自分が好きなものを3000円分買って袋に詰めていいと言われた。なんて太っ腹な企画なんだろう。
大人になってから他人に小遣いをもらって「なんか好きなもん買ってこい」と言われることなんてそうそうない。 ぜひやらせてください!と即答した。 (西村まさゆき)
かっぱ橋で3000円分のなにかを買う!
東京は神保町の古書街とか、浅草橋の人形問屋街、稲荷町の仏具街、花川戸の靴履物問屋街など、強烈な個性をもった町がたくさんあって面白いが、調理用具や業務用器具の町かっぱ橋道具街もそんな町の一つだと思う。
編集部からの要請は「3000円でなるべく数が多くなるもの(要は安いものをたくさん)を選んでください。 」という話だ。
安い物。かっぱ橋にあるかしら?
かっぱ橋といえば食品サンプル。食品サンプルといえばかっぱ橋。というかどうかはしらないけれど、食品サンプルを扱った店がこれほどあるのはかっぱ橋ならではだと思う。
観光でくると気持ちが大きくなるのか一瞬「買おうかな」と思ってしまう。
……しかし、冷静に考えると食品サンプルって買ってどうしようということもない。「ハハッ面白いねー……」で終わってしまう。つけ麺の食品サンプルが家にあったとしても使い道はない。
これを先人の知恵を借りて言い表すと「無駄な買い物」と言うのかもしれない。
でも、観光地のお土産なんてそんなものだよなとの思いもする。木刀とかこけしとか。 買った本人が納得してればそれでいいんだよな……。
で、結局ぼくは買わなかった。
メタフィクションの世界
かっぱ橋を歩いていると、飲食店の看板やのぼりを目にすることが多い。しかし、それはほとんどの場合そういう看板やのぼり自体を売っているのであって、じっさいにうなぎ料理の店や弁当屋がそこにあるわけではない。
「ラーメンを売る店で使う提灯を売る店」という劇中劇のような、入れ子構造的な店がかっぱ橋にはたくさんあるのだ。 かっぱ橋の町を歩いていて感じる面白さはメタフィクションの面白さなのだ。
専門性が高いアイテムは値段も高い
食券販売機を売る店もあった。 これ、1台19800円ぐらいだったら物好きは買うかもしれないけど、価格は60万円とか160万円だった。 予想を裏切らない価格設定に安心した。 同じ店の店頭にかさにビニールをかけるあれが置いてあったのだけど、じつはこれにも売り物で、しっかり49800円と書いてあった。
……しかし、こういう店の売り物は当然高い。当たり前だ。本気で店を開店しようと考えてるひとが本気で買い物にくるわけだから、とても3000円で買えるようなものはない。 もしかして、かっぱ橋を選択したのは失敗だったのか……。
割り箸の種類の多さに圧倒される
そんななか、割り箸専門店を見つけた。
普段気にもとめないありふれた存在の割り箸。 そんな割り箸を専門に扱った専門店が、かっぱ橋にはあるのだ。
とにかく、割り箸の種類のおおさに圧倒されてしまう。素材もコンビニでよく貰える「アスペン(白楊 はくよう)」の割り箸から、杉、桧、エゾマツ、竹……そして形も天削箸、利休箸など、種類がたくさんある。
杉や桧の割り箸は、割り箸といえども使い捨てにするにはちょっともったいないぐらい作りがしっかりしていて、木のいい匂いがする。
ぼくはこういう「種類が沢山あるもの」を見ると、コンプリートしたくなっちゃう病が出てしまう。割り箸、そんなに高くないし、これを何種類か買うか……。
買うとき、種類を忘れないように、お店に人にお願いして、桧とかエゾマツとかいうラベルをわざわざ貼ってもらった。お忙しいところ、快く対応してくださったお店の方、すみませんでした。
国旗に心奪われる
ところで、この割り箸専門店でお子様ランチとかに突き刺してある旗楊枝を売っていた。 これ、使い道ないけどちょっと欲しい。 でも、日の丸だけ200本入りとかそんなにいらない……。
「いろんな国の国旗が入ってれば買うんだけどなあ。残念」なんて思いながら歩いてると、あ、あった。
いろんな国の国旗が入ってる旗楊枝セットだ。 「いろんな国の国旗が入ってれば買う」とさっき言ったので買う。男に二言はない。
また国旗だ。かっぱ橋はどんだけ国旗好きなんだろう? しかもこれ、トリニダード・トバゴとか、グレナダとかそういう国ばかりで、イタリアとかイギリスとかメジャーどころがない。
あ、アメリカだ!とおもって手にとったらリベリアだったりする。どうりで星が極端に少ないなーと思ったんだよな。
ウルグアイは太陽がいい顔だったのと、横長の国旗をなぜか縦位置に無理やり入れて右半分をバッサリ切っているという大胆なデザインセンスに惚れたので買った。
個人的な趣味が暴走しはじめる
それでは、上記の物以外で買ったものをざっと見てみたいと思う。
クッキーを県の形に型抜きできる型抜き。これ、全国版のセットも2200円で売ってたのだけど、それ買っちゃうとこれだけで終わってしまうので、断腸の思いで中国四国だけを買った。鳥取県出身なので。
クッキーなんて作ったこと無いけど、地理好きなら欲しくなる一品だと思う。
同じ店で移植ごてが90円で売ってたのでこれもなんとなく購入。
移植ごてってなんでこんなに安いんだろう?むかし、近所のホームセンターが開店するときに1円で売ってるのを見たことがある。
いくらセール品だからといっても、1円切手以外で1円で売ってる物って後にも先にもそれしか見たことがない。
続いてはこれ。
イラスト湯のみ。 幕末の志士、戦国大名の家紋、歴代総理大臣、魚の漢字……などなんとも言えないラインナップのイラスト湯のみ。
歴代総理の湯のみは国会見学の定番お土産なのにこんな所で買えるのだ。 歴代総理の湯のみはちゃんと菅直人まで入っているので、マメに作り直してるんだなあと感心してしまう。
で、ぼくが買ったのはこれ。
徳川十五代将軍湯のみ。 理由は、カメラマン役で同行してくれた友人が「これが一番面白い!」すすめてくれたから。面白いか?
しかし、家定への一言評価。「凡庸中の最も下等」にはグッと来た。下等。もはやひとへの評価の言葉ではない気がする。 家定って、ドラマの篤姫なんかではわりと再評価されてたと思うんだけど、湯のみの世界ではいまだに下等らしい。
そして次はこれ。
シールだ。
実は業務用のシールは基本的にバラ売りしていない。数シートづつ、小分けして売ってくれれば買うのになあ。冷蔵庫とかに「しょうが味」とか貼ってあったら面白いし……。と思いつつ店をでると……。
バラ売りしてた。
で、買ったのがこれだ。
この中で、ぼくが一番気に入ってるのが「味」。 うまいとか甘いとか、そういう雑念は一切無い。ただひたすらに「味」。無我の境地ってこういうことかもしれない。
形も変な五角形なので見る角度によってはハングルにも見えなくもない。見方を変えればいろんなモノに見える。色即是空空即是色。シールって哲学的だと思う。
割り箸は5種類も必要だったかなあ……
以上が、ぼくがかっぱ橋で購入した福袋の中身だ。 こうやって改めて見てみると、割り箸は5種類も必要だったのだろうかという不安感が脳裏をよぎり始めた。
ぼく以外のひとがこの福袋引き当てたら、完全にハズレだよなあ……。 でも、自分への福袋なんだからこれでいいんだよな。うん。いいということにしておこう