特集 2016年4月26日

当たりじゃないけどもう一本!

はずれなんて関係ない。もう一本買ってしまえ!
はずれなんて関係ない。もう一本買ってしまえ!
お菓子のには当たりつきのものがある。

「当たりが出たらもう一本!」なんと素晴らしいフレーズだろう。欲しかったものがさらに一つタダで手に入るのだ。

今まで当たりをひいた経験はない。いつかひいてみたいと思いながら当たらないまま大人になり、いつしか駄菓子を食べる機会も減ってしまった。

しかしもう一本食べるのに、必ずしも当たりをひく必要はないのではないだろうか。今はもう大人なのだ。数百円のお菓子ならいつでも買える。あとは気持ちの問題……そうだ、もう一本、買ってしまおう。
1991年北海道生まれ。埼玉在住。20歳まで海鮮が苦手だったので、
北海道で寿司を食べた経験がほとんどない。もったいないとよく言われるが、自分でもそう思う。

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はじめての「もう一本」に戸惑う

当たりつきと聞いて思い浮かべるものはいくつかあるが、自動販売機もその一つだろう。自動音声が妙にフランクに話しかけてきて、商品を買うとピピピと音が鳴り数字が揃うともう一本タダでもらえる。
都合よく見つかるか不安だったけど、自宅から一分のところにあった。
都合よく見つかるか不安だったけど、自宅から一分のところにあった。
三つまでは必ず揃うので毎回期待させられる。
三つまでは必ず揃うので毎回期待させられる。
部活終わりにスポーツドリンクを買ったら当たってしまい、ちょうど近くにいた後輩女子に「好きなの選べよ」なんてことをやってみたかったが、当たりをひいたこともないし、そもそも高校時代は運動部でもなかった。
世界一のバリスタに挟まれたコーヒー。
世界一のバリスタに挟まれたコーヒー。
なんとなく目についた新製品のコーヒーを選んで購入する。松山ケンイチが広告をやっているものだ。取り出し口からコーヒーを取り出すと同時にピピピと音が鳴り、ルーレットが始まる。「当たったらどうしよう」と不安がよぎったが、無事にはずれてくれた。
お金を入れて、もう一本買う。
お金を入れて、もう一本買う。
ここからあとは気持ちとの戦いだ。はずれたのだけど、そんなのは関係ない。当たったことにしてもう一本買ってしまえ。
「もう一本!」の気持ちをどうつくっていいか分からず、とりあえずピースをしてみる。
「もう一本!」の気持ちをどうつくっていいか分からず、とりあえずピースをしてみる。
飲みかけのコーヒーを手に持ちながら自動販売機にコインを投入する。なんだろう、このやってはいけないことをやってしまっている感覚は。「だってまだ飲み終わってないのに……」などという心の声は今日だけ無視しよう。当たりなのだ。もう一本飲めるのだ。
当たりがでたことを想像したら「うっしっし」とでも言っているような表情になった。
当たりがでたことを想像したら「うっしっし」とでも言っているような表情になった。
コーヒーとはなるべく似ていないものということで、フルーツジュースを購入し、せっかくなのでコーヒーと両手に持って交互に飲んでみる。マンガの食いしん坊のような図だ。しかしこれ、ちょっと贅沢すぎやしませんか。

当たりをひいた強運のものだけの特権が、自分の手の中にある。これはただのコーヒーじゃない。勝者の味である。
しかしなんだろうこの間抜けさは……。
しかしなんだろうこの間抜けさは……。

駄菓子屋、実質食べ放題

当たりつきといえば駄菓子だ。一口サイズのものがほとんどなので、ジュースのように途中でお腹がいっぱいになってしまうことはない(実は飲みきれずにカバンにしまっていた)。
江戸時代から続くという由緒ある駄菓子屋さん。
江戸時代から続くという由緒ある駄菓子屋さん。
せっかく駄菓子を買うなら駄菓子屋さんで、ということで池袋にある『上川口屋』さんへ。店主の女性に撮影許可をとろうとすると「はいはい、どうぞ」と言いながら店の奥に入ってしまった。店舗の撮影はOKだが、店主さんは写りたくないらしい。
地元に駄菓子屋がないので、漫画でしか見たことがなかった。
地元に駄菓子屋がないので、漫画でしか見たことがなかった。
「当たりつきってどれですか?」と尋ねると、きなこ棒とあんこ玉をオススメしていただいた。他にもコイン型のチョコレートや10円のガムなどを購入し、隣にある公園へ移動する。
公園でお菓子を食べるの、ひさしぶりかも。
公園でお菓子を食べるの、ひさしぶりかも。
「ざんねんでした」なぜか悔しい。
「ざんねんでした」なぜか悔しい。
これだけはっきりと「はずれ」と書いてあると、気持ちだけでごまかすのは難しい。

きなこ棒はつまようじの先が赤くぬってあれば、あんこ玉は中に白い玉が入っていれば当たりだと聞いたので、そちらを食べてみる。
あっ、これ、おいしい!
あっ、これ、おいしい!
あんこ玉を口に含んだ瞬間、意識しなくても笑みがこぼれる。噛むと甘さの塊が口内を支配して、甘いもの好きとしてはパラダイスだ。単純な暴力が一番強い。「これうまいわー」とあっという間に平らげてしまった。

