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ロマンの木曜日
 
ものすごく短い道を愛でたい
おれの心の国道1号線

ふだん何気なく通っている道。広い道も狭い道も、一直線の道も曲がりくねった道も、すべての道は繋がっていて、僕たちをどこかへと誘ってくれる。

国道○号線とか○○通りといった、有名で交通量も多く長い道もあるいっぽう、誰もその存在を気にすることのない、名もなき短い道もある。しかし、どんなに短くても道は道。メジャーな国道などと平等に愛でたい、と思った。

萩原 雅紀



国道だけが道じゃない

皆さんの家の近所にも1本くらいは通っているだろう、「国道○○号線」とか「○○通り」などといった、広くて交通量の多い道。

しかし全国に無数にある道の中で、そんな国道番号や通りの名前がつけられているのは一握りだ。つまり道の勝ち組。道ヒエラルキーのピラミッドでいえば上の方のほんの一部。甲子園や神宮のスターが集まって、しかもその中の一部しか活躍できないプロ野球選手のようだ。


道路界のスター、国道
しかも国道20号なんて日本代表のスタメンレベルだ

こちらも代表選出間違いなしの国道6号江戸通り、都道463号は代表ってほどではないが所属チームでは間違いなく主力の一角
どこに出しても恥ずかしくない交通量を誇る

これらの道はもちろん重要だし、交通量も非常に多い。この道がなくなると困る、という人も多いだろう。車でどこかへ出かけるときは、たいていこういう有名な道をルートの基準として考えると思う。

しかし、太くて長いだけが道ではない。たとえばこんな道だって、利用する人にとっての重要度は一緒のはずである。


名もなきものすごく短い道

一緒のはずである、と言ったって共感が得られないのは理解できる。この道と国道を比べようなんて、陸上部やサッカー部からもメンバーを集めてようやく9人揃えた弱小高校がジャイアンツに挑んでいるようなものだ。

ぜんぜんたとえが上手くない気がするけど、何となくフィーリングが伝わっていたら嬉しい。

でもこういう、ものすごく細くて短い道もいずれ太い道と繋がって、日本中に張りめぐらされた道路網の一部を支えているのだ、なんて考えたらなんだか急に、たまらなく愛おしくなってしまった。

そういう目線で見ると、冒頭のこの道なんかもう一瞬で恋に落ちるレベルである。


ああ、後ろからそっと抱き締めてあげたい...!

かすれた「とまれ」のペイント、右側に残る工事痕、右折が許されない奥のT字路。どれもこの道の立場の弱さを物語っている。でも、奥のほうに車の鼻先が2台分見える、ということはあの車たちの発進も担っているわけで、臆することなく堂々とした道であってほしい。あの車たちにとっては国道1号なのだ。


反対から見たら2台どころではなかった、大丈夫だよ、君は十分役に立ってる!

役に立ってる!なんてわざわざ厚かましく僕に言われなくても、本人も十分わかってるとは思う。


こんな道どこにでもあるだろう

ところでこんな感じのものすごく短い道、いくらでもあるありふれた存在だと思う人も多いだろう。しかし、実は探してみるとありそうでそれほどない。

かと言って滅多にない、というほどでもないので珍しくもないけど。

たとえば下の写真の道、これも一見すると愛すべき短い道のように見える。


いま写真を撮っている場所が反対側のT字路という短さ

しかし、奥の太い道との交差点のさらに向こうを見ると、同じ幅の道がさらに続いている!この道と直交する道、どちらが早くできたか分からないけど、もともとあったこの「そこそこ短い道」を後からできた広い道が途中で分断した可能性もあるのだ。


実は「ものすごく」ではなく「そこそこ」短い道だった

だからと言って愛でない理由はないけど、今回の記事では「両端がT字路のものすごく短い道」に焦点を当てたいと思う。

似たような写真が続くけど、この道も今回採集した中ではかなりレベル高い「ものすごく短い道」だと思う。


これぞ「美しすぎるものすごく短い道」

やや幅は広いけど、短さは申し分のないレベル。というか、これ以上短かったら道でなくなる気がする。

舗装はこの道独自になされていて、白線もくっきり、かすれもない。非常に美しい、かつ、ものすごく短い道と言えるだろう。


奇麗な白線はこの丁寧な仕事から生まれる
強いて言えばこの「肉汁うどん」が少し悲しい

 

太さの割にものすごく短い道

意味分からないし、似たような道の写真ばかりだし、もうすっかり飽ききってしまっていると思うので、次は少し変わり種の短い道をご紹介したい。そこそこ太い道なんだけど「太さと比較したらものすごく短い」のだ。


こう見るとふつうの「そこそこの幅の道のT字路」だけど
こんな太さの道が100m足らずで終わってしまう

片側1車線、交差点では右折レーンができるような道が、全長100mほどしかないのだ。100m道路って名古屋や広島にもあるけど、向こうが幅なのに対しこちらは全長である。しかも両端は工事中とかではなくて、とりあえずこれで完成状態。

この道はいろいろ掻き立てられるものがある。実力はあるのになぜか代打でしか使われない選手のようだ。君の実力は僕がよく知っているよ!なんて言ってテンションを上げてあげたい。上がったところでこのままだけどさ。


最強に細くて短い道

最後に、偶然発見した、いままでとはレベルが一段階も二段階も違う「ものすごく短い道」をご紹介したい。

その道は、先日ふつうに観光で浅草に行ったときに見つけてしまった。


ある意味これも超有名な道と言える仲見世通り
関係ないけど仲見世の裏側がすごかった

せっかく浅草に来たし、何かうまいものでも食べようとウロウロしていたら、いつの間にか人通りの多い道から細い裏路地に入り込んでいた。そして、とつぜん目の前にこんな道が出現したのだ。


いまのところベストオブものすごく短い道

これはすごい。まず下町っぽい混沌と、それから細さに目が行ってしまうと思うけど、短さも特筆すべきもの。たぶん10mもないのではないか。

でも、たとえばこの道をスタートしても、いくつか角を曲がれば国道1号線とかに繋がって、そこから日本中どこにでも行けるのだ、と思うとちょっと震えてくる。

うろたえながら写真を撮ってこの道を抜けると、その先にも同じくらいの道があった。


お姉さんの出店はこの道を通行する人は相手にしていないようだ

こちらは人通りの多い道に面してるぶん、かなり見た目キレイに保たれている。しかしそれでもものすごい短さには変わりない。

短い中にも自動販売機や飲食店が並び、効率の良い道路づくりを実践している。単位長さあたりの売り上げで言ったら「ものすごく短い道」界ではそうとう上位に食い込むのではないか。

でもそれがどうした。

ここまで写真を撮ってきて、ものすごく短い道路にすごくシンパシーを覚えているけど、なぜ僕がそんなに短い道路寄りなのかは未だによく分からない。でもこれからも集めようと思う。

どこに続いているのか

国道もものすごく短い道も、同じように道である。だから同じように愛でよう、と思って始めた今回の試みだったけど、追っていくうちどんどん短い道のほうに肩入れしてしまった。無理矢理野球とかに例えたりしたけど少しは引っかかってもらえただろうか。

単にものすごく短い道だけど、それがいずれ大きな道に繋がって、さらにどこか知らない場所のものすごく短い道に繋がっているのだ、なんて考えたらわくわくも倍増である。

あと本文で「名もなき」と書いたけど、たぶん市町村レベルではきっと決まった名前があると思う。いずれはそういうのも知りたい。

ものすごく短い道では猫も安心して熟睡

 
 

 

 
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