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フェティッシュの火曜日
 
ネパールでプロレスをしてきた男

カトマンズの初日は大暴動!

夢路選手らがネパールで参加したのは首都カトマンズと、ネパール第二の都市ポカラの2大会。まず行われたのがカトマンズの大会、会場には観衆約4000人。会場に入って夢路選手が驚かされたのはまずその「異様な雰囲気」。ここからの写真は夢路選手からお借りした現地で放映されたTV番組からの抜粋でお送りします。


選手が入場すると客も押し寄せちゃう。
顔も強ばるアメリカ人レスラー。


分かりづらいですが、リング後ろに観客がびっしり!

「とにかく観衆の反応が普通じゃない。身の危険を感じましたね。何よりヒマラヤンタイガーに対するお客さんの反応がすごいんです。地元のヒーローというか、『地元』という言葉では片づけられないですよ」

−−日本でいえばアントニオ猪木・ジャイアント馬場レベル。

「いや、力道山ですね。ただ強いとかじゃなくて、見に来た人たちのネパールという国に対する思い入れがパワーになってるんですよ。特にこの日はアメリカ人が対戦相手だったんですけど、こいつがネパールの若手の試合に乱入したりするんですよ」

−−典型的な悪いアメリカ人だ。

「それ見てヒマラヤンタイガーが追い散らそうと現れるとまたどよめきが起こる。それでメインのヒマラヤンタイガーと対戦するんですけど、観衆の盛り上がりが凄すぎてリングに上がっても2人が組み合えないんですよ」

−−選手すら客の空気を読んで動けない。

「それでヒマラヤンタイガーが一発フライングメイヤー(首投げ。プロレスの基本技)で投げただけで観衆大爆発。さっきまでの試合と全然違う」

−−すごいなあ、音声もここだけ音割れ気味ですもんね。

「でもね、これだけ見て『観衆の見るレベルが低い』とか勘違いする奴もいるんですけど、違うんですよ。その位ヒマラヤンタイガーに観客は期待してるんです。これだけ熱い雰囲気見てると、何がハイクオリティかわからなくなるでしょ?」


ちなみにカトマンズ大会での夢路選手と梅沢選手はもうひとりの外国人を交えて3WAYと呼ばれる3人での試合形式。ネパールは親日国家なのもあって、ずいぶんと好意的に受け入れられたそうだ。梅沢選手が「日本カラヤッテキタ横綱」とアナウンスされたりの勘違いはあったようだけども。


横綱キャラも分かる梅沢選手の体型。
試合開始前ラッパを吹くヒマラヤンタイガー。


自らの試合前、お祈り?を受けるヒマラヤンタイガー。

いきなりラッパ吹奏は不思議な感じですが、あちらでは大会前には大事な儀式なんだそう。さらに闘う前にも頭から花を撒かれたりと、試合自体はしっかりプロレスなんですが、ディティールに様々な国文化が。

そしてこの日のクライマックス、ヒマラヤンタイガーとアメリカ人選手のメインイベント。国家的ヒーローと悪いアメリカ人の対決は…。


「途中でアメリカ人が反則攻撃するんですよ。それ見て観客が常軌を逸して怒っちゃって、リングに椅子を投げ出すんです」

−−うわー!

「もういろんなもんが投げられるわ、ポリスが入ってきてバシバシ警棒で観客を殴りはじめるわ、完全にもう暴動ですよ」

−−な、なんかイメージではネパールの人っておっとりしてるイメージあるんですが…。

「中には笑ってる人もいましたね。狂気の笑いですよ。さっきまで賞賛してたヒマラヤンタイガーもリングにいるんですけどね(笑)」


観客のフラストレーションが爆発!
リング上が椅子だらけに!


写真だけでも圧倒されるけども、ちょうどYoutubeに現地で報道されたTVニュースの動画もあったのでこちらをご覧ください。これはシャレにならない!

