特集 2016年5月28日

沖縄の農産物直売所にはレコードや古着も売っていた

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沖縄本島の北部に位置する金武(きん)町には、通称「いしじゃゆんたく市場」というバラックのような農産物直売所がある。なんとこの市場は模合で出た話が発端でできた市場らしいのだ。

ちなみに模合(もあい)とは、複数人が定期的に集まって一定額のお金を集め、毎回代わる代わる親を決めて親が集まったお金をもらうという集まりのこと。同様の仕組みが頼母子講、無尽講などと呼ばれて日本各地にあるが、沖縄の模合は浸透率が半端ないのが特徴である。

沖縄本島北部の金武町へは高速を使うと那覇からちょうど1時間ぐらい。金武インターを下りて北向けに走るとすぐに「ゆんたく市場」の看板が見えてくる。
大阪出身。沖縄に流れ着いて10年ぐらい。「ぱちめかす」という沖縄方言が、やることと響きのギャップがあって好き。

前の記事:戦後の風景を残す農連市場で一日店長


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看板には農産物や掘り出し物があると書かれている。

国道から1本中に入った旧国道沿いにバラック造りの建物があり、それが通称「いしじゃゆんたく市場」である。いしじゃは地名で、ゆんたくは沖縄方言でおしゃべりという意味だ。
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農産物からレコードまでいろいろ並ぶ市場

昔ながらの懐かしい風景だが、なにせバラック造り。ローカル感が溢れまくっていて、一見さんがふらりと入ってしまってもいいのか迷う雰囲気である。

しかし、一度足を踏み入れたら、運営している人の想いを知ったら、この市場のファンになること間違いなしなのだ!
まずはどんなものが売られているのか見てみましょう。
市場の手前には農産物
市場の手前には農産物
金特産品の田芋の茎であるムジも100円
金武町の特産品である田芋の茎、ムジは100円
大根が安いけど、こんなにはいらない
大根が安いけど、こんなにはいらない
古本もある
市場の奥の方には恵比寿さまから古本まで
レコードもある。
レコードもある。
ポールマッカートニーとマイケルジャクソンの足がめっちゃ長い。
ポールマッカートニーとマイケルジャクソンの足がめっちゃ長い。
落ちない口紅各種と衣類
落ちない口紅各種と衣類
兜とアンガマー
本土式の兜と、
石垣島で旧盆に現れるアンガマーの面
とりとめもなくいろんなものが売られているのだ。

