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はっけんの水曜日
 
「道の駅」の売店シミュレーションごっこ


「道の駅たまおき」というお店を開いてみました。

漠然と田舎暮らしにあこがれているのだが、家庭を持つ身として一番の問題は、やはりそこでの現金収入をどうするかだ。

田舎で仕事を探す、オンラインでできる仕事をする、ネット通販を始めるなどが考えられるが、国道沿いによくある「道の駅」などに出店をして、なにか直販するというのはどうだろう。

その可能性を探るべく、デイリーのイベントで出店販売シミュレーションをしてみることにした。

玉置 豊



デイリーポータルZのエキスポで出店させてもらう

自分の中での最終的な目的がなんなのかよくわからないのだが、今回はお台場のカルチャーカルチャーでおこなわれた「デイリーポータルZエキスポ(当日のレポート)」という当サイトのお祭り的なイベントで「道の駅たまおき」という店をださせてもらうことにした。

「道の駅に出店」が、「道の駅を出店」にすり替わっている点は気にしないでいただきたい。


道の駅だけど電車で搬入。本当は軽のワンボックスで乗りつけたいが酔うと帰れない。

来場者のほとんどがデイリーポータルZのファンという完全ホームのこのイベントで失敗するようであれば、道の駅出店計画の未来はないだろう。

さてなにを売ろうか

イベントに出店させてもらうにあたって、一番の問題はなにを売るのかということだ。

道の駅といえば野菜や魚の直売が多いので、自分の畑で採れたジャガイモや(ダンボール2個分ある)、釣ってきた魚でも売ろうかと考えたが、エキスポに来るお客さんのニーズとまったくマッチしない。イモは重いし魚は腐る。

そこでなにかその場で食べられる加工食品を売ろうと考え、自分が書いた記事を読み返したのだが、ホンオフェ(臭いエイ)、手作りくさや、ハトのエサでつくる麦茶など、見事なまでに人様にお出しできるような料理が見当たらない。

じゃあ釣ったウナギをかば焼きにして出そうかと二回釣りにいったのだが、こういうときに限って一匹も釣れない。そこでデイリーポータルZの兄弟サイト(だと私は思っている)である「地球のココロ」で書いたベーコン梅干しを出すことにした。これらは地球のココロのイベントで出して好評を得た実績があるのだ。


私がつくるもので、一番確実においしいものの一つだと思う。どれくらい用意すればいいのかわからなかったけれど、とりあえず3キロ仕込んでみました。

デイリーのイベントで地球のココロでやったものだけを出すのもあれなので、一応ほや塩もつくっていった。これは売り物にする勇気はないので、あくまで試食用だ。

これで畜産、農業、漁業の道の駅における三大要素が揃ったはずだ。


梅干しは好みの別れるものだけれど、好きな人には喜ばれるのではないだろうか。
ほやの塩辛をつかったマイルドタイプの作り方にしました。これでも十分磯臭い。

値段を決めるのって難しい

イベント当日、会場に到着して道の駅っぽいPOPをその場で作成する。ここで悩んだのが商品の値段である。今まで自分が作った食品に値段を付けたことなんてないので、いくらにしていいのかわからない。

まずベーコンだが、普通は塊で売るものだと思うが、今回はその場で食べられるように、軽く焼いたものを一切れいくらで売る予定だ。道の駅の商品というよりは立ち飲み屋のツマミみたいだが、一切れ100円で買ってもらえるだろうか。いやでもちょっと高いかな。ついでにつくった豚タンスモークは1切れ50円にしよう。

梅干しもやっぱり一粒単位での販売なのだが、これは50円だろうか。10粒だと500円なのでそこそこ高級かもしれない。30円とかでもいいのだけれど、10円単位はおつりが面倒くさいのでやっぱり50円。

他のライター達が明らかに儲ける気のない価格設定の中で(隣ではオブラートが無料配布されている)、ベーコン一切れ100円はちょっと感じ悪いだろうかとか、いっそ全部無料にした方がいいだろうか(それをしたらシミュレーションにならない)とか、開店前まで悩み続ける。



道の駅というよりも、中学校の文化祭レベルの造形力。
商品というよりは試食用っぽいな。

ベーコンは焼いてみたら一回り小さくなってしまったので、結局開店直前に半額の50円へと値段変更した。販売方針がぶれすぎだ。



開場前にライター陣に試食をしてもらう。みんなおいしいといってくれるが、どこまで信用していいのだろう。このベーコンや梅干しの価値がわからない。
味にはそこそこ自信があるのだけれど、100円の値段をつける勇気がなかった。ちなみに中央の絵は、キン肉マンの口ではなくてベーコンである。

道の駅たまおき、開店

準備万端となったところで、午後2時の開店を迎えた。オープン前から並んでいたお客さん達がどんどんと入店してくる。

これから8時までの6時間、売上的なものは置いておいて、せっかく用意したのだから一人でも多くの人に味わってもらいたいという気持ちになってくる。

でもお金をいただく以上、それは結局売上に直結した話だ。



お客さんが入ってきてから気がついたのだが、この位置にPOPを張っても混んでいると読めないですね。
続々と入場するお客さん。これだけ客が多い道の駅だったら、出店料とかマージンも高いのだろうか。