ちなみにこの日、偶然にも取材場所にネパール関係のゲストが取材中に訪れた。ネパール人キックボクサーのモハン・ドラゴンさんと、ネパール舞踏研究家の岡本マルラ有子さん。2人とも先日のネパールフェスにも出演されてた方々。一緒にDVDを見ながらネパールについて聞いてみた。


モハン「(椅子な投げられる暴動シーン見ながら)おかしいな、同じ会場でプロレス観たことあるけどこんなの始めてですよ」

−−ネパールにプロレス自体は昔からあるんですか?

モハン「私は98年くらいに見ましたね。キックボクシングなんかと一緒にやった大会でした」

岡本「ネパールは格闘技だと空手やテコンドーが人気です。それ以外だったらクリケットやサッカーが一般的に人気ですね」

−−しかしこんな暴動状態って、ネパールはよくあるんですか?

モハン「こうじゃないですけどねえ…。わたしネパールでいつか大会開けたらいいなあって思ってたけど、これ見て怖くなりましたね(笑)」

岡本「普段おとなしくてもカーッとなると大変なところはありますね…。ちょっと日本人とネパール人て似てるところあるんですよ。イエスノーをはっきり言わないとか、黙って譲るとかそういう部分。そういうのもあって親日的なんです」

モハン「それと昔ドラマの『おしん』流行ったんですね。お父さんの世代はみんな見てました。あと前にネパールで日本と韓国がサッカーの試合したんですけど、ネパールの人みんな日本応援してました(笑)」


いらっしゃったのはホント偶然。これもネパールのお導きか…。


うーん、最近W杯期間中の渋谷が日本戦後大騒ぎになってたりしたけれど、アレと同じようなもんなのだろうか…。ネパールは日本人旅行者も多いのもあって、日本語を習っている人も多いのだとか。

ただ、ネパール人の良さのせい?で夢路さんはヒドいことに遭いかけたそうで…。


夢路「初日暴動起きちゃったもんだから、次の試合まで一週間選手は外に出られなくなっちゃったんですよ」

−−それはストレス溜まりますねえ。

夢路「でも数時間だけ黙って外に出たら、迷子になっちゃって。本当に泣きそうになりましたよ。だって道聞いてもみんな嘘ばっかり教えるんですよ!」

岡本「ネパールの人は『知らない』って言わないんですよ。断りきれないんです。もし『わからない』って言ってしまうと、その人を手伝わず縁を切ったみたいになる。手伝ってあげたいって気持ちはあるんですよ」

−−優しいんだけど迷惑って困った国民性ですね(笑)。

夢路「ずっと道聞いてたら、後ろから自転車タクシーみたいなのが自分を尾けてくるんですよ。『困ってんだろ?乗れよ』みたいなアクションして。でもこっちも意地で『乗らない!』って言ってたんですけど、最後泣きつきましたね(笑)」


二日目ポカラは1万5千人+警察隊!

そして暴動に終わったカトマンズの試合から一週間後、ポカラでの第二戦。街中に貼られたプロレスのポスター、そして到着するなりパレードに参加させられ、そこでも子供たちが「ヒマラヤンタイガー!」と声かけられる様を見て彼の英雄ぶりをひしひしと感じる日本人ふたり。ただパレードが2時間続いたのには閉口だったようですが。

会場のポカラスタジアムは本来はサッカー場。ネパール唯一のサッカー場という話からすると、日本で言えば国立競技場か。といってもぐるっと建物に囲まれた一般的なサッカースタジアムのイメージとはぜんぜん違うようだけども。そこに集まった観衆の数は一日目の3倍以上、15000人。


「二日目はトラック5台分の警官隊が来て警護にあたりましたね。初日の暴動がテレビのトップニュースになったりと問題になったんですよ。それでリングの周りをポリスがぐるーっと」

