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ロマンの木曜日
 
西表島でサソリ探し

夜の生きもの

日が暮れてもなお捜索は続く。暗くなると昼間見ることができなかった生き物がどこからか現れ、目を楽しませてくれる。


南国名物ヤシガニ。地上最大の節足動物らしい。 地元の人は好んで食べるそうだ。

暗くなるとヘビがたくさん出てくる。 これはサキシママダラというヘビで毒は持たない。

こちらは正真正銘の毒ヘビ、サキシマハブ。模様が毒々しい。林道脇の側溝に落ちていた。

20センチほどもある巨大なムカデ。捕まえているのはなんとクマゼミ。さすが西表。スケールが大きい。(別ウィンドウで画像を表示

結局、深夜まで探し続けるも、残念ながらサソリを見つけることはできなかった。サソリ以外の生き物をたくさん見ることができたのでそれなりの満足感はあるが、それでもやはり第一目標を達成できなかったのは悔しい。

後ろ髪惹かれる思いで宿へ戻る。明日にはもう島を後にしなければならない。

 

サヨナラホームラン!

翌朝、宿のおばさんにサソリを探しに来たが見つけられなかった旨を伝えると、意外な返事が返ってきた。
「ああ、サソリなら家の周りでたま〜に見るけどねえ。」
えぇ!?家の周り?本に書いてあった情報と違う。

詳しく話を聞くと、やはり石やゴミ、植木鉢などの下にいることが多いらしい。また、時には家の外壁にへばりついていることもあるそうだ。目にする機会は多くないようだが、見つけても特に気にかけることもないらしい。まして意識して探すこともないようだが。

怖くないのかと訊ねたところ、「別に。ハブの方が100倍怖い。そもそもサソリに刺された人なんて聞いたこともない。」と答えてくれた。

おばさんの薦めもあり、半信半疑で宿の周辺でサソリを探すことにした。
土の上に打ち捨てられたコンクリートブロックやベニヤ板を持ち上げ、軒下や植え込みの中にも潜り込んだ。
もうめぼしいポイントは一通り調べ終わろうというとき、植木鉢が並んでいるのが目に留まった。

いかにもダメそうな雰囲気だが…。

置かれているのはコンクリートの上。しかも湿り気を全く感じさせない。はっきり言って全然期待できない。サソリどころかダンゴムシすらいないだろう。それでも物は試しと持ち上げてみると、植木鉢の底から褐色の小さな塊がポロリと落ちてきた。はじめはただの土くれだろうと思ったがよくよく見てみると…。


おや、これは。

一対の大きなハサミに特徴的な尻尾。間違いない、サソリだ。ついに見つけたのだ。よりにもよって人里で。しかも植木鉢の下で。
灯台下暗しとはこのことだ。昨日山の中を駆けずり回った苦労は一体何だったのか。
しかしおばちゃんに話を聞いて本当によかった。生き物を探すにあたっては現地の人の話を聞くことが大切だと大学の先生に教えてもらったのを思い出した。
先生、貴方のおっしゃっていたことは正しかったようです。

それにしてもこのサソリ、小さい。形こそ立派にサソリだが、大きさは指先ほどしかないのだ。


せいぜい2,3センチしかない。

小さくても立派なサソリの姿。

 


尻尾の先にはちゃんと毒針が付いている。

刺されてみよう

このサソリはヤエヤマサソリという種類で日本国内では八重山諸島や宮古島に生息している。雄と交尾することなく雌だけで繁殖するという変わった生態を持っているらしい。
また、ずいぶん小さく見えるが、これでもう立派な大人である。

ところでサソリといえば気になるのは尻尾の毒だ。事前に本で得た情報によると、このサソリの毒は餌である小さな虫を捕まえるための微弱なものであり、人間が刺されても大事には至らない場合が多いらしい。
ならばものは試し。実際に経験して初めて語れることも多いだろう。せっかくなので刺されてみようではないか。

サソリを指でつまみあげていじめてみる。


ジタバタ

サソリ「やーめーろーよー。」

逃げようとするばかりで、なかなか刺そうとしない。立派なハサミで攻撃することもない。非暴力非服従を由としているのだろうか。

刺さぬなら 刺すまで待とう ヤエヤマサソリ。その気になってくれるまで根気良く待つことにする。


サソリ「…いや、マジでやめろって…。」

しつこくいじくりまわしていると、だんだん本気で怒ってきたらしい。毒針の付いた尻尾を振り回し始めた。


サソリ「やめろって言ってんだろ!!」 ついに堪忍袋の緒が切れる。しかし残念!そこは爪だ。

今度こそ指の腹へ!が、毒針が皮膚を通らない。

…毒針が刺さらない。まさかの展開だ。軟弱極まりない。
いくら小さいとはいえサソリはサソリである。悪名高い毒虫がこんなことでいいのだろうか。サソリとしてのアイデンティティーが危ういのではないか。
これ以上恥の上塗りをさせることを考えるとなんだか気の毒になってしまったので刺されるのはあきらめることにした。

 

第二のサソリ

さらに海岸にもサソリが出るという話を聞いた。
民家に続いて今度は海か。昨日一日歩きまわった森がどんどん遠くなる。
こうなったら悔いが無いよう時間いっぱい島の隅々まで探してやろうじゃないか。
というわけで船が出るまで砂浜で過ごすことに。
砂浜では枯れ木や漂着物の下を探っていく。


砂浜に転がる大きな枯れ木を発見。

枯れ木の皮をそっと剥がすと…

はい、サソリ出ましたー。

あっさり発見。昨日の苦労はなんだったのか。
このサソリはマダラサソリという種類で日本に生息するもう一種のサソリ。ヤエヤマサソリより一回り大きく、尻尾も立派でおっかない。

しかし見つかったのはまたしても森ではなく海辺であった。とことん事前に仕入れた情報と話が違う。やはり生き物を探すには本から得た知識ばかりに頼っていてはだめだということだろうか。


「うわあー。つかまったー。にげろー。」

やはり素手で捕獲するもヤエヤマサソリと同様に逃げようとするばかりで全く攻撃してこない。
この日までずっとサソリは凶暴な生き物だと思っていたのであまりの弱虫っぷりに面食らう。
それでもしつこく弄んでいると…。


あっ。刺さ…

…ってない。反応に困る。

立派な毒針だから期待していたのに。どいつもこいつも何なのだ。つくづく軟弱である。彼らのおかげで「サソリ=危険」というイメージが吹き飛んでしまった。

ともあれ念願のサソリたちに出会うことができたのだ。僕は彼らと島に別れを告げ、満たされた気持ちでフェリーに乗り込んだ。

日本のサソリはおとなしかった

日本にも確かにサソリはいた。そして彼らは一般的なサソリのイメージから大きく離れた大変小さくおとなしい生き物であった。そんな性質もどこか日本人と共通するところがあるようで面白い。

なお、サソリに限ったことではないが、虫の毒というのは人によっては極端に強く作用し、予想外に重い症状をもたらす場合がある。なので皆さんは八重山でサソリを見かけても僕のように軽々しく刺されてみようなどとは決して思わず、慎重に観察して欲しいと思う。そうすれば彼らに攻撃を受けることなく、愛嬌のある姿を見せてくれるだろう。

いくらおとなしいからって無茶はしちゃダメ。

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