特集 2016年4月28日

大切なことはクイズ作りが教えてくれた

個性あふれる問題の数々。
個性あふれる問題の数々。
私が勝手に心の中で『クイズの師匠』と呼んでいるクイズモンスター・古川洋平さんがこの度本を出版した。
出版記念イベントとしてサイン会およびクイズ作り講座を開催するという。

サイン会はともかく 『クイズ作り講座』って何だ。
さっそく行ってみることにした。
1980年北海道生まれ。
気が付くと甘いものばかり食べている偏った食生活を送っています。


前の記事:マンガコンシェルジュにマンガを選んでもらいたい


「クイズ作り講座」に参加した

そんなわけで、クイズ作り講座である。
取材と言いつつ普通にチケットを購入してイベントに参加しているため、やる気満々である。私はクイズでの勝利に飢えているので一矢報いるチャンスを常に窺っている。
クイズ解答のセンスがなくても、問題作りで意外な才能を発揮するかもしれないではないか。
会場の様子。
会場の様子。
カメラの設定と私の写真の腕のせいで古川さんに後光が差しすぎておかしな感じになっているが、ぎっしり席の埋まった会場の雰囲気は分かっていただけただろうか。

本のなかでは作り手・読み手・聞き手それぞれの視点が書かれていたが、この講座は作り手の視点を中心にクイズ作り、特に早押しクイズの問題作りを解説するものだった。
早押しの申し子・古川さんらしく、題材は『早押しクイズ』。
早押しの申し子・古川さんらしく、題材は『早押しクイズ』。
4つのテーマごとに問題作りを学ぶ。
4つのテーマごとに問題作りを学ぶ。
ここから先の画像はほぼスライドの画面になってしまうが、ご了承いただきたい。

大切なことはクイズ作りが教えてくれた

事前にTwitterで募集した問題をもとに講座は進んでいくのだが、どのテーマも大変に面白く、中にはクイズ作りということのみならず日常生活の中でも意識したいことがいくつもあった。

たとえば、テーマ1「限定」と「前フリ」。
よくない例。
よくない例。
念のため説明すると、これは限定と前フリを分かりやすく説明するための例であり、「あしゅりん」さんがこんなにざっくりしすぎた問題を作ったわけではないそうだ。
良い例。
良い例。
とても良い例。
とても良い例。
答えが限定される条件を付けなければクイズとして成立しない。
たまに試験問題で解答が複数出てしまうため全員正解になることがあるが、クイズでもそういったことがないように気を付けなければならない。当たり前だが、意外と気にしていない人が多いことだと思う。
そして、「本来はオオウミガラスを示す名前」という豆知識的な前フリにより、それを知っている人はすぐに反応できるし、知らない人も「マカロニやコウテイ」という限定条件で答えられるというとても良いクイズが出来上がる。
ほら、たまに質問する時に何て答えたらいいのか分からない漠然とした聞き方をする人いるじゃないですか。お前の年齢答えさせる前に、子供の頃好きだったマンガとか芸能人とかいっそ干支とか、ヒント出せよって思うじゃないですか。

すみません。取り乱しました。
とにかく、そういう人にも是非クイズ作り講座を学んでほしいものである。

特に私が身につまされたのは、「テーマ3 より良いクイズの作り方を知ろう」だ。
4つの項目から解説されるテーマ3。
4つの項目から解説されるテーマ3。
(1)面白い題材を見つけよう
(1)面白い題材を見つけよう
スライドには書いていないが、「マニアックなだけではなく、なるほど!と感心できたりクスッと笑えたり、何らかの『気付き』があるとよい」ということだった。
この話を聞いていて、ちょっとドキっとした。
クイズ作りではもちろんのこと、記事を書く時にも必要な要素だと思ったからだ。
私の記事にはたして「共感」や「気付き」があるのだろうか…と考え出すと怖くなるので途中でやめたが、来月からは気を付けます。
(3)何を答えさせたいかを明確にしよう
(3)何を答えさせたいかを明確にしよう
前半のふたつの例はどちらも作品の羅列から始まるが、これでは問題を最後まで聞かないと作品名を答えるのか作者を答えるのか判断できない。
冒頭に「代表作に」と加えると、作者が答えであるとすぐに分かるようになる。
(4)早押し技術の妨げになる表現を使わないようにしよう。
(4)早押し技術の妨げになる表現を使わないようにしよう。
一見違いが無いように見えるが、「では」がネックである。
無くても意味が通じる余計な言葉が入ることで、早押しのタイミングを遅らせてしまうからだ。
(3)と(4)に共通するのは分かりやすく簡潔に解答へと導く聞き手への心遣いだが、それは記事を書く時もそうだよな…と考えさせられた。
記事の場合、簡潔に結論を書かずに最後まで引っ張るというのもアリだが、どちらにしても何をやりたいのか明確にするというのは重要だ。