模合が盛り上がって市場を開設することになったらしい

建物といい種種雑多な品揃えといい、戦後から続く市場のように見えて、この市場は実は平成7年に開設して、今年で21年目の市場だそう。

そもそもどんな理由からここに市場ができたのか、市場を運営する「村おこしゆんたく会」のみなさんに話を伺った。
村おこしゆんたく会の会長 前田満男さん(以下:会長)
村おこしゆんたく会の会長 前田満男さん(以下:会長)
ゆんたく会の瑞慶山良實さん(以下:瑞慶山さん)
ゆんたく会の瑞慶山良實さん(以下:瑞慶山さん)
――市場を立ち上げたきっかけを教えてもらえますか?
瑞慶山さん:市場は21年前に開設したんだけど、その前の話があって。最初は定年退職した方々が模合をはじめると聞いて、僕は当時40代だったんだけど僕も誘われて。模合の人はもともと学校の校長先生だった人や、役場のOB、議員さんなんかがいたんですが。あ、校長先生だったのは隣の会長ですよ(笑)
会長:その模合の席で、金武町の零細農家が野菜を売る場所がなくて困っていたから、それをなんとかしようと。話が盛り上がったから、すぐやろうということになって。他府県でいろいろな朝市や日曜市があるのを実際見てたから。農家に声をかけてね。
でも準備期間が必要でしょ。どこの場所にするかとか、お金も集めないといけないさ。だから1ヶ月は待たせたわけ。
――え、模合の話から1ヶ月で市場ができたんですか?
会長:そうだよ!(笑)もともとは前の道路が高くて、この場所は低い土地だったから、相当土もいれて。土100台いれたんだよ。みんなで力を合わせて。ボランティアさ。
瑞慶山さん:僕は最初びっくりしましたよ。本当にこんなことができるのかな、と。でもこの先輩方の意欲はすごかったですよ。
国や県に何の相談も申請もなしで勝手にやったことも多かったから(内容は書けないです)、国道事務所に怒らることもしょっちゅうありました。ああー、これは差止めされるぞ!と僕は側で見てヒヤヒヤしっぱなしでした。
でも先輩たちの「農家を助けよう」という意志は強く、押せ押せでやって。すごいですよ。今はもうちゃんと解決してますよ(笑)ある意味制度が後からついてきたという感じです。
会長:最初は1ヶ月でつぶれる、2ヶ月やったらもうすぐつぶれると言われましたけどね。
旧国道。建物のところはガクンと低い土地だったそう
旧国道。建物のところはガクンと低い土地だったそう
――市場に集まったのはどんな人だったんですか?
会長:どこの家庭でも家庭菜園をやっているから、それを売って生活の足しにしてもらいたいという思いで。
だからスペースはテーブルに置けるぐらいで。金武町民なら月1500円、他は3000円。それで商品を出そうと思えば毎日出せるから。
瑞慶山さん:80歳代のおばあちゃんがいるんだけど、石川市から来ている方で。聞いたら20年前から市場にお店をやっていたんだって。僕は最近それを知ったんだけど。そのおばあちゃんによると、市場がない前は生活が苦しかったけど、そういうときに金武の市場があると聞いて野菜を持ってくるようになって。市場と関わるようになって生活がすごく良くなったって。助かったって。そうおっしゃっていましたよ。
会長:この市場は農連市場など他の市場の平均よりも下回るようにして売る努力をしようというのが、最初から農家さんとの合意事項なんです。だから生産者だけじゃなく、消費者もだいぶ助けられていると思いますよ。金武町には水があるし、特産物(田芋や米)があるから。そのPRにもなっていると思います。
瑞慶山さん:最初は零細農家さん中心だったけど、今は雑貨などのお店も多いですよ。前はアメリカ人の奥さんが市場の中央でケーキを売っていたりもしました。
――お客さんはどんな人が多いんですか?
会長:観光バスで大勢で来る人もいるし。市場は毎日やっているけど、土日だけ開くお店もあるので週末が多い。地元のお年寄りも来るよ。朝からずっといてゆんたくしている人もいる。家でじっとしているよりここの方がいいさね。
瑞慶山さん:立ち上げ当初は糸満から毎週通っていたという人もいますよ。道の駅もまだ名護にしかない時代だったから。JAのファーマーズもなくて。生産者から直接安くて新鮮な農産物を買えるということで物珍しさから沖縄中から人が来ましたよ。最初のうち週末は1日に2000人来たこともあったそうですよ。
ああー、市場の1周年祭のDVDをあなたに見せたいな。あとでDVD取ってくるから待ってて!いろんな議員さんも応援に来て、感動してもらって。
あとでいただいた1周年のDVD。すごい人!
あとでいただいた1周年のDVD。すごい人!
瑞慶山さんもお若いです
瑞慶山さんもお若いです
会長:5年も過ぎたら沖縄中に知れ渡って、いろんな市町村から視察団が来たよ。いまはJAの直売所が各地にできたから、お客さんは減ってしまいましたが。
――それでもここはたくさんの人が来てると思うのですが、その理由はなんでしょうか?
会長:やはり立地条件じゃないかな。高速道路を降りてすぐだから。金武ならではの田芋が12月から出てくるから旧正月あたりまで、田芋を買いに来る人も多いですよ。あとは道沿いというのも大きいですよね。お客さんの中には車を横付けして買い物する人もいるよ。3名いる。足が悪いことをみんなわかっているから協力するわけ。
――市場のドライブスルーですね!(笑)
会長:売ったり買ったり荷物を降ろしたり、周りの人がお互い協力しながら助けてやっているよ。
――以前は、道路沿いの看板は前はなかったですよね?
瑞慶山さん:この市場は国からの補助金も最初から一切なしで自力でやっているんです。先輩方が絶対に補助金はもらわないって。そういう方針。会員さんの会費だけで運営しているので、少し溜まったお金で雨漏りの場所を修繕したりとか。だから看板はようやく出せたんです(笑)
最初のテントは借金して買ったのに台風で飛ばされたりもして、大変なときもありましたよ。
写真のテントが飛ばされたそうです
写真のテントが飛ばされたそうです
――今後、この市場はどんな風になっていくと思いますか?
会長:農家さんを助けるというのは変わりがない。でもだんだん高齢になってきているから、若返りが課題だね。それはどこの市町村でもそうだと思う。あとはもっと品揃えが充実してもいいね。野菜と雑貨はあるから。あとはキムチと鮮魚と精肉が揃えばこの市場は全部そろうね!
――キムチ(笑)
ありがとうございました。

ゆんたく市場でゆんたくを

話を伺っているうちに、バラック建ての市場が、だんだん素敵なところに見えてきた。 そして一見入りにくそうな市場だが、お店の人は基本こちらから話しかけない限りガンガン話しかけてくることはないので人見知りでも安心である。
しかし一度話しかけると、ほとんどの人が笑顔であれやこれやとゆんたくしてくれるのも沖縄らしくていい。

時期によって売られるものも違い、金武特産の田芋や米などから、マンゴーなども安く買える場合があるそうだ。 沖縄を訪れる際はこんなローカルな市場に足を踏み入れてみるのもおすすめである。
農産物を売る上原さん
農産物を売る上原さん
洋服をオーダーメイドする大竹さん
洋服をオーダーメイドする大竹さん

いしじゃゆんたく市場

住所:沖縄県国頭郡金武町金武8233-5
駐車場:あり
営業時間:10時~18時、土・日は7時~
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