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ロマンの木曜日
 
地上1階地下1階!地下鉄の車両基地見学


ビルの谷間に地下鉄の車両基地

電車に乗って窓の外を眺めていると、とつぜん線路が分岐して、たくさんのレールや列車が並んだ景色が見えてくることがある。使わない車両を留め置いたり、検査や整備をしたりする車両基地だ。

でも、よく考えたら地下鉄に乗っていてそういった光景を見たことがない。

地下鉄だって使わない車両を留め置いたり、検査や整備をするだろう。つまりどこかに車両基地はあるはずだ。ではそこはどうなっているんだろう。

そう思っていたら、なんと見学できる機会に恵まれました。

萩原 雅紀



日本最古の地下鉄基地

今回見学させてもらったのは、浅草と渋谷を結ぶ日本で最初の地下鉄、東京メトロ銀座線の車両基地。銀座線が日本で最初に造られた地下鉄ということは、つまりここは日本で最初に造られた地下鉄の車両基地ということになる。なんというニッチな名門!

しかもこの基地、ちょっとすごい場所にある。



大きな地図で見る
こんな都会のど真ん中に車両基地が

なんと東京の北の玄関口、上野駅の目と鼻の先の、今はビルの谷間となった場所に存在しているのだ。上の地図ではシムシティーで失敗した路線みたいに見えるけど、北側のくし形の部分が基地、南に延びている線路が地下に降りていって銀座線と繋がっている。

銀座線は最初に浅草と上野の間が開通したのでここに造られたんだろうけど、今となっては一等地だ。

また、この基地の入り口には、日本で唯一の地下鉄の踏切がある。この踏切がちょっと変わっていて、道路側はもちろん、線路側にも遮断機がついている。



道路側の遮断機が上がって線路側が下りている状態
線路は地下に降りていく

降りたところに電車が停まっていた!

なぜ線路側にも遮断機がついているかというと、銀座線は電車に電気を送る方法として、一般的な架線とパンタグラフではなく「第三軌条」という方法を採っているから。第三軌条は2本のレールのほかにもう1本レールを敷き、そこに架線のように電気を流して電車に送っているので、もし一般人が線路に立ち入ってしまうと感電の危険が高いのだ。

第三軌条はトンネルの断面が小さくて済むので、建設費を抑えることができ、東京では銀座線のほかに丸ノ内線でも使われている。


いくつかの地下鉄で使われている第三軌条

 

基地の中へ

ここまでは敷地外から誰でも見ることができるけど、今回は特別に基地の中を見学させてもらえるのだ。

事務所の建物に入ると、まず目に入ったのが銀座線カラーのエレベーター。この扉のカラーリングは手作業だろうか。そして東京メトロオフィシャルのヘルメットをかぶって、いよいよ基地の中へ侵入!


正式名称は上野検車区
銀座線カラーのエレベーター

オリジナルのヘルメットかぶるとテンション上がる
さっそく検修庫の中へ!

まずは電車の点検、整備を行う検修庫の中へ。

ちょうどこの日も点検を受けている電車がいた。見慣れた銀座線だけど、前面のドアが開いていたりして、いきなり知らない顔を見せつけられた感じ!

それぞれの車両では、職員さんが床下の機械の蓋を開けて中をチェックしたり、車両の下にもぐってライトを照らしたりして、さまざまな検査が行なわれていた。この上なく、いかにも検査、という雰囲気。

以下、しばらく写真でさまざまな検査の模様をお送りしよう。...なんてかっこよく書いたみたいだけど、素人目には何をやっているのかよく分からなかっただけです。



床下の機械をメンテナンスしている
台車の下にもぐって目視チェック

蓋が開けられた床下の機械
電車にも基板が刺さっている、しかもすごい数

これが第三軌条から電気をとる部分
裏側で第三軌条のレールをこすって電気をとる

車内ではドアの点検も行われていた
ドアを動かすシリンダーは上に入ってるのか

座席もすべて外されていた
運転席の点検、というか運転席って初めて入ったよ!

過去にも車両基地の写真集を作っていたときに、こういった検査の様子を見せてもらったことはあるけど、電車のような日常的なものの知られざる非日常な部分は何度見ても興奮するものだ。

ところで、検査のときは電車の真横や真下で作業することが多く、第三軌条方式の場合は高電圧のレールがあると邪魔だし、なにより危険だ。なので検修庫の中には第三軌条は通っていなかった。でも、電気を流さないと電車を検修庫から動かすことができない。

では、検修庫から発車させるとき、どうやって電気を流しているのだろう。


電車を動かすコンセントがある

なんとなんとなんと、検修庫から電車を動かすときは電車にコードをつなぎ、そこから電気を送っているらしい。つまり電源コード!

