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フェティッシュの火曜日
 
子供に薦めたいマンガを聞いてみた


 

昨年後半に紛糾した東京都の青少年健全育成条例改正案。世のマンガ好きなら程度の大小を問わずひっかかったこの話題、誰しも「子供に見せられないマンガって何だろ?」と考えたと思います。また子供がいない自分としては、その逆に「じゃあ自分に子供が生まれたらどんなマンガを薦めるんだろう?」とふと思いました。とりあえず自分より詳しい方々に聞いてみますか。

大坪ケムタ



僕の子供なら自意識過剰になるはずなんです

たとえば友人に「なんかマンガお薦めある?」と聞かれたらフツーに今面白いものを渡せばいいけども、これに「子供向け」という要素を足すとちょっと考えてしまう。そこには「やっぱただ面白いより何かプラスになるものを貸した方がいいんじゃないか」みたいな考えが働くからだ。しかも「自分の子供に読ませたい」となると、さらに悩む。

今回身近なマンガ読みの方々に「自分の子供に読ませたい本を紹介してください」とたずねてみたのだけど、ただ子供といっても幅が広いので「小学校低学年向け」「小学校高学年〜中学生向け」「高校生向け」の3世代向けに一冊ずつ選んでもらうことにしました。ちなみに当記事では紹介していただいた作品のストーリーについてはあまり触れてません。筋書いちゃうとただの紹介文になっちゃいそうなので。関心持ったら各自ググるなり買うなり借りるなりして読んでみてください!作者名は敬称略でまいります。

ということでまず最初に話を聞いたのは、昨年末webを中心に今年思い入れあるマンガを語り合い、薦め合う「みんなのマンガアワード2010」を主宰された相沢さん。いわゆるジャンプ黄金期育ちで既婚、子供はなし。30歳という年齢からすると、読んでるマンガの幅は新旧問わずかなり広い方だと思う。


「で、考えたあげく小学生低学年向けは『ブッダ』(手塚治虫)なんですよ。ホント悩んで、それで嫁とも言い合いになったんですけど」

−−言い合いって!それはどういう点で?

「妻からすると『小1では難しすぎる』って。たしかにそうなんですよ。内容もそうだし漢字も難しいの多いし。でも今回みたいなテーマで、親というよりマンガ読みの先輩として何か読ませたい、と思うときは、何かしらのノイズも大事なのかなと。一端読ませておくというか、与えておくのは大事だと思うんですよね」

−−まあ子供って意味わかんなくてもマンガってだけで読みますからね。

「そうそう。小1で読ませて、その時は意味わかんなくても小4小5くらいで何で父親が読ませたかったか気づくと思うんですよ」

−−そんなシミュレーションが!

「理想は小学一年で手塚全集を買っておいて『とりあえず全部ある』って状態にしたいんですけどね。手塚って可愛いのも描くけどすごいエグいのも同じ絵柄で描くじゃないですか。でも子供は可愛いから読んじゃうし、中には入っていけないのもあると思うんです。でも入り口だけでも用意してるのは大事かなと。あとは成長するのを待つ!」


タイトルどおり釈迦の生涯を描いた一作。

たしかに最初意味わかんなかったけど、後から読むと…というマンガや映画ってありますよね。そしてやっぱり傑作と呼ばれるものって当時ワケわかんなくても何か「ひっかかり」を残したりするもんで。

続いて「小学校高学年〜中学生向け」は、子供いないながらも「読ませたい/読ませたくない」を意識せざるを得ない作品に。


「普通に僕の子供だったらいろいろマンガ読むと思うんですけど、中学生に入るまで読ませたくない漫画ってあるわけですよ。それは僕の中で三人いて、ジョージ秋山と楳図かずお、そして日野日出志なんです」

−−あー、その辺はタイミング大事な気がしますねえ。

「その中で『中学生で読ませたい』というよりは『中学生になるまで読ませたくない』代表として『蔵六の奇病』(日野日出志)ですね」

−−ついに解禁!みたいな。

「なぜそのタイミングで読んで欲しいかというと、たぶん小学生のころ読むマンガってご都合主義というとアレですけど、勧善懲悪なものが中心になると思うんですよ。正義が勝つことになってる」

−−今の王道を読むとそうなりますよね。

「でもさっきの3人のうち、楳図はちょっと違いますけどジョージ秋山と日野日出志はぜんぜんご都合主義じゃないどころか最悪だったりしますよね。不条理というか、人間の方が悪いとか」

−−勧善懲悪からは離れてますよねえ。

「『蔵六』は絵もさることながら、病気になっただけで村人とか迫害されて閉じこめられて…って」

−−普通の日本史とか歴史マンガ好きなほどショックでしょうね。

「こんなのもマンガにあるんだよ、って意味で中学生くらいで読ませたいですね。それにこの人間にすごい絶望してる感じって、マンガだから伝わってくるじゃないですか。リアルな怖さ」


30歳過ぎて読んでもトラウマ級!

実際のところ、こういうホラーや怪奇系マンガなんかは年齢だけでなく個人差でも薦め時はあるだろう。強制的に子供にホラーマンガ読ませようとする親がいたら、それこそホラーだ。ただ「読むなら中学だな!」「いや高校!」と議論するのはちょっと面白い。

そして高校生向けは、そんな世代向けの自意識と対面するマンガがそのひとつ。


「高校生向けはふたつ候補あるんですけど、絶対に読ませます!っていうのが『さくらの唄』(安達哲)」

−−高校生の平凡な日常が後半すごい展開になるマンガですね。

「もう高校生になればどんなに親と子がいい関係性作ってたとしても、あとはもう自分でやってくと思うんですよね。好きな漫画も自分で探すだろうし。ただ、『さくらの唄』だけはぜったいその時期に通らないといけないマンガ!」

−−相沢家の通過儀礼決定!みたいな。

「後半のおかしくなっていく展開もいいんですけど、前半の自意識過剰っぷりの描き方が本当に…『俺がいる!』みたいな感じで。そう一番思ったのがこれなんですよ。このくらいの世代なら悩む自意識過剰…僕の子供なら絶対なるはずなんです!」

−−わははは!

「その上で、同い歳くらいのマンガのキャラクターだけど、こういう人がいて悩んでるぞ、ひとりじゃないんだぞってのを教えてあげたいんです。自分はハタチくらいで読んだんですけど、そのくらいの同世代で読んで欲しい」

−−父のトラウマをお前も味わえ!と。

「これ読んで『わかんなかった』って言われたら、ショックってもんじゃないでしょうね。『出てけ!』って言うかもしれないすねえ」


同テーマでもっと聞いたら結構挙がりそうな作品。

ちなみに高校生向けとして持ってきたもう一冊、『ラブレターフロム彼方』(早見純)は選んだ理由が「自分の子供がもしかしたら犯罪犯すかもしれない、みたいなヤバい奴に育ったらこれを置いておきます。これ読んだら犯罪起こす気が無くなると思うんです」。

普通の日常を送ってたら読まなくていい、とも言えます。

実際は掲載した分の倍以上話してます。

相沢さんを最初にインタビューしたのだけど、現在のマンガとしての王道ではないけれど、確実に読んだ人にひっかかりそうなマンガばかりのセレクト。自分の経験に即した「願い」が見えてくるから面白いですね。さて続いては少年漫画寄りなおすすめ!

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