の中で(うまいこと言ったら今実家から「猪が畑を荒らした」と連絡があった)、最も大事にしたいのが出会いというものだろう。

一期一会、ああ、素敵じゃないか。こいつに決めた!

名前をつけよう。おまえの名前は「上流の角張ってゴツゴツした石」だ。短い間だが仲良くやっていこうじゃないか。


だがその後石を持たずに帰ろうとした
すぐにどこにいったかわからなくなった

わかんないから、こいつでいいや!

網棚に上流の角張ってゴツゴツした石が!

ようこそ!上流の角張ってゴツゴツした石(二代目)

電車に乗ったらスーパーの袋に入ったゴツゴツしたものが網棚にあるな〜と思ったら、上流の角張ってゴツゴツした石!

歩いてるとなんかスーパーの袋がすねに当たって痛いんだよな〜と思ったら、上流の角張ってゴツゴツした石!

おお、ようこそ我が家へ!ついに上流の角張ってゴツゴツした石が我が家にやってきた。

いつものアイスだ!とかんちがいして笑顔で迎えてくれた妻の表情が一瞬で曇る。そう、これは上流の角張ってゴツゴツした石であり、新しい我が家の一員なのだ。


上流の角張ってゴツゴツした石さん、とりあえずお背中流しましょうか
湯上りどうですか?さっぱりしたら一旦外いきましょう、外!

石散歩、行ってきます

「丸くなればいいな」思いを込めて石をもてなす

石といえど、中流のパートナーであるし、我が家に迎えるからには大切なお客様であるともいえる。

上流の角張ってゴツゴツした石さんを風呂に入れてきれいにして、リードをつけて散歩に出かけることにした。

「散歩、とかいって地面を引きずり回してゴツゴツした部分を丸くしようって腹なんじゃないの?」なんていう意見は心外である。

私は川の中流なのだ。川のように自然にもてなすべきなのだ。心を込めておもてなしをすれば、上流の角張ってゴツゴツした石さんも自然に丸くなってくれると信じている。


なんだ、散歩くらいじゃ全然丸くならねえじゃねえか

「すいません、石バリバリ丸くできる工具ください!」

力づくで丸くしてやる

ひもつけて引廻したら地面に擦れて丸くなるかと思ったら、だめだ、びくともしない。

シャワーの水流、タオルで拭いた摩擦、タンスの角にそれとなく、おもむろに7割くらいの力で壁に投げつける…我が家で生活を送ればそれなりに丸くはなるだろう。

だがそれでは締切りに間に合わない。さあハンズの人、石を丸くできる工具を売ってください!

ガラスや石は加工するのが難しい、回転数の多いグラインダーや硬いダイヤモンドのやすりで削れ、だが高いぞ。と言う。

おすすめはされなかったが、唯一所持している電動ドリルに付けられる硬いやすりを購入。さあ、削るぞ、石!


上流の角張ってゴツゴツした石さん、よく眠れましたか?
上流の角張ってゴツゴツした石さんのお口に合いますでしょうか?

と甘やかしておいたところで、一息にガンッ!!

でかすぎた、一度小さくする

専門の工具がないかぎりまあ無理だろう、と店の人も言うので、とりあえず一度規模を小さくした。

川の中流では石がぶつかって割れて小さくなったり角がとれていくのだ。金槌でガンとやるのも中流の役目だろう。


金槌でガンガンやり、目立った角も落としておいた

その上で電動ドリルにヤスリをつけてグラインド
一旦愛情を移しておいて一気に電動で削る瞬間がなんともスリリング!

お手製の下流の石のできあがり!

できるかぎり丸くなった

腕の力がなくなり、これ以上やると工具で事故起こすな、というところまでやった。

地面にこすりつけても叩いても丸くならなかったあの石が、ジビビビビと少しずつ削れていった。愛憎入り混じったあの角が電気とダイヤの力で丸くなっていくのは痛快だった。

そして上流の石は下流の石に生まれ変わった。

角イイっすね〜、この角イイっすね〜、と褒めそやしていたが、今となってはこの丸み。角サイテー。丸みサイコー。なんといってもこの丸みは私の手によるものなのだ。


家にあった多摩川下流で拾ってきたらしい石と比べる。(※文字が書いてあるこの石は、デイリーポータルのイベントで販売されていたグッズ)

完璧ではないにしても

家にあった多摩川下流の石と比べてみる。やはりまだ角張っているか。しかしこれは手作りの愛嬌というもの。やるだけのことはやったのだ。

さあ、いよいよ多摩川下流にそっと置きにいこう。


多摩川駅近くの川原に来たが…堤防?
いつのまにか石の川原がなくなっている?

多摩川(下流)の川原がない?

我が家にあったグッズ石の採集地であるらしい、多摩川駅近くの川原に出かけたが、あれ?おかしいな、川原がなくなっている。

駐車場のおじさんに聞いてみると「今水量が増えて川原なくなっちゃってるんだよ。」あー、徒労だ。

あー、なるほどね。でも、もし川原があったらこんな石ばっかりですよね?


「え?何これ?」(おじさん)

私の手作り下流石は一目で見破られる

下流の石ってこれですよね、とそれとなく見せたら「なにこれ?」とカツーン、とマイ下流石一蹴。

「これは石灰岩、いや花崗岩かな。この辺の石はさ、もっとカッターイの。上流からここまで残ってきてるんだからね。」

お、おみそれしました。さすが多摩川、石にくわしい人が駐車場の管理をしている。ブラジル人はみんなサッカーうまい、みたいなことになってる。

そしてこの石のロナウジーニョが言うには、少し上流にさかのぼった二子玉川あたりまでいけば石の川原があるという。

1P記事なんだからあんまり移動させないでよ、という思いをぐっとこらえて再度下流の川原を目指す。


かろうじて見つけた川原。下流の石は丸く小さくなっていて素敵だ。
上流が青春なら下流はロマンスだ、素敵。

自然が丸くした石の中に、私が丸くした石をそっと置く。素敵だ。

さようなら、マイ下流石

さようなら、上流で出会い、愛し、憎み、削り、また愛した石。きっと忘れることはないだろう。

いや、ここは上流ほど遠くない。いつでも来られるのだ。ここにくればいつでもマイ下流石に会えるのだ。


うわ、すぐに見失った

石。そして、顔だ。

自然ドッキリに気をつけよう

あなたが川原の石を一つ手にとってまじまじとその丸みを見て、やっぱり自然っていいよね、と心温めることもあるだろう。

だがその時、背後に注意してほしい。「ドッキリカメラ」と書かれたプラカードを引っさげて、忍び足で近づく私がいやしないだろうか。その石は私が電動ドリルでバリバリ丸くしたものなのだ。

たとえばあなたが宇宙に行って「地球は青かった」と言うことがあるかもしれない。

実はそれもハンズで買った青色の染めQ(レザースニーカーの表面でも染めるそうである)で私が染めた地球なのかもしれない。


 
 

 

 
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