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ちしきの金曜日
 
50年前のおもしろ修行


いち門下生(非公認)として、ぜひこの八田イズム(の、主におもしろい部分)を継承したい

「日本レスリングの父」と呼ばれる八田一朗さんを御存じだろうか? 日本の大学に初めてレスリング部を創設。後年にはレスリング協会会長、五輪を目指す日本代表チームの監督として、日本レスリングの発展に寄与し続けた偉人である。

…なんて偉そうに書いているが、僕が先生の存在を知ったのもじつはつい最近のことだ。いま、「先生」と書いたが、僕と八田氏に接点はひとつもない(先生はすでにお亡くなりになられています)。文献や著書で先生の伝説的な偉業を知るにつけ尊敬の念が高じ、心の中で弟子入りした。

数々の伝説の中でもとくに感動したのは「八田イズム」と呼ばれる独特の指導法だ。今も語り継がれるほどのスパルタ的指導法で、あまりにスパルタすぎて逆におもしろいほどなのだ。

榎並 紀行



昭和の日本を震撼させた「剃るぞ!」のフレーズ

「最近の日本男児には気合いが足りない」。もし先生がご存命ならさぞ嘆くことだろう。そしてこう言うはずだ。「剃るぞ!」(※注1)とな。

(※注1)
「剃るぞ!」とは先生が愛弟子を鼓舞する時に用いた魂の言葉。試合でふがいない負け方をした弟子に活を入れるべく頭を丸めさせ、それだけではあきたらず「下の毛も剃らせた」というのが由来。以来「剃るぞ!」は弟子たちにとっては恐怖の脅し文句として、世間には八田式スパルタ指導法を体現するキャッチコピーとして広く知られるところとなった。

「剃るぞ!」は当時(1960年代)の流行語にもなったというから、八田式のスパルタは世間では好意的に受け止められていたのかもしれない。


そして弟子たちは風呂やトイレでそれを見る度、負けた悔しさ、情けなさを思い出したとか

著書『剃るぞ!』(すごいタイトルだ)の中には、自身で考案した数々のスパルタ指導法が記されている。以下、その一部を抜粋する。

●元旦に寒中水泳をさせた
●真夜中に叩き起こして練習させた
●ハブとマングースの闘いを見せて「闘魂」を学ばせた
●動物園のライオンと檻越しににらめっこさせて胆力を養った
●煌々と灯りをともした部屋でラジオを爆音でかけ「寝ろ」といった(ちなみに部屋には蚊が大量に飛んでいた)
●「夢の中でも勝て」といった


「真夜中に叩き起こされて原稿を書かされる」の図

「寒中水泳」の図

「動物とにらめっこ」の図

どれもこれも身震いするほどスパルタである。だが同時に、どこか「お笑いウルトラクイズ」のような匂いも感じないだろうか。義太夫や井出らっきょの寒中水泳を想像して思わず口元がニンマリしてこないだろうか。

想像するに、たぶん弟子の何人かは半笑いでやっていたと思う。いきなり「動物とにらめっこしろ」とかいわれたら僕だったら絶対笑うし、厳しい訓練の合間に(※注2)そんなおもしろ修行を放り込んでくる師匠のことを絶対に好きになるに違いない。

(※注2)
じっさい指導の厳しさはたいへんなものだったとか。時折行われたユニークな修行のいくつかは当時マイナーだったレスリング競技普及のための「話題づくり」として考案されたという見方が強い。

さて、そんな八田一朗さんの紹介だけで1ページを費やしたわけだが、このまま魅力を語るだけで1万字くらいは書けそうだ。だが、それはまた別に機会にしたい。


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