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ちしきの金曜日
 
吹きペットボトル、はじめました


これでも気分はアーティスト。

芸術の秋だ(もう冬だけど)。

僕みたいなまったくの芸術初心者にもトライできる、なにか芸術的な活動はないものだろうか。

いろいろ検討した結果、塩ビパイプを吹くことにしました。

安藤 昌教



吹きガラスをやってみたい

吹きガラスというのに憧れているのだけれど、いろんな面でハードルが高いのだ。

吹きガラスというのはガラスの固まりを高温の炉で熱し、軟らかくしたところを吹いて広げて花瓶なんかを作る技。観光地なんかで職人さんが吹いていると張り付きで見てしまう。僕もあれ、やってみたい。

しかしまず家に炉がない。炉がないとガラスが溶かせない。溶けないガラスは吹けない。つまり我が家ではできないということだ。


で、こういうことになる。

ペットボトルなら膨らむんじゃないか

いきなり正解(というか不正解)の写真を出してしまったのでもうおわかりかと思うが、ガラスの代りにペットボトルを熱して軟らかくして吹いてみることにした。

目標はペットボトル製のすてきな花瓶だ。できるだろうか。


塩ビパイプを空気がもれないようにペットボトルに突き刺す。

ペットボトルは熱すると変形する。その時中からうまく空気を入れてやれば丸く膨らむんじゃないだろうか。

道具は塩ビパイプ、ペットボトルのみ。まさに手軽に始められる芸術である。

さっそく温めてみよう。


ゴーー。

ペットボトルは低音でも変形する(50度から変形するらしい)ということで、暖房用のガスヒーターで温めてみる。

しばらく温めていくとなんとなく軟らかくはなるものの、吹いて膨らむほどではなかった(※)。

※あなたの家のヒーターは強力かもしれません。気をつけましょう。

沸騰したお湯にもつけてみたのだが、こちらも多少軟らかくなったものの、やはり吹いて膨らむほどではない。


お湯もだめだ(写真の暗さがなんとも今の気持ちを表している)。

ペットボトルは確かに低温で変形する、しかし膨らませられるほどには溶けないのだ。やはりそれなりに温度が必要なようだ。

これは直火で温めるしかないだろう。

そうなると家の中でするにはリスクが高い。ガスコンロで炙って溶けて燃えたら家が火事だ。すごい言い訳しにくい原因で火事だ。

というわけで熱源として万能といわれている(参照1参照2)七輪を持って外へ出た。


この七輪がちょうど自転車のカゴに入るんですよ。自転車がボロいのは別にして、無敵の機動性を得た気分になる。

近所の砂浜へとやってきた。

あらかじめ炭に火を入れておいたのであとは風を送るだけで芸術活動、準備完了となる。


およそ芸術とは思えない写真だけどな。

気を取り直して、吹きペットボトル開始です

海からの風も入り、いい具合に炭に火が回ったところでいよいよ吹きペットボトルを始めたい。

まずは温めて軟らかくするのだが、このときまんべんなく熱を加えるため、回しながら温めるとよい。


この時点では芸術の香りはまだ漂ってこない。

しばらく温めるとペットボトルは指で押して変形するくらいに軟らかくなった。

これはいけるんじゃないか。

やおら吹き口に息を入れる。


軽く押すとへこむくらいに。

ふぅぅぅーーー。


今、芸術っぽくないっすか!

むぅぅぅうーー。


肺活量ではそのへんの職人に負けない自信がある。
…のだが。

まったく膨らまない

力いっぱい吹きすぎてへそから腸が出そうになった(赤ちゃんは泣きすぎるとへそが出ます)。しかしまったくもって変形しない。

温めが足らないのだろうか。それとも根本的な部分が間違っているのか。前者と信じて熱を追加する。


もうかなり軟らかくなってるんだけどな。

過熱を再開した直後、ある変化に気づいた。

なんだかさっきとペットボトルの質感が変ってきているのだ。徐々に小さく、そして白濁してきたように見える。


ある瞬間を越えると、一気に縮んでしまった。

さっきまで軟らかかったペットボトルは、小さく白く、そして硬くなっていった。あわてて吹き口から息を吹くのだが、熱を帯びた空気ばかりが逆流してくる。熱で縮む力の方が、僕の肺活量を凌駕したのだ。

