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フェティッシュの火曜日
 
さじを投げて魚は釣れるか
釣り針 feat. スプーン

ルアーの起源は食器のスプーン、日本語で言うさじらしい。
果たして本当に人間が使う食器を魚が口にしてくれるのだろうか。
まことしやかに囁かれる逸話を検証するため、池で、川で、海で、決してあきらめない心を胸にさじを投げまくってきました。

平坂 寛



スプーンはルアーのご先祖様

ルアーという釣具をご存知だろうか。木やプラスチック、あるいは金属などで小魚を模して作った疑似餌である。これを水中で「おいしい小魚ですよ〜!」というイメージで泳がせてやると、腹を空かせた大きな魚が飛びつき、釣り餌を用いることなく釣り上げることができてしまうのだ。

市販のルアーはさすがにリアル。
魚もコロッと騙される。

こんな便利アイテムであるルアーの成り立ちについては諸説あるが、その中で最も有名な逸話はこのようなものである。
ヨーロッパ(どこの国だったかは失念。)のとある湖にボートを浮かべて食事を楽しんでいた釣り人が誤って湖にスプーンを落としてしまった。すると湖底に沈んでいくそれに、どこからか現れた一尾のマスが小魚と間違えたのか勢いよく食いついた。それを見た釣り人が疑似餌で魚を釣ることを思いつき、ルアーフィッシングを生み出した。というものである。

…本当だろうか。眉唾である。
だってスプーンですよ?小魚っぽさというか生命感ゼロ。アレはあくまでも食器であって、どう間違ってもそれ自体が食欲の対象となる存在ではないだろ、絶対。あくまで人間目線だが。
「人間がくわえるはずのものを魚がくわえちゃいましたー。」というのもなんだか話が出来すぎている気がする。怪しい。
これは真偽を確かめるべく実験してみなければならない。

 

池にてさじ投げ開始

まず手始めに近所の池へ向かった。

いい雰囲気。

この池はヘラブナやブラックバスをはじめ、いろいろな魚が釣れることで知られ、釣り人に人気がある。例の逸話に登場するマスが生息していないのが残念であるが、実験の舞台としてはまずまずだろう。

さて、いざ実験開始である。普通、釣り人というのは釣りを始める前はどんな仕掛けで挑もうかとか、どのお気に入りのルアーを最初に投げようかとか考えをめぐらせてワクワクするものである。それが釣りの醍醐味でもあるわけだが…。

釣具箱の中身は改造して釣り針を取り付けたスプーンのみ。 (スプーンルアーの作り方はこちら

今回は選択肢無し。スプーン一択。ワクワクの余地皆無。
これは裏を返せば、悩む必要が無いということでもある。とにかく今は何も考えずにさじを投げればいい。僕がすべきは、僕に出来るのはそれだけだ。

水面に向かってさじを・・・
投げる!

スプーンをできるだけ遠くに投げ、リールを巻いて足元まで泳がせ回収する。
投げては回収、投げては回収。
何度も何度でも投げ続ける。

ここで一旦、スプーンが水中でどのように泳ぐのかを観察してみる。

おお、これは!

写真では全然伝わらないと思うがこれはすごい。
尾を振って泳ぐ小魚のように、左右にゆらゆらと揺れながら泳いでいる。
あの無機質な見た目とは裏腹に、かなり生命感あふれる動きである。
スプーンの曲面がうまい具合に水の抵抗を受けているのだろうか。
金属光沢も魚の鱗のきらめきを思わせる。

それまでは「スプーンなんかで魚が釣れるわけないだろ・・・。」という気持ちが心のどこかにあり、モチベーションが上がらなかった。しかし、この渾身の泳ぎを見て一気に「釣れるかも!」という思いが強く湧き上がり、やる気も出てきた。

が、釣れない。

やる気は出たものの、なかなか釣れてくれない。もう1時間以上もさじを投げ続けているのに。このポイントは釣り人が多く、魚を釣り上げている現場をよく目にするので、魚がいないということはないはずだ。
だとすればスプーンに問題があるのだろう。泳ぎ方やデザインがお魚様のお気に召さなかったのかもしれない。
というわけでここから8種のスプーンをローテーションしながら投げてみることに。

釣れないときって必死な形相になるよね。
が、やはり釣れない。

全く釣れる気配がない。先ほどまでの自信はどこへやら。再び戦意喪失。帰りたくなってきた。
これはいけない。ここからはこまめに釣り場を変えて気分をリフレッシュすることに。

ポイントが変われど投げるのはスプーン。
せっかくの休日に一体何をやっているのか。

6時間経過、そしてついに

さじを投げ始めてからここまで、何も食べずに6時間が経過している。もう夕方だ。釣りにかける時間など考えもせず、軽いノリで家を出たので食べ物などは持参していない。食器はあるけどね。
腹が減っては気もそぞろ。夕食は何を作ろうかなどと考え始め、釣りから意識が離れ始めた。

と、そのとき!

えっ、何か来た!!

突然竿が弓なりにしなる。本当に魚がかかってしまったのだ。
完全に集中力が途切れ、頭の中が雑念に支配されていたので、突然の出来事にパニックになる。

必死でリールを巻いていると、水しぶきを上げて暴れまわる魚影が見えてきた。

なんだこいつは。
この大きな口は…。
ブラックバスでした。

釣れてしまった。本当にスプーンで魚が釣れてしまったのだ。実際に釣り上げてもなお信じられない思いだ。

驚きと興奮で手が震える。まさかブラックバスを釣ってこんなに感動するとは思わなかった。

口の端にがっちりとティースプーンの針がかかっている。贅沢を言うならもっとしっかりくわえ込んでもらいたかった。

しかし、よくこんな金属の塊に食いついたなあと改めて感心する。さすがルアーフィッシングのターゲットとして一世を風靡しただけのことはある。ブラックバスとはやはり獰猛で食いしん坊な魚なのだ。

記念撮影。釣れてしまったことへの驚きで、若干顔が引きつっております。

なお、このブラックバスくんは記念撮影の後、めでたく私の胃袋に納まりました。

とにもかくにも実際にスプーンで魚が釣れた。となると、やはりルアーのスプーン起源説はあながち間違いではないのかもしれない。
こうなったら様々なフィールドに出かけて、徹底的にスプーンの真の実力を計り知らなければなるまい。


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