特集 2016年7月26日

新兵器「撃てるメガネ」

メガネを発射して的を倒した瞬間
メガネを発射して的を倒した瞬間
マンガの表現で「目玉が飛び出る」というものがある。

裸眼の人は目玉が飛び出ても大丈夫だろうけど、メガネの人はどうだろうか。メガネの中で目が飛び出してしまうと、眼球にダメージを追ってしまうのではないか。

そんな心配から始まって紆余曲折。メガネを発射することにしました。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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6月の末に「頭の悪いメカ発表会」というイベントがあって、登壇者はひとり1個、電子工作ネタの新作を作っていく必要があった。何を作るか考えた結果、以前から気になっていたこの問題にメスを入れることにした。

メガネと飛び出す目玉問題

こちらは通常の、目玉が飛び出ている人の図である。
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(イラスト:ヨシダプロ
僕は眼科医ではないので確かなことは言えないものの、このあとちゃんと目玉が戻ってくれるのであれば差し支えない現象であるように思う。

いっぽうで、こちらはメガネをかけた人の目玉が飛び出ている図である。
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やばい。目が完全にレンズに食い込んでいる。おそらく眼球に大量のレンズの破片が飛び散っていると思われ、失明待ったなしの状況だ。

対策としては、目玉が飛び出そうになった時、とっさにこうする、という手がある。
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ムッを力を入れて軌道を曲げ、メガネを迂回するように飛び出す方法だ。ただ、「驚いて目玉が飛び出る」という反射的な場面で、危険回避をとっさの判断に頼るのはハイリスクである。


そこで、僕が考えたのがこれだ。
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目玉が飛び出る代わりに、メガネが飛び出るのである。
これなら眼球を危険にさらすことなく驚きを表現できるし、なんならこの後さらに目玉を飛び出させる、「二段階とびだし」で驚くこともできる。

日本の漫画界および眼科界に一石を投じる、革命的な発想だと思う。

飛び出すメガネを作る

よーし、漫画界に一石を投じるぞー!と思ったものの、あいにく僕は絵がめちゃくちゃに下手なのだった。
上のイラストはすべてライターのヨシダプロにお願いして書いてもらったものである。
頼むときに渡したラフがこちらだ。
恥ずかしいので小さく載せます
恥ずかしいので小さく載せます
ヨシダプロ、よくこれでわかったな、と思う。

僕は絵を描くよりどちらかというと雑な工作を得意としているので、今回もマンガの表現としてメガネを飛ばすのではなく、現実のメガネに実装する方向で記事にさせていただきたい。

(ちょっと言ってることがよくわからなくなってきたと思いますが、端的に言うと「おもしろそうだから飛び出すメガネを作ります」です。)
老眼鏡のレンズを外し
老眼鏡のレンズを外し
レンズフレームとツル(耳かけ)部分を分離
レンズフレームとツル(耳かけ)部分を分離
ツルの方に軸を作って
ツルの方に軸を作って
フレーム側に軸受けを作り、バネを挟んで接続。このバネの力で飛び出させる。
フレーム側に軸受けを作り、バネを挟んで接続。このバネの力で飛び出させる。
任意のタイミングで飛び出させるため、ストッパーもつける
任意のタイミングで飛び出させるため、ストッパーもつける
ここまでの仕組み。メガネは左右のツルと正面のフレームの3つのパーツに分かれている。レンズ左右の針金(図の水色の線)がストッパー(かんぬき)になっていて、抜くとバネの力で飛び出す。
ここまでの仕組み。メガネは左右のツルと正面のフレームの3つのパーツに分かれていて、バネでを挟んでつながっている。レンズ左右の針金(図の水色の線)がストッパー(かんぬき)になっていて、抜くとバネの力で飛び出す。
……と、あたかもできているような説明を書いてみたが、実際試してみるとこんな具合である。
飛び出すというより落ちるメガネ
飛び出すというより落ちるメガネ
どうも左右のストッパーが外れるタイミングに差があるために、(1)片方のストッパーが外れる→(2)もう片方のストッパーがかかっているので飛ばない→(3)下に落ちる、ということになっているみたいだ。そこで。
左のバネとストッパーを外し、右のバネだけで飛ばすようにしたバージョン
左のバネとストッパーを外し、右のバネだけで飛ばすようにしたバージョン
片側にしか動力源がないのでまっすぐは飛ばないが、その代わりきれいな放物線を描いてくれるようになった!

