もう亀頭だけに囚われたくない
建物の外のにぎやかな様子が気になって、ガラス越しに覗いてみる。親子連れが楽しそうに亀とふれあっているではないか。ただ、よく見るとそれだけではない。
体重が30kgまでの場合、ゾウガメに乗って記念写真が撮れるらしいのだ。私はもちろん残念ながら無理なのだが、そういうシステムから外れて自由に振る舞っている亀たちがいるのが気になった。
子供が見てるのに。それとも婉曲的な教育の一環か。ともあれ、現場に向かってみよう。
屋外にある柵の向こうには、ゾウガメたちがたくさんひなたぼっこをしている。穏やかな光景でもあるが、その脇ではアグレッシブに活動する亀のカップルが。
まあ動物園の類ではしばしば見かける光景だ。ただ、そうして大人のふりをするだけでは見過ごせないものがあったのも事実。写真だけでは伝えきれないものがあるので、動画でもご覧いただきたい。
動物の交尾を見て無邪気にはしゃぐ歳ではないが、看過できないものもある。一定のリズムで刻まれる動き、擬音化しづらいオスの声。
子供が見たら疑問に思うに違いない。それを「亀の結婚式だね」などとぼかしたところで、話は済むものだろうか。
とにかく、この亀を見て「俺もがんばらなくちゃ」と思った大人も多いだろう。もちろん私もその一人だ。「がんばれ」なんて言葉でなくとも、もっと心に深く突き刺さることもあるのだ。
ゾウガメゾーンの近くにはあるのは、リクガメのタッチコーナー。ここでは囲いの中に放されている亀たちとスキンシップを取ることができる。
今までガラス越しに見ていた亀頭たちに、ここでは直接コンタクトできるのだ。どれも乾いた感じがかわいい亀ではないか。
こちらから接近するまでもなく、左上の写真からもわかるように、亀たちはズンズン私に寄ってくる。のしのしと近づいてくる姿は、普段から特に生き物好きというわけでもない私にも、とても可愛らしく感じられる。
持ち方指南の掲示もあるなど、積極的に亀を持ち上げてみてもいいらしい。結構大型の亀なので、かなりドキドキする。
気がつけば、すっかり亀全体をエンジョイしている自分。もう亀頭がどうしたとかいうことは忘れて、普通に楽しい観光地気分だ。
続いては一日数回行われる「かめレース」。10匹いる亀の中から、最初にゴールへ到着する亀を予想するゲームだ。
まずはスタートのカゴの中の亀を観察する。しばらく見た結果、一番モゾモゾと動いていてやる気のありそうな10番の亀を選ぶことにした。的中すると景品をもらえるらしい。
さあ、係員が合図を出し、いよいよスタートだ。がんばれ、10番!そこには何かのメタファーとか関係なく、カメを心から応援する自分がいた。
トコトコと歩き出す亀たち。しかし、10番の亀はほとんど前に出てこない。
わかる、その感じ。実際にやるまで気合いは十分なのだが、いざ本番となると急に気が抜ける。レースで勝てなくても、きみと僕との気持ちの共有度では負けてない。「やる気はあったんだよ」という親しみのある台詞が聞こえてくるようだ。
ああ楽しい。視点を頭部に絞って訪れた亀ランドだったが、それはいつしか亀そのものをトータルに楽しむことを見失わせてもいた。タッチコーナーやかめレースを通して、再び正常な視点を取り戻せたような気がする。
頭部に特化して訪れた亀の水族館。しかしいつしか、「木を見て森を見ず」という罠に陥っていたように思う。
亀頭だけに囚われていた自分も、最後には亀全体のよさに気づくことができた。視野を広く持つことの大切さに、亀が気づかせてくれたのだ。
一周回って、元のところに戻ってきたような気持ち。これから亀を見るときは、木も森もバランスよく見つめるようにしたい。