「なくしたものへおくるおてがみをかこう」
「最初はね、『自分の国語辞典を作ろう』ってワークショップの予定だったんですが、前日にもっともっと面白いことを思いついちゃいまして。このワークショップは楽しいですよ!」
と案内してくれたワークショップのお兄さん。
「まず、今までなくしちゃった物を思い出して下さい。なくした物の数だけ星印を描いていきましょう。何でも良いですよ。ケシゴムとか何でも。」
とは言われても、急にはいくつも思い出せない。 なんとなく手が止まってしまったので「すっぽかした飲み会とかそういうのでも良いんですかね?」と聞いてみたところ、お兄さんがぐぐっと喰い付いてきた。
「いいですね!すっぽかした飲み会!辞めちゃった会社!失恋!そういうのも全部なくしたものです!」
使いかけのケシゴムと在りし日の恋が等しく星印に変換されていった。これは確かにワークショップならではの体験だと思う。ここまで範囲を広げてもらうと星の数はどんどん増えて行った。
「それでは、星の中で一つだけ、手紙を書く相手を選んでみましょう。この折り紙に手紙を書いてみて下さい」
なるほど面白い。特別な道具や設備が必要なわけではないが、誰かに指示されないと出来ないことだ。結局僕は、最近どうもみつからない「ハンチング帽子」に書くことにした。
そしたら、自分でもギョッとするほど筆が進みました。
物になりきってお返事を書く
こんな風に手紙を書いたら、次は誰かの手紙に返信を書く番だ。ランダムで誰かの手紙を手に取って、なくしたものになりきってみる。
DSのカセット目線で返事を書いた。さっきのねちっこい帽子への手紙が恥ずかしくなってきて、その反動でカラッと豪快に書いたつもりだった。しかしこれは、みさきちゃんを思いっきり突き放している文章になっていないか。
架空なのに手紙を書くって難しい。
もっと難しい手紙
DSのカセットをなくしてしまったみさきちゃんも、今度は誰かの手紙に返信する番である。
同じテーブルで作業している本人を見てみたら、選んだ手紙を見つめたまま、ピクリとも動かない。さっきのお兄さんが「みさきちゃん、この手紙の意味はね…」と一生懸命解説している。
ん、どんな手紙に返信を書くつもりなんだ、みさきちゃん。覗き込んでみたら重たいことになってました。
なんというか、人生そのものに対する後悔と諦観の念が混じって渦巻いている手紙だと思った。僕は一応解らなくもないけれど、小児にはこの辺りの感覚、全然わかんないんじゃないだろうか。
驚いた。手紙の行間をきちんと読み込んだ上での返信だ。そして「気もちがそろわなくてざんねんですね」という書き出しが優しい。こういうコメントが出来る人とマイミクになりたい。
一応ルールでは差出人は「みさきより」ではなくて「上京したときの気持より」になるなのだが、そんなことはどうでも良くなってしまう。