デイリーポータルZロゴ
検索天気地図路線このサイトについてランダム表示ランダム表示
アット・ニフティロゴ


ひらめきの月曜日
 
メニューが一つしかない店めぐり
 

飲食店で注文する品を決めるのに、かなり時間がかかることがある。気になるメニューがたくさんあって、どれにしようか迷ってしまうのだ。

しかし、中にはそんな迷いを断ち切ってくれる店がある。メニューが一つだけしかない店だ。

ひどい場合はメニューの迷いすぎで疲れてしまうこともある私にとって、選択の余地のなさは時に心地よくもある。一品のみで勝負するだけあって、個性的な店でもあるだろう。

提供する側の気合いも感じる、単一メニューの店。そんな店をいくつか訪ねてみた。

小野法師丸



選択肢がないという開放感

迷いを与える隙のない、メニューが一つしかない店めぐり。牛丼のチェーン店でも結構な種類のメニューを提供する中、店に入ったら自動的にそのメニューになるというシステムは逆に新鮮に映る。

まず最初に訪れたのは、千葉県君津市にある「そば処 食楽膳」という店だ。


入りたくなるそば屋様式

旅先の山あいで車やバスに乗っていると、どんな地方に行っても必ずと言っていいほど、なんだか気になるそば屋というのが目に入る。房総半島のほぼ真ん中にあるこの店の雰囲気も、まさにそんな感じだ。

気になる右側の看板には、よく見ると「湯が わ」とある。板に書いてあるので、「湯が沸いた(=営業中)」という意味なのだろう。中に入ってみよう。


こだわり系そば屋っぽさ漂う玄関
出ました一品宣言

田舎の一軒家という感じの建物の玄関はかなり広々としている。そして早速、「一品メニューのみです」との宣言が。不意に訪れてこの表示を見ると面食らう人もいるだろうが、今回期待しているのはこれだ。はっきり言ってくれているわかりやすさがうれしい。

出迎えてくれた店主さんも、「では用意始めますね」と、当然のようにメニューを聞いてこない。このオートマチックな感じがいい。


でかい人んち感漂う店内

人んちっぽさがくつろいだ気持ちにさせてくれる店内でしばらく待つと、やってきたのは「食楽膳(1200円)」。十割の田舎そばと、時節ごとの更級変わりそばの二色盛りだ。


この店唯一のメニュー

今回の変わりそばは梅の麺。そば自体に程よく梅が香っておいしい。食べてみて初めて気づいたのだが、上に乗っている梅干しはカリカリとフニャフニャと食感の異なるタイプだった。


手書きの食べ方指南が味わい深い
確かによく噛みたくなる太さ

もう一つは結構な太さの田舎そば。テーブルには「よく噛んで味を楽しんで」と、店主からの指南書が。よく見ると、25回と回数まで書いてある。

どんな食べ物もついグイグイと食べ進めてしまいがちな私だが、ここは助言に従ってじっくり食べてみよう。


素直に実践中
黄色いの、タクアンかと思ったらサプライズ

…おお、噛むことによってそばの風味と甘みがじわっと前に出てくる。食にせっかち気味の私は10回くらいで飲み込んでしまいそうになるが、そこをこらえて25回まで噛むと、それによって初めて出てくる味がある。これは発見だ。

そして、そばの合間に箸に取ったタクアンを食べてまた驚く。これ、タクアンではなくて大根のカレー風味漬けなのだ。意外性だけでなく、ちゃんとおいしい。

お代を払って帰るときには優しく話しかけてくれた店主さん。いろいろと仕掛けと趣向を楽しませてもらいました。

 

活気のある商店街に来るとそれだけでうれしくなる

続いてやってきたのは、阿佐ヶ谷の商店街。昔ながらの商店街というと大型店に押されて活気をなくしているところもあるようだが、ここはとても元気。人通りも多く、にぎわっている。


シンプルゆえに目を引く外観
店のコンセプトもシンプル

そんな中にあるのが「ミート屋」というお店だ。そのまま訳すと「肉屋」ということになるが、そういうわけではない。看板には「ミートソースパスタ専門店」とある。

パスタの専門店ということなら全く珍しくないが、ここはミートソースのパスタのみを扱うお店。そこまで特化しているというのは聞いた ことがない。


六文字並んだ漢字も力強い
外から見える大鍋がまたおいしそう

トッピングメニューこそ少々あれど、提供するメニューはミートパスタのみ。ラーメン屋だって多少のバリエーションや餃子があったりするが、ここはずいぶん潔い。

人気のお店のようで、ランチタイムを外した時間であっても列ができていた。窓から見えるミートソースの大鍋を眺めながらしばらく待つ。


腹が減っている

数分待って入店。空腹が過ぎて目つきがおかしい。店の人が薦めてくれた紙エプロンがさらにそのおかしさに拍車をかける。

個人的には食いしん坊みたいでちょっと恥ずかしい気もする紙エプロンも、この店ではほとんどの人がしているので大丈夫。私も白いシャツだったのでこれは助かる。

しばらくしてやってきたのがこれだ。


シンプルながら存在感あり

麺もソースもツヤツヤしている。見た目としては奇をてらうこともなく、ザ・ミートソースパスタ。

香りも店いっぱいに満ちていて、早速食べたいところなのだが、カウンターには食べ方指南が書いてあるのでまずはそれを確認してみよう。


そこまで言われると混ぜざるを得ない提案
混ぜやすいようにするためか、ラーメンのような器で提供

おいしい食べ方は写真と解説入りで1から6までの手順が載っているのだが、そのうちの2・3・4で言っているのが「まぜる」ということ。「全体をまぜる」、「最低10回まぜる」、「とにかくまぜる」と、だんだん「いいからまぜるんだ!」というテンションが上がっていく。