でも、よく考えてみるとこれはクイズ作りや記事を書く時だけでなく、日常生活のコミュニケ―ションでも必要なことじゃないのかという気がする。
たとえばまだそれほど親しくなっていない人と雑談する時、誰にも分かりやすく共感を得られるように天気やテレビの話題を出す。
仕事の報告をする時、問題の所在や結論を明確にして報告書を作る。
当たり前のことだが、実際には意外と出来ていなかったり、いざやろうとすると結構難しかったりするものだ。

クイズ作り講座を受けているはずが、日頃のコミュニケーションや仕事のダメな部分に気付かされる羽目になった。なんて日だ。
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個性の出る問題作り

そんな反省はさておいて、このクイズ作り講座を経て作られた受講生たちのクイズ問題を見てみよう。
イベントの最後に「自分の好きなもの」という題材でクイズを作問して提出、その中から感心するものやクスっと笑えるものが選ばれて発表されたのだが、どれも講座の成果が存分に発揮されたおもしろい問題ばかりだった。
その中で特におもしろいと思ったものを紹介したい。
好きなもの「変態」。
好きなもの「変態」。
まず、好きなものの選択がすごい。
そして、「好きなものは『変態』」と読まれてからの問題の普通さに驚かされ、答えを聞いて「そういえば昔、理科で習ったな」という共感や気付きがある。
完全変態とか不完全変態とか習いましたよね。懐かしい。
好きなもの「クイズ番組」。
好きなもの「クイズ番組」。
イベント開催日が4月14日だったのだが、日付にちなんだ問題を好きなものとさり気なくからめて出題するところにテクニックを感じる。
『アタック25』でよくありますよね、日付に関する問題。
ただ、日本初のクイズ番組が何かというのは諸説あり、そこが問題としてネックになっているとのことである。
好きなもの「ネット雑学」
好きなもの「ネット雑学」
3月に公開されたサイトという点で時事性があるところと、『HOPE』と答えさせるために問題文の中に「彼女の希望を託して~」とさり気なくも大胆にヒントを散りばめているところに感心させられた。
好きなもの「言葉」
好きなもの「言葉」
古川さんに著書について話をうかがった際「誰もが知っていることを新しい視点で作問するのは難しい」という話を聞いたが、これはその感覚に近いのではないだろうか。
Bluetoothの接続もカップルの指輪も単体ではクイズにするほどの難しい言葉ではないが、組み合わせることで「そういえば意味は全然違うのに同じ言葉だな」という発見があっておもしろい問題だと思った。
好きなもの「セクシー女優」
好きなもの「セクシー女優」
特に共感や気付きがあるわけではないが、セクシー女優・上原亜衣さんの経歴が羅列された問題からしてこの人は本当に上原さんのことが好きなんだろうな…と思う。
「この人はこの分野が本当に好きなんだな」ということは分かるがあまり共感はできない、デイリーポータルZの記事っぽい問題だと思うのだがいかがでしょうか。
好きなもの「本屋大賞」
好きなもの「本屋大賞」
イベント中に夏目漱石の三部作に関する例題が出たが、それをからめて問題にしている。
『三四郎はそれから門を出た』『舟を編む』の著者は知っているが、私にはこの問題は作れなかった。知っていること同士をリンクさせて問題に発展させる発想力は見習いたい。
好きなもの「陸上」
好きなもの「陸上」
問題文で1位を出して2位を聞く問題はよくあるが、それが1位の選手の父親だというのは珍しいのではないだろうか。
ハンマー投げの日本記録保持者は知っていたが、2位がお父さんの室伏重信氏とは知らなかった。日本のハンマー投げ界が、ここまで室伏家に支配されていたとは驚きである。

ちなみに、私や写真撮影をしてくれた取材同行者も問題を作っている。
同行者の問題はこちらだ。
好きなもの「ウィキペディア」
好きなもの「ウィキペディア」
好きなものや問題の選択に溢れ出る個性を隠しきれていないため、問題を見て同行者が分かってしまうだろうが、ライター西村まさゆきさんである。
作問のためのネット検索はOKだったので、かなり悩んだ上真剣に調べてこの問題を作り上げていた。
問題作りに没頭する西村さん。
問題作りに没頭する西村さん。
この問題については、古川さんも「これはおもしろい問題ですね」と好感触だった。

