デイリーポータルZロゴ
このサイトについて


フェティッシュの火曜日
 
除湿剤で作ったドライTシャツ


そうか、ドライだと涼しいのか

暑かった。今年の夏はとにかく暑かった。あのときを思い出しても不快、そのときを思い出しても不快。全体的に不快だった。暑さ対策の重要性を知った夏だった。

そういえば夏の初めにはドライTシャツの広告がよく出てた。着てるものを乾燥させておくことが暑さには有効なのか。

だったら除湿剤でTシャツを作ればとても快適なんじゃないだろうか。文字にすると改めて短絡的な考え方だが、それやらまいか。浜松出身の気概にかけて、いっちょ「やらまいか」精神でがんばってみる。

(※「やらまいか」というのは浜松の方言で「やってみよう」という意味です。あと書いて3行でばらしますが浜松出身というのはうそです)

大北 栄人



除湿剤ですでに下着超え

まずは材料となる除湿剤を薬局で買ってきた。一枚880円。下着買ってきたほうが安くないか?という疑念が頭をもたげる。

いや、今回はいわばスーパードライなTシャツなのだ。これで正しいはずだ。封を開けてみると大きさが足りないのでもう一枚追加。チーン、880円。ほんとに正しいのかなあ。


ふとんの下に敷く除湿剤は880円だった
「汗や水を吸います」とあったが「用途以外には使用しない」とも

服作りを大いになめる

「型紙買ってきてミシンを使えば服なんてすぐにできるのだろう。」服なんて作ったことないけど、そんな気がしてた。

失敗した今となっては「いやあねえ、男子って」と自分のことながら思う。こんな人は、きっと牛乳配られたら一瞬で飲み干して「おかわり!」って言ってたのだろう。


型紙でなんでもすぐできるんだろう?と思ってたが…

説明書の記号の解説だけで挫折。なめててすいませんでした。


結局「大体の大きさをTシャツからとって、マスにそって切る」という掃除の時間にホッケーする男子のような作り方に落ち着いた


ミシンもなめる

「言ったよね?わたし言ったよね?」今もあたまの中で響く妻の声。

「あとはミシン使えばいいでしょ」「ミシンあるから楽勝でしょ」そんな気軽にミシンミシン言ってた僕を妻は苦々しく思っていたにちがいない。

ミシンはあれだけでかい図体をしていながら準備も作業も問題も驚くほど細かかった。


ミシンってこんなにでっかいのに、こんなちまちました糸問題に挑むのか
結局妻がやることに。掃除の時間の男子女子問題というのはこの先も永久につづくのだな。

手で縫ったほうが早かったか

結局、毎回糸がからまり、最終的には針が折れ、ボビンの糸がなくなり、上糸の在庫も残りわずかという大敗北で初日は終了。妻との間には、未曾有の距離感が出来上がっていた。

二日目に入ると僕は「説明書をよく読む」という進化を果たした。気分は、台を置いて颯爽と駆け上がりジャーンプ!そして高いところにあるバナナを見事キャーッチ!そんなエリートビジネスマンみたいな感じだ。


一人でミシンが使えるようになった。次はお留守番にチャレンジしてみたい。
針穴に糸とおすってこんな作業世のばあちゃんたちはよくやってるよな

だんだん針仕事が好きになる

こんな当たり前のこと書いてもうしわけないが、針仕事の無心っぷりといったらない。菩提樹の下で縫う僕の周りで動物たちが眠り、小鳥たちは歌い、評判を聞きつけた人々が弟子になりたいと集ってくるかのようだ。

おお、聖人よ。一体あなたは何をされているのでしょうか?空想上でのそんな質問でふとわれに返り、「お針で除湿剤縫ってますねん!」と大声出すと、くもの子散らすようにみんないなくなった。


首まわりができたのでテストでかぶる。手がまずへんなところから出てきた。
うん、なんだろう、このアンニュイな感じは

完成、お里が知れる

できた。製作時間は3時間×2日だったが、問題が多かっただけに体感時間長かった。でも思い出してみよう、そんなときはいつも達成のよろこびが一入じゃないか。

ああ、そして思い出した。そのよろこびはいつも一瞬で消えうせるのだ。僕が作るものは大体いつもこれくらいのクオリティだからだ。


うわあ、これ作った人育ちが悪そう。

実践

なんとかだらしないのが出来上がったのでいざ実践。あいにく最近になって外は涼しくなってきたので、暑い場所に行くことにした。

どこが暑い?サウナか?サウナみたいな場所なら知ってる、渋谷だ!