あんこ玉の中には何も入ってないし、きな粉棒のつまようじの先は赤くなかった。だがそんなのはもう関係ない。今日は買ってもいい日なのだ。もう一本いこう。
当たった想像をしてガッツポーズ。よし、もう一本!
当たった想像をしてガッツポーズ。よし、もう一本!
すみません、また来ました。
すみません、また来ました。
再び駄菓子屋へ行き、あんこ玉二つときな粉棒三つを購入した。もし本当に当たっていたとしたら、一つしか貰えなかったわけなので、これは当たりよりも価値のある買い物ではないだろうか。なんてったって好きなだけ食べられる。
「もう一本」と買ったあんこ玉がおいしくて思わず笑顔。
「もう一本」と買ったあんこ玉がおいしくて思わず笑顔。
でもはずれてます。
でもはずれてます。
もう当たりとかはずれとか関係ない。食べたいものを食べたいだけ買うことの幸せがここにある。運のいい人は子供のころからこの味を知っていたのか……それはずるい。
当たりをひくと(当たってないけど)なぜかアホな顔になる。
当たりをひくと(当たってないけど)なぜかアホな顔になる。

ちょっと寒いけどもう一本

当たりつきといえば、やはりガリガリくんだろう。せっかくなので、「もう一本」の味をライターの江ノ島さんにも体験してもらうことにした。
コンビニでガリガリくんを購入。やっぱりソーダ味。
コンビニでガリガリくんを購入。やっぱりソーダ味。
まずは一本普通に食べてもらう。コンビニで買ったものをその場ですぐ開けてしまうのは、いかにも買い食いという風情があって良い。
「うまいけど寒いですね」
「うまいけど寒いですね」
「イタタタタ」と頭を抱える。
「イタタタタ」と頭を抱える。
食べている途中で江ノ島さんが「これだめだ」と言い出した。急に冷たいものを食べたので頭が痛くなったそうだ。いわゆるアイスクリーム頭痛というやつである。

嬉しいことのはずなのに、醸し出される罰ゲーム感。「すみません、想定外でした。もう一本はやめときましょう」と提案するも「食べます!」との答えが。なんと頼もしい。この人に頼んで良かったと心底思った。
「当たったのでもう一本です」と手渡すとこの笑顔。
「当たったのでもう一本です」と手渡すとこの笑顔。
笑顔でアイスを食べていると、それが自分で買ったものなのか当たりを引き換えたものなのかすっかり忘れていることに気付く。

もしかするとこの遊びの肝は、当たりをひくかどうかより、もう一本食べられることの喜びがメインなのかもしれない。普段は同じものを立て続けに食べることなどない。いつも食べているものを過剰にするだけで、そこには確かに非日常の興奮がある。
当たったつもりで写真を撮ると、なぜか妙に楽しい。
当たったつもりで写真を撮ると、なぜか妙に楽しい。
ふと冷静になって棒を見ても、もちろん当たってない。
ふと冷静になって棒を見ても、もちろん当たってない。

集めてないけど白い皿

祭りが始まります。
祭りが始まります。
最後は少し変化球で、パンだ。これにはクジはついていないのだが、パンについているシールを集めると白いお皿がもらえるシステムが存在する。かの有名なパン祭りである。
本来であればシールを25点分集めなければいけない。
本来であればシールを25点分集めなければいけない。
これが祭りの主役。
これが祭りの主役。
つまり、シールを集める過程をショートカットして皿だけを手に入れてしまおうという趣旨だ。パンと一緒に100円ショップで白い皿を買ってきた。
ちょうど桜が咲いていました。
ちょうど桜が咲いていました。
なるべくお祭り感のある服を着ようと、アロハを引っ張りだしてきた。
なるべくお祭り感のある服を着ようと、アロハを引っ張りだしてきた。
コツコツと集めなければ手に入らないはずのものを、一足飛びに手に入れてしまう快感。せっかくなので買ったパンを持って、外で食べてみる。

これが俺のパン祭りだ!
外で食べるパン、いつもよりおいしいぞ。
外で食べるパン、いつもよりおいしいぞ。
ただパンを食べているだけなのに、妙に楽しい。
ただパンを食べているだけなのに、妙に楽しい。

笑顔で写真を撮ると楽しい

最初は意識して笑ったりはしゃいだりしながらしていたのだが、「もう一本」を食べているうちにだんだん本当に楽しくなってきたから不思議だ。笑いは健康に良いなんて話を聞いたことがあるが、本当に効果があるのかもしれない。

しかし当たったことよりも、「もう一本」食べられることの方が重要だったような気もする。いつも一つしか食べないものを二つ食べるのは、かなり幸福な体験だった。幸せになりたかったら、当たりはずれなんて気にせず好きなものを好きなだけ買えばいい。…つまりお金があると幸せになれるということだろうか。それだとちょっと身も蓋もなさすぎるような。

「当たりの喜びを表現してください」とオーダーしたらいい写真が撮れた。
「当たりの喜びを表現してください」とオーダーしたらいい写真が撮れた。
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