特集 2016年8月21日

書き出し小説大賞 第105回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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オリンピックの最中、メダルラッシュに沸く日本。ところでいつから金メダルのことを「一番いい色のメダル」というようになったのだろう?それが日本人の奥ゆかしさ、とは思わない。過剰な謙遜はむしろいやらしい。もしかしたら金は金玉を連想させるからという異常な自主規制が働いているのかもしれない。それならいっそ「一番いやらしい色のメダル」でもいいのではないか……自分でもなにを言っているのか分からなくなった。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう。

書き出し自由部門

黙祷が終わり、財布が消えた。
大伴
首筋に滲む、樹液の様な汗を拭った。
merumo
両膝を蚊に喰われて以来、巨乳のことを考えている。
井沢
蝉を知るまでは、木が泣いているのだと思っていた。
village-bridge
31文字は、この夏には短すぎ、彼の生き様には長すぎた。
SOQ
昨日、ドナーと呑んだ。
義ん母
このヤギを交差点の向こう側に連れていかねばならない。
けー
「マシュマロボディ」という言葉は、奥多摩では全く違う意味を持つ。
梅肉
「都会の蝉は夜中にも鳴かはるのねぇ」そう言って夏子は曖昧に微笑んだ。
夏猫
私にはもう絡みにくさしか残っていないのです。
マークパン助
ちょうど今、隣の奥さんが怒り終ったところ。
xissa
錆びた弦が、だらしないCコードを奏でた。
unnnunn
最後の二択ははたして正解だったのか、うんざりするほど綺麗な夕日が問いかける。
連休ボナパルト
かわいさと挙動不審が溶け合って、そのひとは独特な魅力を放っていた。
東ことり
不倫の帰りは、熱せられた非常階段をゆっくりと降りるのである。
ボーフラ
砂浜に落ちていたトウモロコシの芯を見て、いい体になりたいと強く思った。
もんぜん
私は、緑色をした球体に向かって「誰か」と問うた。
げんぞお
私は吹き出しそうになり「だからカンカンに行ったんだ」父は微笑み頷いた。
次元三次
毎年同じタンスの裏からコオロギの鳴き声がする。
ぴすとる
パレードは汚い海をめざして進む。
Mch
夏らしい作品が集まった。大伴氏「黙祷が~」人は黙祷中目を閉じる者と薄目を開ける者に分けられる。merumo氏「首筋に~」カナブンが集まってきそうな暑苦しさ。刑事物の張り込みシーンに合いそう。義ん母氏「昨日、ドナー~」ドナーには飲み過ぎないで欲しい。けー氏「このヤギを~」どこか問題文っぽい理系な秀作。梅肉氏「マシュマロボディ~」なんだろう?腐乱死体のことだろうか?マークパン助氏「私にはもう~」切ねぇ告白w。東ことり氏「かわいさと挙動不審~」キョド萌え。げんぞう氏の「私は、緑色~」と次元三次氏「私は吹き出しそうになり~」はこの一文からなんの背景も読み取れない。が、だからこそつづきを知りたいという欲求を駆り立てる。読み手を拒絶(または無視)する手法は狙ってもできないし、狙わなくてもできない。両作は絶妙な着地をしていると感じた。ぴすとる氏「毎年同じ~」以前ヤモリを飼っていたときエサのコオロギが逃げたことがある。毎年ではなかったが数日鳴き声に悩まされたことを思い出した。

続いては規定部門、今回のモチーフは「夏の食べもの」だった。食欲不振に書き出し小説をどうぞ!

書き出し規定部門・モチーフ「夏の食べもの」

指輪は不意に、そうめんと共に流れてきた。
ぐぬぬぬぬ
腕にとまる蚊の、最後の晩餐を見つめている。
うぃけっと
そうだ、知覚過敏だったんだ。
ビールおかわり
下着ドロの影がゴーヤのカーテンに映っている。
ウチボリ
盗んだスイカは冷えてなかった。
TOKUNAGA
彼よりも、ラムネのビー玉が欲しかった。
小夜子
あの娘の浴衣の色は忘れてしまったが、イカ焼きの定義でケンカしたことは覚えている。
Mch
炎天下、白飯を手に鰻屋の換気口へと向かった。
g-udon
故障した機械から螺旋状に延々と零れ落ちるソフトクリームを店員が手のひらで受け止めている。目覚めると私は夢精していた。
菅原 aka $UZY
3代目カキ氷機が壊れた。
チチカステナン号
冷蔵庫のアイス食べたの、幕僚長っしょ?
morin
製氷器に水を足さなかった人、怒らないから正直に名乗り出てください。
茂具田
夜中の麦茶は受験勉強の味がする。
マユコム
ひと舐めしたアイスキャンディーを冷凍庫の中に立ててから、聞き込みに向かう。
松っこ
人を殺してきたらしいサイダー瓶が居間にある。
きょうこ
社会人2年目の今年、ポカリスエットのCMに共感出来なくなった。
五月雨のパンツ
ネクストバッターズサークルで、マスカットは素振りを始めた。
terayo
焼きそばの鉄板に焦げ付いた麺うまい。
ボーフラ
彼女が微笑んでいる。このシロップは、血なのだな。スプーンを置いた。
けー
「ブルーハワイとはどんな味か」とトムが、しきりに聞いてくる。
八王寺義昭
毎年、スイカジュースの企画があがり、消える。
卯村
ぐぬぬぬぬ氏「指輪は不意に~」数ある流しそうめんネタの中一等に輝いた。うぃけっと氏「腕にとまる蚊~」文意とは違うけどダヴィンチの最後の晩餐の構図で並ぶ13匹の蚊が浮かびました。ビールおかわり氏「そうだ~」そろそろ知覚過敏も味覚のひとつとしていいのではないだろうか。TOKUNAGA氏「盗んだスイカ~」どんなネタも文学的にしてしまう名人技。菅原 aka $UZY氏「故障した機械から~」こちらは相変わらずの変態ネタ。morin氏「冷蔵庫のアイス~」幕僚長って言いたいだけ、でもそこがいい。マユコム氏「夜中の麦茶~」出し過ぎて濁った麦茶もまたうまし。きょうこ氏「人を殺してきたらしい~」殺人、サイダー瓶、居間、意外な取り合わせが成功している。terayo氏「ネクストバッターズサークル~」振るたびに実がこぼれそう。ボーフラ氏「焼きそばの~」共感しかない。けー氏「彼女が~」かき氷に血のシロップ。なんてイカすビジュアル!満点。卯村氏「毎年、スイカジュース~」その通りなんだろうな、と思う。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「殺し屋」
殺し屋はフィクションにおいて、もっとも人気のあるキャラクターのひとつではないだろうか。さまざまな作品にさまざまな殺し屋が登場する。書き手側にとっても個性的な悪役の創造は楽しいに違いない。どんな風貌か、どんな性格か、どんな道具でどう殺るか、あなたなりの殺し屋キャラを誕生させて欲しい。締め切りは9月2日正午、発表は9月4日を予定している。下の投稿フォームから自由、規定いずれかを選択し送って欲しい。力作待ってます!
最終選考通過者

ねもっ血風クン/八重樫/カミハリコ/prefab/たならっこゆ/suzukishika/正夢の3人目/吉田髑髏/ミルワーム/まじいい///にら将軍ハルナ/雨の日は寝る/プレミアムバザー高田/中古松/
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