フリーハンドで飛ばす

とはいえこの段階では、飛ばしたい時に手でストッパーを引っ張る必要がある。驚いた瞬間に目玉がビヨーンと飛び出る、あの反射的な動きにはまだ追い付けていない。
そこでフリーハンド化するために、ストッパーを電動で動かすことにした。
メガネの脇にモーターを固定、これでストッパーを引っ張る
メガネの脇にモーターを固定、これでストッパーを引っ張る
こう
こう
発射!!!
発射!!!
あとは、発射の反動でツルの方が吹っ飛んでしまうと推進力が失われるので…、
しっかり固定できるように耳かけにホルダーをつけ、さらに正面側に針金で予備フレームを作った。
しっかり固定できるように耳かけにホルダーをつけ、さらに正面側に針金で予備フレームを作った。
かけ心地も自然!(このサイズの部品がついているのは電子工作業界では「自然」の許容範囲内とされています)
かけ心地も自然!(このサイズの部品がついているのは電子工作業界では「自然」の許容範囲内とされています)
では、実際にメガネが飛び出しているところをご覧いただこう。
思ったよりダイナミックに飛んでいくメガネ
思ったよりダイナミックに飛んでいくメガネ
これ、やってみると、当初のコンセプトである「飛び出す」というより、「撃ってる」という感覚に近い。
ここでようやく記事タイトルの回収である。コンセプトを変更し、このメガネを「撃てるメガネ」と命名した。
一人称視点で発射するとこう
一人称視点で発射するとこう(後ろから飛んできてるように見えるのは、胸のところでカメラ構えてるためです)
FPS(一人称視点でプレイするガンシューティングゲーム)みたいだ。この場合、ガンシューティングならぬメガネシューティング。この視点で見ても、けっこうな勢いで飛び出していることがわかる。

ちなみに、サクッと作ったように書いているが、完成までに1週間かかった。次のページでは実際に的を撃ってみます。
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メガネシューティング実践

「撃てる」となると、いろんなものを撃ってみたくなる。
冒頭で触れたイベントの共演者たちと一緒に、外に持ち出していろんな的を撃ってみたのが、こちらの映像である。
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スコープこそついていないが、視野に対して発射角度が固定されているので、思った以上に的を狙いやすい。振り向きざまとか、走りながらでも全然命中できてしまう。単に弾がでかいから当たりやすいというのもあるけど……。

というわけで当初のコンセプトからはちょっとずれたものの、「撃てるメガネ」ということで作品は完成した。あー楽しかった!ということで普段ならここで記事を終えるところであるが、今回はもう少しだけ続きがあるのだ。

ものすごいシンクロニシティ

冒頭でも説明したとおり、これは新作として翌週のイベントで発表するつもりであった。しかしその前に、事件は起きたのだ。

イベント前日。朝起きると、共演者のグループチャットに、一通のメッセージが来ていた。
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共演者の爲房さんが何かを見つけた様子で、このとき僕は「ハハァン、さては爲房さん、誰かとネタがかぶったな…」と気の毒に思っていた。
しかし添付のリンクを開いてみると、目の前に、目を覆わんばかりの光景が現れたのだ。
『ガントバス - メガネを飛ばすためのマシン』( http://maywadenki.2ngen.jp/</a>よりキャプチャ)
『ガントバス - メガネを飛ばすためのマシン』( http://maywadenki.2ngen.jp/よりキャプチャ)
『「メガネを飛ばすマシン」に決定』(同上)
『「メガネを飛ばすマシン」に決定』(同上)
かぶったの、俺じゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

しかもよくよく読んでみると、作品は現在制作中であり、僕たちのイベントと同日、6/25に大阪のイベントで初公開の予定らしい。ネタのみならず発表日までかぶる。まさに奇跡のシンクロニシティ(悪い意味で)が起きたのであった……。

そのまま発表した

イベント前日に気づいたところで代わりの作品を作る時間もなく、結局イベントにはこの撃てるメガネをそのまま持っていった。経過を追っていると、ガントバスは当日の朝になっても完成していなかったようだ。イベント1か月前からコツコツ作っていた僕としては、対抗心を抑えきれず、「一歩リード!!!!」というような気持ちでいた。

イベントは大盛り上がりで、出演側としてもとても楽しかった。もちろん僕の撃てるメガネも好評だった。
実演の様子
実演の様子
「ネタがかぶりました」で一笑い取っているところ。あさましい!
「ネタがかぶりました」で一笑い取っているところ。あさましい!

イベントを終えて家に帰って、寝る前にYoutubeで検索してみると、早くもガントバスの発表の様子がアップされていた。あちらはメガネが顔面からまっすぐにスパン!と飛び、しかもメガネの先端がダンボールに突き刺さるほどのパワーであった。

やっぱり本業の人はすごいな、とただ素朴に感心して、その日は安らかな気持ちで寝た。さっきまで対抗心を燃やしていたのに、イベントが楽しかったことで僕の心も清められたのかもしれない……。
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