そして、私である。
テーマについて悩むおおた。
テーマについて悩むおおた。
ニヤニヤしているのは、テーマが「好きなもの」だったため、好きなものについて考えていたらそうなってしまっただけである。
ドーナツにするかBLにするか何にしようか…と悩んだ末、こうなった。
好きなもの「プロレス」
好きなもの「プロレス」
やはり「共感」という点からいけばジャンルはプロレス以外ないだろう。
そう思ったのだが、古川さんの評価は「『麺ジャラスK』まで言っておいて、聞くのは『デンジャラスK』か!」というツッコミ混じりのもので、共感要素はあまり無かったようだ。
問題作りの道は高く険しい。

そして、『現在』と書いたつもりが間違って『現代』と書いていることに今気付いた。
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クイズ指南書

黄色のカバーに黒い文字が際立つ『クイズ虎の巻』
黄色のカバーに黒い文字が際立つ、4月12日に発売された古川さんの著書『クイズモンスター・古川洋平のクイズ虎の巻』
クイズ関連の書籍は問題集のようなものが多く、中にはクイズに解答する際のポイントを解説するものあるが、解答者が求める情報が載っている書籍が多い。
この本のおもしろいところは、クイズの作り手、読み手、聞き手の三者の視点別にクイズを紐解いている点だ。
これからクイズを始めようという初心者にも、解答するばかりでなく作問にも挑戦していきたいというクイズ経験者にも、是非お勧めしたい一冊である。

しかし、こんな詳細にクイズを解説してしまうなんて、自分の強さの秘密をばらすようなものではないのか。
古川さんに聞いてみた。

――こんなに分かりやすく自分の手の内をさらしてしまって、仕事に影響しませんか?
「この本は、これまでクイズプレイヤーたちが暗黙の了解のうちに行ってきたルールを明文化したものです。料理でいえば基本のレシピ本のようなもの。
それを読んだからと言って誰もがプロの味を出せるわけではありませんので、そういった心配はしていません」
サイン会での古川さん。かなりの長蛇の列でした。
サイン会での古川さん。かなりの長蛇の列でした。
――確かに、同じレシピを見て作っても、初心者が急にシェフレベルのものは作れないですもんね。今回本を出版するにあたって、意識したことなどはありますか?
「いかにクイズ用語を出さずに分かりやすく説明するか、ということです。『○○大会のあの問題の~』と説明するとクイズ経験者にはすぐ分かるという場合がありますが、クイズ初心者にも親切なつくりにしようと意識して書きました。」

――クイズ好きなら誰もが楽しめる内容だと思いますが、読者として一番気にしたのはやはり初心者なのでしょうか?
「今まで文章化されていたなかったために、初めてクイズ大会に参加する初心者が戸惑ったり尻込みしてしまったりすることも多いので、これを読んでルールを理解すればもっとクイズを楽しめるということを感じてもらいたい。そうやって、クイズの裾野が広がっていってほしいと思っています。
後ろの物販の人の手が高速で動いているのが気になる。
後ろの物販の人の手が高速で動いているのが気になる。
――この本を出版するにあたっての理想などはありますか? 100万部突破とか。
「簡単なものからちょっと難しいものまで1000問のクイズも掲載しているので、理論部分を読んでから実際に友達同士で問題を出し合って楽しんでもらえたら嬉しいです。100万部売れたら、それももちろん嬉しいですけど」
長蛇の列の一番最後に、私もサインしてもらいました。
長蛇の列の一番最後に、私もサインしてもらいました。
サインがかわいい。
サインがかわいい。
ちなみに、1000問の中で一番お勧めの問題はありますか?と聞いてみたところ、お勧めされたのが11問目だった。
ヤンキーの『ウンコ座り』は和式か洋式か? という問題。
ヤンキーの『ウンコ座り』は和式か洋式か? という問題。
誰もが答えられるような簡単な問題は作りつくされてきた感があり、新しい視点でも作問するのは意外と難しいという。
そんな中、この問題はまだ作られたことのない視点、誰でも答えられる難易度という二つの点をクリアしていてお気に入りの一問だそうだ。

大切なことを学んだ気がする

同行の西村さんも「クイズ作り講座だけど、記事を作る時の参考になる視点が多かった」と話していた。今後西村さんの作風が変わったと思うことがあったら、それはクイズ作り講座の影響かもしれない。
クイズ作りの意外な才能などは無かったが、私もとても楽しめたし勉強にもなった。

友達同士でクイズを作って問題を出し合って遊んでみると、意外な発見や気付きがあって面白いと思うので、皆さんも是非お楽しみください。
物販コーナーにあった「かんたんクイズ」がおもしろくて買ってしまいました。
物販コーナーにあった「かんたんクイズ」がおもしろくて買ってしまいました。
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