パンタグラフとか第三軌条とか、特殊な方法だから気づいてなかったけど、大まかに言えば電車も電気製品なのだ、ということを思い出した。

台車についた第三軌条から電気を集める部分の脇に突起があって、そこに長いコードを挿してある。つまりここがコンセントなのだ。



電車に挿さる電源コード
通電中はこの赤ランプが光る

実際に検修庫から出て行くときは、コードをつけたままゆっくり発車。ズルズル引きずって、先頭が第三軌条区間に入ったところでコードが伸びきって引っ張られ、勝手に抜け落ちるとのこと。優雅に走る銀座線にそんなワイルドな一面があったなんて!

渋谷や青山を颯爽と歩くOLが家では足でTVのリモコンを操作する、みたいな話だろうか。

その後、検修庫から出てみると、ちょうど入口の踏切を通って電車が基地に入ってくるところだった。踏切の遮断機も、線路側が上がって道路側が降りていた。



ちょうど線路側の遮断機が上がるところ
地下から電車がぬっと顔を出す

外には使わない電車を留め置く留置線と、車両を洗車する洗浄線があって、検修線も合わせると全部で7本の電車を留め置くことができる。



内部も外部も洗車はすべて手作業
昼間なので留置線は出払っていた

ビルに囲まれた基地の全景。いちばん右は線路などの保守チームのエリア

でも銀座線の電車が7本しかないということはないだろう。両方の終点である浅草駅と渋谷駅の奥にも何本か留めるスペースがあるらしいけど、それでも足りないはず。では残りの電車はどこに留め置くのか。

実は、それこそがこの基地いちばんの秘密。なんて、この記事のタイトルで書いちゃってるけど。

なんと、この基地の真下、地下にこれとほとんど同じ広さの車庫が存在しているのだ!もちろん見に行きましたとも!


地下の基地

基地の傍にある階段を下りていくと、想像以上に大きなスペースに線路と柱が並んでいる空間が広がっていた。かっこいい!


広大な地下空間、というだけでかっこいいのにそこに線路とか敷かれてるんだから

銀座線が開通した昭和2年以降、しばらくは地上の基地だけでがんばってきたけど、東京の人口が増えて混雑が激しくなり、車両を増やすために昭和43年に地下基地が造られたらしい。


これぞ想像した通りの地下鉄の地下基地

車両基地は広大な土地が必要だけど、地下鉄は発展した都市部に造られることが多いから、地上に車両基地を造ることが難しい。

苦肉の策としては、乗り入れしている私鉄沿線の郊外に設置されている地下鉄の基地もある。また、都営や市営の地下鉄の場合は、同じ自治体が持っている公園や団地の下に造られることもある。

そんな、さまざまな苦難を乗り越えて造られた地下鉄の基地はひときわかっこいいと思った。

カメラマンとしての初仕事

実は、この見学は僕が企画したものではなくて、地下鉄の本を作っていた出版社の方に、車両基地の取材をするから撮影をしてもらえないか、という依頼を受けたものだった。

ダムや車両基地の写真集を出してはいたけど、初めて外部の方からカメラマンとして仕事で使ってもらった、自分としては記念すべき取材だ。

僕は手続きも何もなく、当日行って写真を撮ればいいだけなのでとても楽しかったけど、取材メモを取れなかったので記事を書くのは大変だった。

というわけで、僕も撮影で参加させてもらった「東京メトロをゆく」という本が発売になりましたので、ぜひ見てください。どうやって調べたのか、というような誰も知らない地下鉄の面白エピソードが満載です。

東京メトロ使ってる方は特に必読です

もうひとつお知らせ/ダムツアーやります

続けてすみませんがお知らせさせてください。

数年前、僕が企画して開催したダムめぐりツアーが、なんと旅行会社の主催で開催されることになりました!

コースは当時と同じ、デイリーポータルでも「ダムめぐり」という記事で紹介してもらい大好評だった、群馬県の利根川上流3大ダムめぐりです。

開催日は8月24日(火)。当日は、不肖私がガイドを務めさせていただくことになりました。少しでもダムに興味があれば楽しさは折り紙つきです。夏休みの思い出にぜひ参加してください。ダムカレーもついてます。

詳しくはこちらへ!

関東の王者、矢木沢ダムにも行きますよ

 
 

 

 
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