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ロマンの木曜日
 
ニョキニョキハウスに誘われて


何で、あんな所に家がある

先日、結構な棚田があると聞きつけ、和歌山県の有田川町へ行ってきた。

評判通りの景観を目に収める事ができて満足した私は、冷房の効いた小さなバスに気分良く揺られていたのだが、その道中、ふと窓の外から山を見やると、そこには得も言われぬ珍妙不可思議な光景があった。

それなりに標高があるであろう山の頂上付近に、ぽつん、ぽつんと人工物らしきものが点在しているのである。よくよく目を凝らして見てみると、どうやらそれは、家のようだ。山からニョキニョキと、家が生えているのである。

木村 岳人



ニョキニョキハウスを確かめに

そのインパクトは強烈なもので、私は帰ってからもなお、あの山に生えた家々が気になって仕方が無かった。そもそも、あれは本当に家だったのだろうか。家だとしたら、なんであんな高所に、しかも複数、散在しているというのだろうか。

気になりだしたら止まらない。私はニョキニョキハウスの正体を見極める為、再び有田川町へ舞い戻る事と相成った。


JRきのくに線の藤並駅に到着
有田川を遡るバスに乗車

和歌山以南のJRがICカード未対応で、ただでさえ心もとない現金が切符代に溶けてしまったなど多少のトラブルはあったものの、その道のりはおおむね順調で、問題無く進む事ができた。まぁ、ついこの間訪れたばかりの場所であるし。

それにしても、私が行く先々のバスというのは、相も変わらず本数が少ない。今回のバスも、万が一9時半のものを逃してしまったら、その次のバス13時である。おかげで朝早くに家を出なければならず、寝不足だ。ギラつく太陽が身にしみる。


このあたりは、みかんの段々畑が多くてワクワクするね

バスは途中、金屋というターミナルで停車した後、運転手を交代して山へと入った。後はただひたすら、有田川沿いを通る国道480号線を上って行くのみ。

ちなみに、バスの乗客は私だけ。先日来た時は13時の便に乗ったのだけど、その時も金屋を過ぎた頃にはやはり私だけとなっていた。そういえば、先月四万十川を遡った時に乗ったバスも、乗客は私一人だったっけ(→参考記事)。

田舎のバス路線というのは、私が乗る為だけに存在するのではないだろうか。そんな馬鹿げた妄想までもが頭をよぎる。


まぁ、いわゆる紀伊山地ですわ

一度目ならともかく、二度目の来訪ともなると、さすがに見知った箇所も多くなる。とはいえ、山間の道はなかなか明媚な場所も多く、また今回の目的地はそれほど奥まで行かない事もあって、乗車時間はあっという間であった。

降り立ったのは、有田川町粟生(あおう)地区。


のんびり、キャンプとか川遊びするのに良さそうな所ですな

 

ニョキニョキハウスへのアプローチ

さて、今回の目的は例のニョキニョキハウスである。早速探してみると、おぉ、あった。紛うこと無きニョキニョキハウスだ。

遥か向こうの山の上、点々と散らばる奇妙な人工物群。うむ、まさしくあの時見たのと同じ光景である。果たしてあれらは何なのか、いよいよその謎を解き明かす時が来た。


奥の山の頂上付近に白いものが点々と見える

拡大してみると……間違いない、人工物だ

さらに拡大してみると……ロッジというのか、西洋風の家が並んでいる

ふぅむ、やはりこれは家のようだ。しかし、どう考えても普通の家だとは思えない。

デザインもロッジ風というか、山小屋風というか、そういうので統一されていて妙だし、そもそも、普通はあんな山の上などに家を建てたりしないだろう。しかも、ちょっとした集落を形成するくらいの数が建っているなんて、ありえない。

見れば見るほど不思議に思う。行ってみたい、あの場所に。


というワケで、徒歩で接近を試みる

誰が何の目的で建てたのか、それははなはだ疑問だが、まぁ、家があるということは、そこに至る道もあるだろう。それを突き止めれば、そこへ行く事も可能なはずだ。

しかし、その入口がどこにあるのか皆目検討が付かない。勘だけを頼りに、あてずっぽうで歩いて行く。


途中、水力発電所があった

ニョキニョキハウスの真下辺りに差し掛かった頃、水力発電所があるのが見えた。

山の上から真っ直ぐに下りてくる銀色の圧力水管を眺めながら、あのニョキニョキハウスはこの発電所関連の施設なのではないかとも考えた。しかし、それにしては建物の数が多すぎるし、デザインも不自然だ。

さらに謎が深まる中、私はもう少し先へと進んでみる事にした。するとそこにあったのだ。山上へと通じる道が。

 

有田川界隈こぼれ話 〜 あらぎ島がカッコ良い

今回、ニョキニョキハウスを発見するに至ったのは、あらぎ島という棚田を見に行ったその帰りであった。このあらぎ島が、なかなかに素晴らしい棚田であったので、この機会に紹介したい。

あらぎ「島」とは言っても、海に浮かんでいるような島ではなく、有田川が大きく蛇行してできた、舌状の半島に開かれた棚田である。あらぎ島の特徴は、何よりも他の棚田では見る事ができない、その特異な景観だ。

この棚田が開かれたのは江戸時代の事だと言うが、よくもまぁ、このような場所に水路を引いて、棚田を作ろうと思ったものである。まとまっていながら雄大で、まるで芸術作品のよう。いやはや、たまらんですなぁ。

対岸から見るあらぎ島全景

扇状に並ぶ曲線が素晴らしい

棚田の傾斜は割と緩やか

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