こうしてペットボトルはまったく膨らまず、逆に小さくなってしまった。


おれの花瓶が。

いちおう作品っぽく撮ってみた。

調べてみると、ペットボトルは作る段階で口の部分だけを加熱して白く結晶化させることがあるのだとか。まさに僕が作った花瓶がそうだ。熱を加えると硬くなる、しかし硬くなる直前のところは軟らかいはずだ。そこを吹きたいんだ。

いま使ったのは炭酸飲料のペットボトルだったから丈夫にできていたのかもしれない。

素材をホットのお茶ボトルに変えてもう一度チャレンジしてみよう。すぐ後ろで犬のしつけをやっているのだけれど、飼い主が犬に「そっち行っちゃだめ!」って言ってる。


やっぱり芸術家は近寄りがたいですか。

膨らまずに破裂

まんべんなく温めていくと、ボトルが急激に変形し出す瞬間がやってきた。おそらくこれ以上温めると、また結晶化して白く固まってしまうだろう。

ここぞとばかりにパイプを持ち替え、一気に吹く。

ふんっ。

(ボンッ)


お。

はじけてしまった。

軟らかくしたペットボトルはガラスのように伸びることなく、むしろ縮む。そしてむりやり膨らませようとすると破裂するということがわかった。


ゴミでゴミを作った瞬間。

作品名「ヘルニア」。

最後にいちおうでかいのでも試しておきたい。水の入っていた2リットルボトルでチャレンジだ。もしかしてほしい。

前の二つに比べて、ずいぶんと素材の厚さが薄くて軟らかいので、吹いたときに膨らむとしたらこれだと思うのだ。


見るからにべこべこですわ。

だがしかし、底だけ変形

ねんごろに温めてから慎重に息を吹き込む。

軟らかいと思っていた割りに、炭酸の500ボトルと同じくらいの抵抗を感じる。しかし破裂はせずに少しずつだが息が入って行っている感覚があるぞ。

いい具合ではないか。


回しながら息を吹くと、塩ビパイプにもっていかれて唇がねじれます。

大きいので全体をまんべんなく温めるのが難しいのだが、丹念に回してできるだけ均等に軟らかくしていく。そして軟らかくなったところを一気に攻める。

ふんっ。

(ポン!)


おお!

吹きすぎて耳の後ろが痛くなってきた頃だった。ある瞬間、急激に吹く力が拡散したような気がした。また破裂してしまったかと思ったのだけれど、穴はあいていない。

見ると底の部分が丸く膨らんでいた。


ボン!という音とともに飛び出した底。僕のへそが飛び出したんじゃなくてよかった。

底が飛び出したおかげで自立することができなくなった(砂で固定)。

底だけは膨らんだのだが、全体を見るとやはり二回りほど小さくなっていた。熱を加えると縮む傾向のあるペット素材を、人の力で吹いて丸くするのはかなり難しいということがわかった。

吹きペットボトル、奥の深い芸術である。


寒い。

いつかやりたい吹きガラス

ペットボトルは作る段階で管状のペット素材を空気で押し出して形成すると聞いた。形がついてからのボトルをさらに吹いてもキレイな球体にはならないのかもしれない。

もしかしたら均等に、しかも高度に制御された温度で全体を温めればうまくいくのかもしれないが、それならば一度どろどろに溶かしてから吹いた方が早いような気もする。いずれにせよ、吹きガラスのように見事に膨らませるには、別次元の苦労があるようです。

ちなみにペットボトルの「PET」はポリエチレンテレフタラートというもので、燃やしても毒になるようなものは出ません。って高校の化学で習ったような気がします。

どうにかして作品っぽくしたくて、中に電球いれてみたりしたけど、…違いますね。

 
 

 

 
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