渋谷駅銀座線乗り場。ここだけはいつ来ても熱帯だ。

日本のハワイ、渋谷駅銀座線乗り場

僕の知ってるとっておきの猛暑スポットがここ渋谷駅銀座線乗り場。

ごちゃごちゃした駅の最上階にあるからか、なぜかいつ来ても熱がこもっている。ここだけは年中常夏、日本のハワイといってもいい場所だ。

むせ返るほどの熱気と、息を止めるほど針仕事に夢中になってたせいで、汗まみれのTシャツ。

ふ、不快だ。そしてこの不快感こそが僕の期待していたもの、というちょっとへんな状況だ。大人になると色んな事情があるものだなあ。ああ、これが大人の事情ってやつか。


トイレで着替えを済ませる
撮影してくれていた妻との距離感がこれだ

トイレで着替えを済ませる

ザザザザザ!ザザザザザーッ!トイレの個室からこんな音がしてたのでしまわりの人はきっと、ああ、やだな、って思ったことだろう。

それは「ああ、カフカみたいなでっかい虫がいるんだな、やだな」だったかもしれないし「ああ、野球部がトイレでスライディング猛特訓してんだな、やだな」だったかもしれない。

パタンと個室のドアが開くと「ああ、除湿剤で作ったごわごわすぎるTシャツ着ようとしてたんだな、やだな」が正解だったとみんな知ることになる。生まれてきて、ごめんなさい。


へっ、へっ、へっ。へっ、へっ、へっ、へっ。

すげえ、裸みたいだ!

なんだこれ、涼しいのは涼しいけど、なんだろうこの無防備な感覚。裸で突っ立ってるかのようだ。これあれだ、変態だ、変態のそれだ。

このTシャツごわごわと硬く曲がりにくい。そして大きめに作った服なので、肌と触れている面積もとても少ない。

ツーッと汗が流れていくのがわかる。ああ、わかった!これTシャツじゃなくて鎧だ!すっぱだかで鎧着てるみたいなものだ。


気持ちとしては「裸で格好つけてるアラン・ドロン」でいます

へっ、へっ、へっ。二科展の季節か。(ただ、なんとなく)
肌にふれさせてみるも、一般的な服に比べて吸水性に難あり

この日ばかりは、子が胸にまったく顔を擦り付けない。なぜだ。

除湿効果はどうなった?

裸だ、裸だ、と肝心の除湿効果をさっぱり忘れていた。「汗や水をよく吸います」とあったが、綿のシャツほどは吸わない。たぶんこの除湿剤のライバルは畳とか着ることを思いつかない素材なんだろう。綿とか麻にはボロ負けだ。

体をつたう汗がそのままなものだから、除湿を実感することはない。でもほぼ裸感覚なのでスースーはする。

しかもただ裸になっているときよりも汗が冷たい気がする。これが除湿効果だろうか?いや、たぶんちがう。これこんな格好をしてる居心地の悪さ、つまりは冷や汗なのだ。


結局なんだかんだでさらに汗かいた
除湿剤も「わたしけっこう水吸いました」サインを出してた。うん、がんばったよ、剤としては。けど、服としては…。

0点!

ドライがいいんだろう、ドライがいいんだろう、と除湿に特化した服を作ってみたが着心地という点では効果はなかった。

ただし冷や汗をかいて涼しい、と言うのはおあとがよろしい感じがして居心地が悪い。なのでまったく涼しくないということにしておこう。除湿剤ドライTシャツは0点だ、なんならペケだ。

語感が気持ちいいのでもう一度言おう、あれはペケだ!

本物は千円しませんでした

本物を着てああドライってこういうことかと合点がいった気がした。水は吸うけど、水を感じさせない肌触り。やっぱり服ってえらい。除湿剤はやっぱり剤だもの。剤じゃなくて服のことばっかり考えて作られたらそりゃ着心地もすばらしい。

あと買ったばかりのドライTシャツは鯖の押し寿司の匂いがするということがわかった。何のことを言ってるのかわからない人は、すぐにでも嗅ぎにいってほしい。

するから。

本物のドライTシャツ買って着た。なんだこのぼんくらっぷりは。

 
 

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.