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フェティッシュの火曜日
 
暑い夜には虫をさがして散歩する


男子の夏といえば昆虫採集だ。ターゲットはカブトムシにクワガタムシだろう。「早朝、樹液に集まった虫をさがす」という定番のやり方もあるが、これは夜遅くに出歩いてはいけない子供のための方法にちがいない。大人は夜に徘徊するのだ。
夜の町内を散歩するだけでカブトムシやクワガタムシをみつけられるのか。 みつかりました、田舎だから。

櫻田 智也



きっかけはアカアシクワガタ

アパートの通路に、ある晩クワガタムシが佇んでいた。


コンクリートの上で呆然としていた

通路の蛍光灯に誘われて飛んできたのだが、墜落して呆然としていたのだ。



アカアシクワガタだった

コクワガタかと思ったが、腹部と脚の付け根が赤い。アカアシクワガタだ。
持ち上げてみたときの恰好が、法事の席で酔っ払った親戚のおじさんが近づいてくる様子に似ていた。

酔っ払って近寄ってくる親戚のおじさん

それで一気に親近感をもったぼくは、とりあえず一晩、野菜用の培養土で彼を宿泊させることにした。
「浜松のおじさん」と呼ぶのもなんだったので、とりあえずハルキと名前をつけた。妻が借りてきていた1Q84が目に入ったからだ。

桃にかぶりつき勇ましいハルキ

ハルキはなかなか魅力的なクワガタであった。身体はピカピカしているし、ちらちら見えるワインレッドの脚も非常に美しい。ハサミも大きいし、なにより好奇心旺盛であった。
そのため少し目を離すと飛翔しては、飛んでいった先でどうすることもできず呆然としているのだ。


カーテンレールの上で呆然とするハルキ

というわけで、一晩のつもりがすっかり気にいってしまったぼくは、ハルキを長く飼育してみることにした。
だったらメスも必要だろうと思い、翌日の夜、町内を散歩して同じように山から飛んできたアカアシクワガタがいないか探してみた。

そしてやってきた村山さん

散歩初日、みつかったのは同じアカアシクワガタのオスだった。オス2匹を同じ空間で飼うのはよくないと思ったが、つい持ち帰ってしまった。何か運命的なものを感じたのだ。
そのわりに、つけた名前は「村山さん」であり、ハルキに比べてかなり脇役感がつよいネームに。このあとも愛しつづけていけるか心配だ(全国の村山さんごめんなさい)。

あいかわらず臨時の容器に

村山さんはハルキに比べ、ふた周りは小さい。とくにハサミが成長していない。そしてどこか動きがセコセコしている。自分のことを「あっし」と呼びそうだ。

間に合わせの容器の中で一見仲がよさそうに思えたのだが、このあと村山さんがハルキの上を通ろうとしてブン投げられていたので、やっぱりダメだと思った。
週末には広い容器を準備しよう。


その結果、村山さんの得意技は「死んだフリ」になった

 

町内を散歩する

町は山間につくられている。
東西2キロほどにひろがる町の中心部を「まちなか」と呼んでおり、役場や小学校、商店などの主要な施設と住宅が集まっている。

大人はあまり疲れたくない。山や林へでかけることなく、この「まちなか」の範囲を散歩するだけで昆虫採集をしようというのが今回の目的だ。いわゆる灯火(灯下)採集というやつで、外灯や自動販売機など街の灯りに誘われて飛んできた昆虫を拾うやり方だ。


東西2キロほどの範囲の中でさがす

図を描いたほうがわかりやすいだろうと思ったのだが、そうでもなかった。

夜のメインストリート

夜8時を過ぎれば町はすっかり暗い。外灯と自動販売機の明るさが際立つ。
村山さんを拾った日を採集初日とし、2日目の散歩にでかける。残念なことに、この夜の散歩の様子は撮影されていない。なぜなら、「記事にする」とか言いながらカメラを忘れたからだ。

得てして、そういう場合にこういうことは起こる。


王者が落ちてました

昆虫採集においてこれ以上ない大物を散歩2日目であっさり拾ってしまった。そしてその瞬間の写真はない!

というわけで、飼うためではなく撮影のため家に持ち帰った。
ちなみに拾った場所は、メインストリート沿いにある家の玄関近くだった。立ちあがって壁に脚をかけ、じっとしていた。


オモチャのように立派ではないか

立派すぎてむしろオモチャのようだ。

ぼくが育った北海道にはカブトムシが自生していなかった。なので、野生のカブトムシにはものすごく興奮する。しかもオスを捕まえたのは人生初めてだったのだ。

名残り惜しいが、撮影後にリリース。ハルキと村山さんがいる中に、この大物を入れるわけにはいかない。

 

散歩3日目

というわけで、以降はちゃんとカメラを持って散歩することにした。だが、そうすると成果が奮わないというのも常であって、


真っ暗な川沿いにある外灯

ものすごく魅力的な光だと思うのだが

そうとう虫が寄ってきそうな雰囲気。だが、懐中電灯で注意深くさがすも、お宝発見には至らない。


「いた!」と思ったが頭部だけ

鳥の犠牲になったのだろうか。しかし、大物がやってくるポイントであることは確実のようだ。
病院と役場のまわりをぐるりとまわってみることにした。


赤で囲った辺りを歩いています

せっかく描いたのでもう1回地図を出してみたが、なんの参考にもなってないなコレ。


にしても近所がこわい

家から徒歩5分なのに、ものすごく心細い。誰とも会わなくて寂しいけど、誰かが歩いていてもそれはそれで怖い。
追い剥ぎとか出ないのだろうか。もともと薄着だから平気だろうか。

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