−−それで開催されるのも凄いですけど。

「それで初日ヒマラヤンタイガーと試合したアメリカ人がビビって、俺と梅沢のジャパニーズ2人に試合やらせようって話になったんですよ。『ポカラには椅子がないから大丈夫だ』とか言って。そしたらいざ着いて会場見ると椅子が並んでるんですよ!嘘つけ〜!って」

−−暴動見てる上に客は3倍…。

「ただ広い分、リングと観客との距離はあるんですけどね。あと最前列には盾を持ったポリスが控えてる。それでもまずリングから控え室まで逃げるルートを確認しましたよ(笑)」

−−気合いの入れ方がぜんぜん違うでしょうね、普段の試合と。

「ただ、梅沢なんか有名なレスラーじゃないけど、試合はもちろんしっかり出来るし、何よりこういう場でも怖がらずやれるんですよ。ハートが強いから連れてきたんで。普段の世界観で守られる人には出来ないと思いますね」

−−日本の1万人とあちらの1万人じゃ意味がぜんぜん違うでしょうしね。

「ポカラって人口15万人なんですよ。それで1万5千人だから、10人にひとりが来てるんです」


ポカラスタジアム、リング周りはこう見るとスカスカですが、
周りはこんなスタンドに囲まれてます。下には警察隊も。


大会はやはりラッパでスタート。
分かりにくいですがリング中央が夢路さん。


東京なら120万人…。まぁ単純計算にもほどがあるけども。二日目のメインイベントでは初日とは一転、ヒマラヤンタイガーと組んだアメリカ人選手と、日本人2人のタッグマッチ。残念ながら日本人チームは敗北、しかし1万5千人の前でメインイベントをやるという体験は、日本の現役のプロレスラーでそう出来るもんではない。

「最初若手の試合に乱入してつまみ出したりもしたんですけど、さっき話に出たように日本人に悪い感情がないんで、初日ほど『この野郎!』って雰囲気にはならなかったですね」

−−でもやはり観客沸いてますねー。

「やはり観衆の国に対する思い入れとか、パワーがヒマラヤンタイガーにかかってるんですよ。それとやはり溜まってるものを爆発させに来てるんですよね、見る人も。いろんなプロレス見過ぎてるけど考えすぎて楽しめなくなってる日本と、どっちがレベルが高いか?って一概に言えないと思うんですよね」

−−今の日本のプロレスは忘れた一面。

「忘れたというか、昔の日本のプロレスみたいですけど、これは2010年今現在のことなんですよ。」

−−ファンタジーぽいんだけど、現実なんですよね…。

「あと海外で試合してみて、プロレスって世界共通だなって思わされますね。こいつがヒーローでこっちがバッドガイで、って分かるんですよ。ダンスなんかと同じですよね。何の踊りか分からなくても身体が反応するでしょ?」


最後はヒマラヤンタイガーに夢路さんが一撃喰らいフォール。
勝ち名乗りを上げるネパール・アメリカ連合軍。


日本に帰国後も夢路選手は「ネパールプロレス大使」を名乗り、今回のネパールフェスティバルで試合をしたり、モハンドラゴン選手をバックアップしたりと、繋がりを深めている。先のネパールフェスでも空手家の“ネパールの拳聖”ことラジフ・シュレスタ選手とタッグを披露。


紅闘志也選手との3人で勝ち名乗り!これもネパールの縁。


異国のファンタジーのようだけど現実。昔の日本のようだけど今。そして「面白い」ということに違いはない。またその媒介が「プロレス」というのがファンタジーさに輪をかけてるのは間違いない。いっそう関心と謎が深まりました!一度見てみてえなあ…。

 

飯田橋「AJITO」にて話をうかがいました。

本人の文章はもっとロマン溢れまくり

今回の夢路さんのネパールプロレス参戦話は、本人のブログの2010年3月〜4月にも書かれてるのでご覧ください!本人の視点からだけに臨場感たっぷりです。


富豪2夢路公式ブログ「夢バカ日誌」

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