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ロマンの木曜日
 
電車やバスでダムに行こう


もう行けないとは言わせない

ダムが好きで、いろんな人に会うごとに良さを伝えているのだけど、ダムは楽しいよと言っても、おいそれと山奥に行くのは簡単じゃない。

実際、話を聴いて興味を持ってくれた人の多くから言われるのは「行ってみたい、でも車がないから」。

それなら、車を使わなくても、電車やバスだけで行けるダムを紹介すればいいんじゃないかと思った。今さら!

というわけで、これを読んで興味を持ってくれたら、次の週末にダムに行こう!今週末じゃないと間に合わないところもあるから!

萩原 雅紀



ダムの記事を書かなきゃ

のっけから私事ですが、先日ダム関係の仕事用の名刺を作ったとき、思い切って「ダムライター/写真家」なんて肩書きをつけてしまった。最近あちこちでダムに関する文章を書かせてもらったり、人前でダムの話をさせてもらったりしているのだけど、そのときに名乗る肩書きが「ダムファン」とか「ダムマニア」ではあまりに説得力がないというか、肩身が狭いと思っていたのだ。


こんな名刺を作ってしまった

たぶん「ダムライター」なんて名乗っている人は僕以外にいないから、無知が勝手に名乗って先人の名誉に傷をつけることもない。人前に出たときも「ああ、ダムを専門に取材をしている人なんだな」と思ってもらえるだろう。よし、ダムライターと名乗ろう!

それからしばらくのほほんと生活していて、あるときふと気がついた。

そう言えば、ダムライター名乗ってからダムの文章を書いてない!

思えば昔からこうだった。例えば夏休みの計画表を張り切って初日に書いたら、あとは8月31日まで宿題も絵日記も存在自体を忘れてしまっていた。あのころから何も変わっていない。

というわけで、今回はダムライターの面目を躍如するため、楽しいダム旅行をマジメに書きます!


都心から1時間のお手軽ダム見物

公共交通機関でダムに行くとは言っても、いきなりローカル線やバスを乗り継いで山奥に向かうのは不安だろう。そこで、まずは軽い足慣らしに新宿から1時間でたどり着くダムを紹介したい。

最寄り駅はその名も西武多摩湖線の終点、西武遊園地駅。このあたりの西武線は複雑に入り組んでいて、通勤路線である池袋線や新宿線とは明らかに雰囲気の違う、短い編成の電車がのんびり走る。のんびりというのはイメージで実際は路線の規格にあったダイヤだろうけど。

終点の西武遊園地駅が近づくと、進行方向左手に狭山公園の森が見えてくる。ちなみにこのあたりは映画「となりのトトロ」のモデルになった地域らしく、今でも住宅地の中に森が点在している。そして、狭山公園の森の向こうに、時折てっぺんが一直線の堤防のようなシルエットが姿を現す。これが目指している村山下ダムで、通称多摩湖。いま乗っている西武多摩湖線は、大正末期に完成したこの多摩湖に向かう観光客目当てに引かれた路線らしい、というのはこの記事で知った。つまり、トトロの時代にも多摩湖や多摩湖線は存在していたのだ!



線路の横に狭山公園が見えてくると
その奥に村山下ダムの堤体が姿を現す

ダム工事現場への資材運搬のために引かれた路線、というのは各地にあるけど、ダムへの観光客のために線路が引かれる、というのは今では考えられない。なんていい時代なんだろう。第二次大戦前の大日本帝国時代だけど。

この日は休日だったため、終点の西武遊園地駅では多くの人が降りた。改札を抜け、階段を上って、左に曲がると村山下ダム方面だけど、僕以外は全員、正面の西武遊園地に笑顔で消えていった。80年前なら全員左折していたのに!


終点で電車を降り、改札を抜けると
みんな遊園地の中へ消えて行った

ひとり横断歩道を渡って、目の前に見える公園の森の中に入っていく。道が造られているわけではないけど、雑草や枯れ葉がない土のベルトが奥に延びている。明らかに今まで多くの人が踏んだ跡だ。みんな気持ちを高ぶらせながらダムに向かった痕跡だろう、などと考えて自分の気持ちを高ぶらせる。



左奥に見える森の中を突っ切る
何となく見える踏み跡を進む

森はすぐに抜けて、視界が開けると同時に穏やかな水面が広がる。目の前には水面と住宅街を隔てる一直線の道路、そしてその下に伸びるなだらかな土手。これが村山下ダムの堤体だ。


目の前に広大な水面が
堤体上の道路

こうして見ると確かにダムだ

村山下ダムは、江戸から明治維新を経て、東京の人口が爆発的に増えたことにより不足する生活用水を確保するために建設され、大正13年に完成した上水道用のダムで、土を盛り立てたアースフィルダムという簡素な型式。もちろん今でも都民の水がめとして現役で、つい最近改修されたばかりなので全体に小奇麗だけど、完成してからもうすぐ1世紀が経とうとしている歴史ある堤体だ。改修前はダム本体の外側に、敵国の爆撃から守るための層が盛ってあったというから時代を感じる。

現在ではそんな物騒な雰囲気はまったくなく、一見するとだだっ広い遊歩道が奥まで延びる公園。ジョギングやサイクリングをしている人も多く、完全に近隣の人々の憩いの場になっている。そういえば僕はここで今年の初日の出を見たのだった。


自転車もジョギングも走りやすそうだ
堤体の上と下を繋ぐ階段も作られている

このダムの見どころは、堤体を隔てて静かな湖と住宅地が密接している違和感。堤体の上から湖を眺めているだけだとここがダムという感じはしないけど、土手の下に降りて見上げるとそれは間違いなくダム。そして背後にはすぐ電車が走り、住宅地が広がる。

ダムは山奥にある、という先入観というか固定観念を持っていればいるほど、不思議な感覚にとらわれる場所だ。でも空も広くて気持ちいいので、ダムに興味なくても近郊の人は本当にお勧め。少し上流に歩くともうひとつの多摩湖(多摩湖は2つのダムで1つの呼び名なのだ)である村山上ダムもあるし、西武遊園地駅で接続している西武山口線、通称レオライナーに乗って西武球場前駅で降りれば、すぐ隣の山口ダム、通称狭山湖にも行くことができる。


貯水池の最上流には村山上ダムが見える
堤体のすぐ下に住宅地が広がる不思議

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