口寂しい時に飴玉を舐める。
カラコロと舌で転がすのもいいし、ただ舐めるのもいい。甘い味は口の中に幸せをもたらしてくれる。それが飴玉だ。
ガムも口寂しさを忘れさせてくれるが、あれは常時口をモグモグさせなければならないので面倒な時もある。
飴玉の良さは、ただ口に入れておくだけでも、味がするという点なのだ。
しかし、それは飴だけしかなし得ないことなのだろうか。 ぜひ飴玉以外のそういうものを探してみたいと思う。
(地主 恵亮)
飴玉の実力は7駅
まずは、飴玉がどれくらい口寂しさを紛らわせてくれるのか実際に調べてみようと思う。調べる方法は山手線の駅数だ。何駅分舐めていられるだろうか。
世の中には数多くの飴玉が存在するが、そこでキティちゃんを選んだ僕のセンスは置いといて、アップル味の飴玉を池袋駅から電車に乗ると同時に口に入れた。飴玉が無くなったところで電車を降りようと思う。
僕はカラコロと口の中で飴玉を転がし、甘い味を楽しみ、電車のガタンゴトンというリズムに揺られた。飴玉は順調に小さくなって行き、やがて無くなった。無くなるとは分かっていても何か悲しい物だ。
飴玉に代わる候補その1:梅干(池袋〜)
飴玉の実力が分かったところで、ここからは飴玉に代わる物を舐めてそれぞれの実力を測り、山手線を1周したいと思う。飴玉と同じく「池袋」からスタートする。
候補その1は梅干である。皮がフニャフニャの物ではなく、カリカリした梅干だ。選んだ理由は、丸くて飴玉みたいというその一点だ。
予想通りに飴玉とは違い酸っぱく、僕の顔が金メダルを取って泣きじゃくるスポーツマンのようにクシャクシャになってしまう。しかし、この酸っぱさは最初だけなのだ。その後舐めている分には、全く味がしない。ビー玉でも舐めているみたいだ。
ビー玉を舐めていても仕方が無いので、巣鴨駅で電車を降りてしまった。僕の口寂しさがが戻って来たらそこで電車を降りなければならないのだ。僕の口はかなりの寂しがり屋なのだ。
飴玉候補その2:たくあん(巣鴨〜)
巣鴨からは「たくあん」を舐める。 梅干の路線で、ご飯が欲しくなるセレクトだ。口に入れた瞬間に感じるのは、キラリと光る可能性だ。たくあんの甘さが想像以上に口寂しさを紛らわせてくれるのだ。
味が無くなって来ると、飴玉を転がす代わりに、たくあんを軽く噛む。すると味が戻ってくるのだ。これはかなり口寂しさを忘れさせてくれる。僕は梅干の方が飴玉の代わりになると思っていたが、実際はたくあんの方が代わりになる。彼は凄い!
飴玉候補その3:さくらんぼ(鶯谷〜)
鶯谷からはさくらんぼを舐める。 幼い頃、さくらんぼには無限の可能性を感じていた。赤く甘く食べ終わっても、ヒョロンとのびたヘタを口に中で結んだりしていたらかなりの時間が潰れた。彼のポテンシャルに期待している。
さくらんぼは口の中ですぐに崩れてしまった。さくらんぼは丁寧に扱わなければならないようだ。しかし、彼にはヘタがある。これを結ぶ作業に熱中しようではないか。
と思ったが、これがかなり難しい。 僕は起用ではない。それは舌でも例外ではないようで全然結べない。これを結べる人はキスが上手いと聞くが、それが本当ならば、僕にキッスはあまり上手くないということだろう。
飴玉候補その4:タマゴボーロ(秋葉原〜)
タマゴボーロは赤ちゃんも食べる美味しいお菓子だ。赤ちゃんはきっと噛まないだろうから、舐めてもOKなお菓子なのだ。僕は、もう何年も食べていないがこれは飴玉に代わる逸材だと思ったのだ。
電車に乗り込み、ドアが閉まったその次の瞬間に口内のタマゴボーロは溶けて無くなっていた。あっという間だ。驚きの速さだ。これがピッチャーならかなり期待できるがスピードだが、飴玉の代わりとしては速すぎた。スピードは時には仇となるのだ。
飴玉候補その5:から揚げ(神田〜)
神田からはから揚げを舐める。 普通に考えれば、から揚げは噛むものではあるが、鳥からはダシを取ったりするように、舐めて出る汁だけを頂いてもいいのではと思うのだ。 僕は居酒屋に行けば、必ずから揚げを頼むくらいから揚げ好きなのでぜひ期待したい飴玉の代わりだ。
これはかなりの幸せもをもたらしてくれる。美味しいのだ。フルーツジュースは果汁だけを飲むわだけれど、それと全く同じだ。また、「からあげクン」が素晴らしいのか味が長持ちする。飴玉どころではない。から揚げの代わりに飴玉を舐めていたと思うくらいだ。
東京の電車では物を食べるのは非常にタブーである。僕は九州の片田舎出身なので、東京に来て驚いた。田舎では普通に食べるのだ。
もちろん飴玉やガムはセーフである。 しかし、から揚げはアウトなのだ。そのタブーを舐めるという行為で巧妙にセーフにするスリルがから揚げの美味しさに拍車をかけているように思える。
形あるものはいつか無くなるもので、僕の口の中のそれも例外ではない。衣がはがれ、やがて僕は「噛みたい!」と言う衝動に負け、時々噛んだりしたために口の中から無くなってしまった。
飴玉候補その6:スルメ(恵比寿〜)
恵比寿からはスルメを舐める。 スルメは赤ちゃんに舐めさせることもあると聞く。だったら僕が舐めてもいいだろうというセレクトなのだが、舐めたとたんに後悔だ。磯臭いのだ。
旅行に行って「あ、海の匂いがする」は素晴らしいが、そうではない漁港の片隅のあまり海水が入れ替わらないような場所の磯臭さが口いっぱいに広がるのだ。
磯臭い点を我慢すればスルメの美味しさをゆっくりと味わえるので、舐めていられる。この我慢という点が本来の飴玉には無い問題点だ。これがやっぱり耐えられなくなって早々にスルメを普通に食べてしまった。
飴玉候補その6:辛酸(新大久保〜)
最後になめるのは辛酸だ。辛酸をなめるとは「つらく、苦しい経験」だそうだ。そんな物を思い出してみようと思う。
過去を思い出し辛酸をなめてみて思うのは、飴玉とは正反対で全然幸せな気持ちにならないことだ。口寂しさは確かに忘れるが気持ちがどんどん暗くなる。会社クビになった事(それも2回も!)とか、預金残高とかいろいろ。なめる必要が無いものだった。さっさと電車を降りよう。
飴玉の代わりはから揚げで
飴玉の代わりを探して山手線を一周したが、一番はから揚げだった。駅数から言えば飴玉は7駅分の口寂しさを忘れさせてくれ、から揚げはなんと10駅分も口寂しさを忘れさせてくれた。今後、もし飴玉を舐めたくなった時に、飴玉が無かったらから揚げを舐めよと思う。
しかし、一番の問題は飴玉を持っていなかった場合、から揚げはさらに持っていないだろうという点だ。この問題はこの先の人生を捧げて解決して行こうという姿勢は見せて行こう思う。