「猛獣とにらめっこ」は修行として成立するのか?
さて、ここからが本題。 前述のとおり、数ある八田式トレの中でも群を抜いてどうかしている(褒め言葉)のが「ライオンとにらめっこ」という修行である。
ある日先生は弟子たちを引き連れて上野動物園を訪れ、ライオンと檻越しに「にらめっこ」させたというのだ。この修行の意図は、猛獣の迫力に気圧されることなく睨み続けることで眼力や胆力を鍛え、さらに危険察知能力を高めるためだと考えられている。と、もっともらしいことを書いてみても、沸き起こるヘラヘラした気持ちを抑えられない。なんだその小学生みたいな悪ふざけ、もとい修行。
そう、凡人の頭で考えれば悪ふざけとしか思えないのだ。じつは「修行」の名を借りた悪ふざけじゃないのか。だが、先生のすることには必ず意味があるに違いないという建前のもと、ニヤニヤを抑えながら動物園を訪れた。
本当に修行として成立するのか確かめたい
この動物園には様々な肉食獣がいるが、やはり一番の強敵はライオンだ。 できれば最初は小動物などで肩をあっためたいところだが、いきなり地上最高峰の猛獣との対決が(順路の都合で)訪れてしまった。
あいにくトラは昼寝中。「トラー、トラー」という子供たちの必死な呼びかけにもまったく応じることなく爆睡している。
しかし、飼育されているとはいえそこは猛獣。ガラス越しに殺気を送り続ければ野生が眼を覚ましてこちらに飛び掛ってくるんじゃないだろうか。
時折目が合う気はするのだが、あくまで無関心を装うつもりなのかタヌキ寝入りを決め込むトラ(トラのくせにタヌキ寝入りとはお笑いである)。
しまいには欠伸なんかしてる始末。勝負以前にお話にならないチキン(※注3)野郎だ。
(※注3) 意気地なし、腰抜け、間抜けの意。とくにアメリカ人を最も怒らせる暴言のひとつ。「八田イズム」と対極にある言葉。
相手にされない悔しさでつい口も悪くなるが、柵に守られた場所からなら何とでも言える。
まあじっさいのところ、動物園の動物なんてこんなもんだ。八田先生が訪れた時の動物たちのやる気のなさもヒドかったらしい。集まった記者たちのガッカリした顔を見て、先生もおそらく焦ったに違いない。僕も今、撮影同行の編集部安藤さんを不安にさせているのでその気持ちはよく分かる。
その感じも含めて、当時を再現できていると思う。 この調子で本命のライオンにも挑んでいきたい。