入場したお客さんが、私の店を素通りしていく。

正直焦る。でもきっと大丈夫。デイリーのイベントを見にきた人が、いきなりデイリーの記事になってもいないベーコンや梅干しを買うことはないだろう。

勝負はお客さんが落ち着いてきて、飲み物などを買うタイミングからだ。そのころにはこのベーコンの匂いが充満しているに違いない。…そうでも思わないとこの場にいられない。


ステージでは宮城さんのエアギター。やっぱりお客さんとしては、ベーコンよりもこういうのを見るのが先だろう。


見事にスルーされる道の駅たまおき。「デイリーのイベントでお金をとるなんて!」と思われたらどうしようと考えてしまい、呼び込みの声を出す勇気が出ない。
すぐ隣で無料のオブラートを食べたりハンコを押したりするお客さん。今すぐにでも全品無料にしてチヤホヤされたいが我慢だ。

作った食品が売れるということはうれしいこと

「お客さーん、ベーコンおいしいよー」とは声に出さず、匂いにその念を込めながらベーコンを焼いていると、ようやくはじめてのお客さんがベーコンを買ってくれた。うれしい!

もらうお金は50円だけれど、自分がつくったものでお金をもらうということが緊張する。本当に50円の価値があるのだろうかと自問自答をするたびに、つまみ食いをして「やっぱりうまい」と自分で納得。

あくまで「デイリーのイベント」という付加価値があっての購入なのかもしれないし、逆に私が作ったというのは関係なく単純にベーコンがうまそうで購入してもらったのかもしれないが、社会人12年目で一番重みのある50円を受け取ったことは確かだ。



どうしても大きさがバラバラになってしまう。小さいのは二個で50円にしよう。
お客さんはだいたい目の前で食べるので、一つ売るごとに気にいってくれるか緊張する。

一人が買うと、「これは売り物なんだ」ということがようやくわかってもらえたみたいで、次々に、とまではいかないが、そこそこのペースで売れてくれた。

私の店とドリンクカウンターを何度も往復して、ここを立ち飲み屋のツマミスペースのように利用してくれる常連さんも現れた。やはりベーコンとビールはセットだな。私も飲もう。



子供が梅干しを食べて、「すっぱーい」といっていたのがかわいかったので、梅干しを売ってよかったと思った。
ベーコンにほや塩をかけて食べるチャレンジャーも続出。脂っ気と塩っ気が混ざっておいしいらしい。


道の駅といえばやはりオリジナルバーガーなので、C-C-Bバーガーというのも一応用意してみた。キュウリは「Cu-ri」ではなく、「Cucumber」のC。
超熟イングリッシュマフィンにベーコン、キュウリ、マヨネーズ、チーズを挟んでみた。C-C-Bっていいたいだけで、もし注文があったら作るくらいの気持ちだったのだが、3つ売れた。

お買い上げ本当にありがとうございます。実は自分で一度も食べていないのだが、おいしいそうです。
いい忘れましたが、「農協の人」ルックで店番をしました。ある程度売れた段階でうれしくなってビールを飲みだしてしまった。

売れるのは匂いの訴求力の強いベーコンが中心で、本気で酸っぱい梅干しはたまに売れる程度。梅干しは「好きな人は好き」なものなので、どうもその場で食べる用に売るのには向かないようだ。

ベーコンが無事完売

お店をオープンしてから三時間半ほどで、ありがたいことに用意したベーコンと豚タンスモークがすべて売り切れた。持って帰るのは悲しいのでとてもうれしい。お客さんもそろそろお腹いっぱいになってきたころだと思うので、ちょうどいい量だったのだろう。

となると数個残った梅干しだけ売っていてもさびしいし、他のブースもみたいので、閉店間際のスペシャルプライスとして(あと二時間以上あるけど)、梅干しは0円にして無料で食べていただいた。商売人失格。


フライパンに残った脂がもったいない。チャーハンにでもしたら売れるだろうか。なんて考えだす。
こうやってみると、梅干しは0円で当たり前だろっていう気もする。50円で買っていただいた方、ありがとうございます。

無料にした途端、売れ残ってしまいそうだった梅干しが、「無料でいいんですかー」というお客さんの声の中、数分でなくなったという経験は、今後の商売に活かされると思う。

ご来場、およびお買い上げ、本当にありがとうございました

梅干し以外は無事売り切ったので、これなら商売の可能性があるかなと思ったが、この日の収支は材料費が約5000円で、売り上げが8000円程。交通費を考えるとトントンくらいで、打ち上げの居酒屋代を入れたら赤字だった。出店料とか無しでだ。

結局全然商売にはなっていないけれど、なかなか得難い経験ができたと思う。どうかすればどうにかなるような気もするし、どうしたってどうにもならないような気もする。

なんでもそうだとおもうけれど、やっぱりモノを売って生活するというのは大変ですね。

ベーコンが先に売り切れてしまったので、C-Cバーガーにしたのだが、これはさすがに売れなかった。

 
 

 

 
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