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フェティッシュの火曜日
 
秩父でキャビアを作ってるぞ


秩父でチョウザメの養殖が行われているというが…?

秩父でキャビアを作ってるらしい。

それも人工の模造品などではなく、本物のキャビア。正しくはチョウザメの養殖を行っているそうなのだ。

上京して数年程度の知識では、埼玉県の山奥にあるのが秩父で、こんにゃくがうまいところが秩父で、とにかく変な祭りばっかりやってるのが秩父、であるはずだ。

次に入ってきた情報はキャビアがとれました、なのだ。何かの間違いではないか。

早速、秩父で何が起こっているのかを見に行った。

大北 栄人



西武秩父線沿線、ああ犬がいるな…

しかし気になるのはなぜ秩父!なぜキャビア!だということだ。

埼玉の山奥秩父。パッと思い出すのはジャランポン甘酒まつりなどの奇祭の数々、非常に「奥まった」文化を持つという印象がある。

だが、一方埼玉出身のライターに言わせれば高校で「山奥組」と呼ばれていた秩父の子達が一番お洒落であり、そこにはテクノDJさえいた(※記事『こんにゃく旅行、秩父へ』)という。

山奥でテクノDJやキャビアを生み出す秩父。風水的なものか、地霊のせいか。奥まりすぎてもうよくわかんないとこにいってるのだろうか。


犬かと思ったら山羊だったりする。さあ、秩父は近いぞ。

西武秩父駅からバスで30分、小鹿野警察署前で降りる。

小鹿野の町に入ると「歌舞伎の町小鹿野」と書いてあった。地方歌舞伎のことだろう。炭鉱で儲かった、とか景気の良い町なんだろうか。

もしかしてその一環でキャビア?歌舞伎からキャビアとびすぎじゃないか?


それほど山奥という感じでもないところにチョウザメを出す鰉魚亭がある

なぜ秩父?

「僕は東京生まれで三代目だから江戸っ子ってことになるのかな、とにかく学校も職場も東京から出たことなかった。」

わわ、ちゃんとした人が出てきた。山奥でチョウザメの養殖をやってると聞いて、マッドサイエンティストみたいな店主を想像してたので驚いた。

ここ秩父でチョウザメの養殖をしている東条さんは40代まで東京で建設会社のサラリーマンをしていたそうだ。

「妻が秩父出身で、僕も田舎が好きだったからこっちに引っ越してきたんですよ。」

さあ、秩父である理由は固まった。「奥さんが地元で自分も田舎暮らしをしたかったから」というちゃんとした理由だった。

だったら説明してもらおう、なぜチョウザメなのか?。


チョウザメの養殖とお店をやってる東条さん。

米ソを股にかけた理由

「日本だとまず職があって住む場所だけど、アメリカとかだと、まずここに住みたいって場所を決めて、そこから職を探すでしょ。」

意外とアメリカンな由来のチョウザメ養殖。今日はロシアだけでなくアメリカもまたにかけた冷戦スケールの話になってきたけど、住所は変わらず秩父。バス一本逃したら一時間は待つ所だ。

いや、ちょっと待ってください。なんで秩父で職を探すってなってチョウザメ養殖が出てきたんですか?


西武秩父駅前にて。ここの名物なのかくるみそばの店が並ぶが、右の店だけ「本物」とあって妙な気まずさを感じさせる。

スケールのでかい趣味

「彼女は生き物が好きで、チョウザメを見た瞬間に『かわいい』『これ欲しい』って言い出したんです。」

どうやらきっかけは秩父同様、奥さんなんだそうだ。

「もともと商売にするつもりじゃなかった。」という東条さん夫妻だが、十五年前新潟の水産試験場で養殖のチョウザメと出会って惚れ込み、数匹買い付けてきた。

翌週には奥さんは岩手県の釜石で500尾の稚魚を買い付けている。釜石でチョウザメの繁殖させてるって情報もすごいけど、一気に100倍買い増ししてることに注目がいく。

どうだろう、それまだ趣味のレベルなんだろうか?アメリカンだしまあ「スケールのでかい」趣味ってことでいいんだろうか。


「あらやだ、本物のくるみそばよ〜」と声が聞こえたと思ったら、二人のおばちゃんが右側の店に向かった。「本物」すごいな。

500尾のチョウザメがわが家に来る

そして一ヶ月後には秩父に8トントラックで稚魚が来る。

(ちなみに、稚魚はその後毎年買うようになるが、小口で来るときは宅急便でチョウザメが来るらしい。)

「とりあえず釣り堀にコンクリ貼って防水かけて。最初は15cmくらいの小さいやつだったからよかったけど、すぐそのうちキャパシティを超えてくるわけ。」

はい、釣り堀にコンクリ貼ってる時点でもう引き返せない感はたっぷりです。

「これはあかん、ってなったけれど、あかんって言ったって、趣味で続けるわけにはいかないし。そこで初めて試算をしてみて、なんとか商売になるか、って。」と、本格的に養殖場を作ることにしたそうだ。

そして晴れて秩父でチョウザメ養殖に乗り出す。


ところが「本物」の店の前からきびすを返して、全員「ニセモノ」の店に入っていった。「本物」に何があったんだ、何が!?

やっぱり秩父だしさ

チョウザメ養殖が秩父にある理由の全体像がやっと見えてきた。結局は淡水魚の養殖ってどこでもいいらしいのだ。

どこでもいいならなぜ秩父?それは秩父が呼んだんじゃないか。

ちなみに秩父が「東京との所得格差がすごくて驚いた」ことも、それなら養殖でいいか、と決めさせた要因なんだろう。

これだけさんざん聞いておいて、結局秩父である理由はテクノDJを生んだりする「地霊」のせいである気が再びしてきたのだった。


近くにあったスナック「いちおく園」。子供がつけた名前だろうか。

やっててよかったチョウザメ養殖

「チョウザメ以外の魚ならやらなかったでしょう。魚についての知識も全くないから、太刀打ちできなかったでしょうし。そういう可能性があるなら賭けてみようかって。」

新しいチョウザメ養殖には未来があったようだ。アメリカンだかロシアンだか釜石ンだか秩父ンドリームだか。とにかく夢がある。

「でも、そのときした試算は非常にラフでね。たとえばチョウザメは2.5〜3年で商品になる。後から知ったが、3年魚は商売にならないって言われてるんです。」

…あ。

聞かなきゃよかった。「チョウザメかわいい!」そんな浮かれた気持ちだけでインタビューも養殖も終えられたらよかったのだが、世の中甘くない。

「今くらいの知識があれば、絶対やらなかったね。」

最後にはこんな言葉でスパーっと言い切っていた東条さん。残念ではあるけれど、かっこよかったなー。


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