確かにミートソースのパスタは、食べる前に混ぜる人と混ぜない人がいると思う。私はどちらかと言うと後者なのだが、そこまで言うなら混ぜようと思う。


ビジュアルのおいしさは正直ダウン
でもこれがうまいんだ

食べ方指南にも「ちょっと行儀悪い感じだけど」とあるように、くねくねと混ぜ続けると、見た目からは当初のツヤツヤが失われてインパクトは落ちる。しかし食べてみると、とてもおいしい。 トマト系というよりも、デミグラスっぽい味付けのソースがかなり濃厚。麺全体に絡むことによって、ちょうどよい味となって料理として完成するように思える。 生パスタの麺の触感を表す言葉を考えながら食べ進める。ツルツルだけでは言葉足らず、ニュルニュルだと小気味よさがうまく表現できない。生きてるような動きが楽しめる麺だった。

駅前はとてもにぎやか
でもすぐ細い路地になる

最後に紹介するのは中野にあるお店。駅からすぐのところにアーケードを備えた立派な商店街があるが、その脇の細い路地を少し進んでいったところにある。


いかにも飲み屋的なたたずまいだが…

「めし処 のれん」というお店。飲み屋っぽい雰囲気や名前の店なのだが、営業時間は11:30〜16:00までというライチタイム特化仕様。

看板にはメニューが書いてある。それがこの店が提供する唯一の定食なのだ。


さばみそ煮定食一本で勝負
写真の色飛び具合に月日を感じる

お店のおすすめメニューが大きく店頭に表示されている様子はしばしば見かけることがあるが、この店はそうではない。でっかく書いてある「さばみそ煮定食」だけしかメニューがないのだ。

鯖の味噌煮。定食の定番の一つだとは思うが、誰にでも幅広く受け入れられるメニューというわけではないとも思う。


満席が高める期待感
思っていた以上の狭小感がうれしい

それでも来訪時は満席で、しばらく待っての入店となった。と言ってもこの店、カウンターのみの店で席数は5つ。かなりこぢんまりした店なのだ。

席数だけでなく、物理的なスペースとしてもこぢんまりを超えた狭さ。椅子のすぐ後ろはもうぎりぎりで壁がある。この凝縮感に身を置くのが楽しくもある。

単一メニューの店ゆえ、注文の確認はなくオートマチック。カウンターの向こうで忙しく動きまわるおかみさんが「今出すからねー」と、お盆の上に一品ずつ並べて揃えてくれた。


実家っぽさがにじみ出る定食

なぜだか既視感を感じるような定食。少し考えてそれは、実家に帰ってきたように感じるからかと思い当たった。

実のところ、実家の母は別に鯖の味噌煮をしばしば作ったというわけではない。そういう献立そのものではなく、並んだ雰囲気全体がそう感じさせるのだと思う。「実家っぽい」という最大公約数的な概念があふれているように感じる。

さらにおかみさんが「ご飯、ゆるめに盛っておいたからおかわりしてね〜」と声をかけてさらに実家感が加速。さて、食べてみよう。


骨までいけます
何がどうなってるかわかんないけどうまい

「やわらかく煮てあるので骨まで食べられます」と店内に書いてあったメインの鯖の味噌煮は、甘すぎずしょっぱすぎずでちょうどよいバランス。中まで味が染み込んでいてうまい。

そして、宮城県産と書いてあったご飯がとてもおいしく、鯖と合わせてぐいぐい進んでしまう。勧められた通りにおかわりすると、「はいよー」とこれまた実家っぽい。

味噌汁はシジミ。煮物はいくつかの葉物野菜を煮込んだもので、よくわからないままにうまい。大手定食チェーンのわかりやすいおいしさとは違う味わいがある。


カットはちょっとしゃれてる

食べ終わる頃を見計らってメロンを一切れ出してくれた。よく見ると、皿が刺身用の醤油皿にも見える。最初から最後まで実家性が貫かれていて実にうれしい。

ちょうちんでもさば味噌推し

「店のイチオシメニュー」という言い回しがあるが、メニューが一つしかない店は、実際にイチオシメニューだけで勝負していることになる。提供しているものに、お店の思いが凝縮されているとも言える。どの店にもそういうものを感じて、おいしさ以上に満たされるものがあった。

メニュー選びについて優柔不断な私が迷わずに済むのは、お店側に迷いがないからとも言えるのだと思う。ごちそうさまでした。


 
 

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
アット・ニフティトップページへアット・ニフティ会員に登録 個人情報保護ポリシー
©2012 NIFTY Corporation